第19話 シットダウン

m(_ _)m



 エ、いっぱいのお運び、ありがとうございます。



 今は座っておりますが、かなり眠くて眠くて、しょうがなかったりします。横になりたい。すみませんねぇ。いやあ、あったかい布団が欲しい。



 最近、あちらこちらで、小説書籍化の話を聞きますな。

 WEB小説ってぇのが流行ってるみたいでして。



 そりゃあめでたい! 買って読んで応援しようってな気持ちと、なんでいこのやろちくしょうめ、なんで俺のは駄目なんだ、ってな嫉妬とが入り交じる。それが人情。



 別に変わった事言うつもりは無くてよ。嫉妬はある意味、魔物だねぇ。



「ポチよ、おすわり、Sit down」と飼い馴らしゃ、自分を先に進めてくれる。

 呑まれちまえば、相手も自分も傷つける。

「右手の魔物がうずくぜ」なんて言い出せば……中2病だわな。



 結局よ。自分がうまく行ってりゃ、他の人のも素直に祝福できんだよ。「お互い良かったですね」でまーるく収まる。



 しかし、世の中そんなに甘くない。

 うまくいく奴と、そうじゃない奴が出るのは当たり前。



 そんな時、どう考えてどう行動するか、ってのにも、個性が出てサ?

 鑑定士の世界も、同じなんですなぁこれが。

 


「おはようございます」

「お、若気君、おはよう。っていっても、もう午後だけど。眠そうだね?」



「薄井先生すみません。夕べちょっと、飲み会で……」

「連絡もらってるから大丈夫だよ。酒が飲めるのはうらやましいね。私はビール1杯でもうダメだから」



「体質ってあると思いますし。……ところで、今日は事務所に、まだ誰も来てないんですか?」

「そうなんだよね。宗谷さんまで来てないんだ。若気君と同様、半休でね」



「未来先輩の方ですか?」

「そうだね。おじさんの方の宗谷先……さんは、奥で酔って寝てます」



「ははは。あいかわらずですね。……でも、未来みく先輩が朝から居ないってのは珍しいですね」

「まぁ……二次試験の合格発表見に行ってるんだけどね」

「あっ。発表、今日でしたか」



 二次論文試験の合格発表がサ?

 午前10時頃に、特許庁ロビーの掲示板に張り出されるのは、特許庁が霞ヶ関にあった頃と変わっていなくてな? そして、午後になると、特許庁のウェブサイトにも公開される。でないと、遠くに住んでる人が見れないから。



 マ、結果は少しでも早く知りたいってのがフツーだわな。未来先輩は、自分の合否を見に行ったわけだ。



「どうだったんでしょうかね……?」

「ウェブサイトの方、見てみる? 若気君」



 と、至と薄井先生の二人でパソコンを覗いてみるってーと。



 未来先輩の受験番号が……。



「あ……」

「ありゃま、残念」

 ないんだなこれが。はいはいお疲れご苦労さん。来年またやり直し。



 そしたら事務所にな。くだんの未来先輩が現れた。



「遅くなりました」

 未来先輩、笑ってるねぇ。顔に貼り付けたようにサ。



 試験結果をウェブで見て知ってる至としちゃあ、なんとも声がかけづらい。そしたら事務所の奥からドンッ! ゴソゴソと大きな物音。ははーん。おいちゃんこと、宗谷雪車夜そうや・そりや先生が、飛び起きたな?



 やってきたおいちゃんは、顔がニッコニコしてまして。

「未来ちゃんお疲れ! 試験どうだった?」

「……申し訳ありません。ダメでした。ゼミの同期は受かってたんですが……」



「あらま」

 と、雪車夜センセは、一言サラッと感想を述べて、またも事務所の奥に引っ込んだ。そのまま、いびきの音が聞こえてきてサ? なんだい! 薄情なおいちゃんだねぇ。



 何て声をかけていいか分からない至がサ?

「ええと……」

 とモジモジしてるってーと、今事務所に居るもう一人の先生。薄井存在うすい・そんざい先生が話しかけたね。



「ダメだったみたいだね。宗谷さん」

「はい。申し訳ないです」



「じゃ、来年は一次試験から?」

「いえ。一次は今年合格しているので、来年はシードで二次からです」



「了解です。とりあえず休んで」

「はい」

 と未来さんはペコリとした。

 


 薄井先生も、コメントだけ残して、仕事に向かった。



 これに憤慨したのが、若気の至だ。

 なんだよなんだよ! 有資格者が2人もそろって、冷たい物言い!



 口に出してはこう言った。

「先輩、大変でしたね。お疲れ様でした。来年にはきっと受かりますよ」



「……そうだといいね」

 笑った未来先輩は、すぐに仕事にとりかかった。いやあ、いつも以上のテキパキとした仕事っぷり。今日の今日だってのに、メンタルがつよいねぇ。



 あぁこれなら安心だと、至はほっと胸を撫で下ろした。



 ところがどっこい。未来先輩はこの後すぐ、「コンビニでお茶買ってきます」とか言って事務所を出て行ったっききり、しちまうんだな。



 か何かで、心がしちまったんかねぇ?



m(_ _)m

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