第15話 酒の席には爆弾発言

m(_ _)m



 エ、今日もおはこび、ありがとうございます。少なめですが。



 毎度、のーんびり話しとるから、ちょっと刺激が少なめですな。

 今はこう、エンタメにあふれた時代でさ? 爆発やらエロやら殺戮なんかが求められる。



 そんな中ぁ、こうしてアタシの話聞きに来てくれる人にゃ、ほんと、ありがたいの一言だねえ。いつもありがとうございます。



m(_ _)m



 さて、箸置き1つで、法の保護話が咲き誇った酒の席も、有資格者の薄井存在うすい・そんざいセンセが、酔ってアッサリ寝ちまって。生き残り3人になったあたりから、話題が変わってな?



「あいかわらず、酒飲むとすぐ寝るなぁ存在センセは。からかい甲斐がないよ」

「薄井先生、ビール最初の1杯で、もう顔真っ赤になってましたもんね」

「おいちゃんがペース考えずに飲ますからだよ! もう」

「だってさ。面白いんだよね。存在センセに演技させるの」

「それはわかるけどさー。ふふっ」

「じゃ、次は、期待の新人、若気至先生に、注文をお願いできるかな? それとも未来ちゃんがやる?」



「あ、僕がやります……店員さーん。ちょっとちょっと……と、メニューをめくり、『飲みたいでござる! 絶対に飲みたいでござる! そして、もう働きたくないでござる!』」

「ありがとうございます! 日本酒『剣心』いっちょ! 」



「『なんかさー、今日の合コン、暗い男ばっかでつまんなくなーい? 次はカラオケ! とか言ってるけど、どうせ自己満の高音張上げとか聞かされるんでしょー? このへんで帰らなーい?』」

「はい喜んで! 生搾りレモンサワーいっちょ!」



「『能書きはいい。標的ターゲットの情報をくれ。報酬は、スイスの銀行に振り込んでくれれば良い』」

「シングルモルトウイスキー、余市ですね! 飲み方はいかがいたしましょ!」

「『い、いくらあなたでも、南極の氷の下から標的を狙撃するなんて!』『相手は邪神ですよ?』『で、出来るわけがない……』『俺を誰だと思っている? いいから情報と金だ』」

「ロックですね! 承知しました!」



「至くん、結構演技、上手くない?」

「そ、そんなことないですよ、先輩」

「いやいや、日本酒の時なんか、真に迫ってたよ? ねぇ、おいちゃんもそう思うでしょ?」

「ホントに働きたく無いんじゃないか? いい声優事務所知ってるけど、どうする? 転職する? 若気くん」

「転職するなら、遊び人が良いです……」



 とまぁ、和やかに進んでく。



「おいちゃん。旅行先の、宇宙ゴルフはどうだったの?」

「んー。途中までは、スイングバイもうまく使って飛距離も出して。パー・セーブしてたんだけどさ。後半ホールでブラックホールに突っ込んじゃって。OBなOB。そっからはもう、散々だったね」

「あらま」

「砂の惑星にも何度か落としちゃってさ。脱出も、ちっと手こずったなぁ」

「バンカーショット苦手だもんね、おいちゃん」



「あの……なんの話ですか?」

「ん? そっか。若気くんは、宇宙ゴルフはやったことないか。いいぞー? 異星人の社長とかとも知りあいになれるし、なにより規模がデカイからね。宇宙をゴルフコースに見立ててプレイするから」

「ほ、ほえぇ……」



 なーんて感じのな? おいちゃんの土産話を聞いてるうちに、いつの間にやら、もう夜中になっちまった。



「あふ……あたしそろそろ眠いかな……」

 未来先輩はあくびをしだした。薄井先生は最初っからいびきをかきっぱなし。



「あ、はいはい。じゃあ起きる気配の無い存在センセと一緒に、お家に返しますか。……ほい。入口に人工知能タクシー、呼んどいたから」

 と、雪車夜のおいちゃんが、スマホを出した。



「あの、そろそろお開きにして、お二人を家まで送った方が……」

「ん? 若気くん、大丈夫大丈夫。自動運転レベル10の、安全なやつだよ? 要人警護にも使えて、ロボット運転手がお家のドアまでエスコートしてくれるやつね」

「ロボット運転手付きは、かなりお高いのでは……」

「俺のカードで決済しとくから大丈夫だよ? ま、存在センセを、店の外まで運んでいくのは俺らでやるか。ロボ代わりにさ。若気くん」



 まぁ、そんなこんなで、無人AIタクシーを呼び寄せて。存在センセと未来ちゃんを乗せて。見送って。男二人で飲み直し。と、そうなったわけだな。



 二軒目の店は、ガヤガヤとした串焼き屋で、いわゆる「1000ベロ」系のとこだった。1000円でベロベロに酔えるとこな。酒臭くて、ネクタイ取っ払ったリーマンが、ぎゅうぎゅう詰めの所に割り込んでな。かなり庶民的だね。アタシが棲家にしたいくらいのとこ。



「地球に戻ったらさ。こういうとこも行っときたいんだよね」

 と、宗谷雪車夜そうや・そりや先生は、銘柄の無い日本酒の入ったコップをあおったね。



「どうしてですか?」

 パートナー鑑定士の雪車夜先生なら、もっと良い店で飲めそうなものなのに? そんな心境が、至の顔にベタッと貼り付いててな? なんせ、「偉くなりたい! 偉くなって、別れた彼女を見返してやりたい!」ってな、若気の至だからなぁ。



「地球の現状を把握するのと、あと……驕らないためさ」

「はい……」

「あ、勘定の話じゃなくてね? 鑑定士が驕ってしまうと、目が曇るから……しかし、相変わらずうるさいなぁこの店。へへへ」

「曇る……」

 至は、ぽかーんとした表情になったね。



「まだ資格に染まっていない若気くんなら、伝わるかなぁ? 先生、先生って呼ばれていると、人はだんだん、『自分は偉い人なんじゃないか』って錯覚し出すんだよ。そういうセンセを、俺は沢山見ててさ」



「そ、そうなんですか……?」

 実際、有資格者なんだから、それでいいんじゃないか? そんな事を、至は表情で語ってた。



「ああ。マークシートやら論文やら口述試験やら。そんなもん突破したところで、人格が陶冶とうやされるわけじゃない。能力と忍耐力が一定以上有ります、って証明にしかならない。なのに、勘違いするんだな。人には承認欲求があるから」



「……それで、先生と呼ばれるのが嫌なんですか?」



「まぁね? ガラじゃないのよ正直。たまたま受かって、やりたいことやってたら、たまたま今に至るって、そんだけ」



「はあ……」

 そんな生返事を、至は返した。

 もっとカッコ良く、華やかな資格者を想像してたんだろうなぁ。そういう男に自分もなれたら、元カノに振られる事も無かっただろうに……ってな具合でな。



「ま、先生っても、いろいろだからね。プライドを武器にして、どんどんのし上がっていく先生も居るし、それが実際、王道だ。ただ……」



 と、おいちゃんは真面目な顔になって、まっすぐ至を見つめて、こう言ったんだな。



「『こんな事も知らないのか?』って、相手を見下す感情は、相手には確実に伝わるからね?」

 まるで、ヨジゲンさんとこでの至たちを、見透かすようにね。



 ……ア、そだ。刺激が必要なんだった。

 


 どっかんどっかん。

 爆発オチでございます。


 

m(_ _)m

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