第12話 金フィルター

m(_ _)m


 

 エ、今日もおはこび、ありがとうございます。



 どうも人間にゃ、「フィルター」ってもんがあるようでして。色眼鏡って言ってもいいかも知れない。同じ物を見ようとしているはずなのに、お互い、全く違う受け取り方になっちまう。自分の好きな部分しか、頭に残らないんだな。



 でサ? 育ってきた環境も、立ち位置も違うとくりゃ、まぁ食い違いの元だわな。

 世界に一つだけの流行りが好きだったり、元々特別なセロリを求めたり、なっちゃうわけ。なんだそりゃ。



 ま、だからおもしれえんだけどな。

 今日はそんなお話。



 至の先輩、未来さんが「この、請求項1に記載の物質についてですが……」と、書類をめくろうとする時。ヨジゲン株式会社の社長、次元四郎じげん・しろうが、ストップをかけた。



「この1ページ目、出願人が『会社』になっとるやん。『ヨジゲン株式会社』って書いてある。これ、おかしない?」



「と、いいますと?」

 未来さんが穏やかに聞き返した。そしたら……。



「マイクロダイソン球は、ワシが作ったんだから、出願人、ちゃあんとワシと書いといてくれないと困るわ」

「あ、それでしたら、発明者の欄に、次元様のお名前が記載されておりますね」



 うん。確かに。



 特許出願人:ヨジゲン株式会社

 発明者:次元四郎


 

 って書いてあるねぇ。未来さんの言うのは事実だね。

 


「いやいや、出願人の方もワシにしてもらわんと」

「えっ? この記載ぶりからすると、特許を受ける権利は、会社に譲渡したんじゃないんですか?」

「なんじゃそりゃ? 受ける権利? 知らんで? そんなん」

「えっとですね……」



 あちゃー。どうやら、話の食い違いが起こってるな。



 そもそもこの書類、未来達が書いたモンじゃない。『書いた人に聞いてくれ!』ってのが未来さんの本音だろうが、おそらくここをクリアしないと、本題に入れない。ちゅーわけで未来みくさんは、そのへんを社長さんに説明したわけだ。

 


 発明を完成させると、発明者にゃ、「特許を受ける権利」ってのが発生する。要は、特許出願して、最終的に特許をもらえる権利だな。



 発明者とまったく関係無い人が権利者になったらズルいだろ?

 なので、受ける権利を持ってない人の出願は、特許法第49条第7号で拒絶される、とまぁ、法律はそうなってる。



 だから、会社が特許を得たいなら、発明者から、その「特許を受ける権利」をもらわなきゃいかん。



 まぁその辺が実はごちゃごちゃで、勤務規則がどうなってるかでも違ってくるし、対価の定めが云々とか、そもそも最初から、会社が出願人になれる場合もあるとか、こう複雑になっとる。職務発明ってやつだな?



 ……まぁ、未来さんは、そのへんを丁寧にに、説明しようとした。予約承継がどうとか。そんな呪文みたいな話をな。



 そうやって、丁寧にしゃべりたくなる、ってのも人情だ。

 なんせ、未来が取得を目指してる、地球外技術鑑定士の試験。その最終テストは口述で、まさにこんな感じで、お客の質問に答えられるかがチェックされる。頭が良くても、コミュ力不足のお勉強バカだと、試験の最後に泣きを見るように出来てる。



 だからだろうねぇ。未来さんが説明を頑張りちまったのは。

 


 実際、次元社長はずっと、テーブルを爪で、とんとんとんとん叩いてた。あ、こりゃ何かのサインだな。



 社長にしてみりゃ、そんなごちゃごちゃした話、興味も無いし、頭にスッと入ってくるわけもない。「俺の物は俺の物!」って欲で、頭がいっぱいなんだからなぁ。出願書類出すときに、書類を書いた人工知能が、しっかり説明したはずなんだがな?



「次元様、従業員がした発明について定めた、契約、勤務規則等はありますか?」

「わからんなぁ? そういうのは、先に言うといてもらわんと」



 ン、ンンー。そんな感じで、会話は食い違う。



 こりゃあまずいと、若気の至が口を挟んだ。隣に座った未来先輩に、助け舟を出そうとしたんだな。

「ところで、社長。『無酸素雰囲気下において所定の時間が経過した後に物質透過性を失う材料』の入手経路を、教えていただけませんか?」


 

 そしたら次元社長、腰を椅子からスッと浮かせて前のめり。目を大きく見開いて

「そんなの、企業秘密に決まっとるやろ? 真似されたら困るわ!」

 


 一喝! って感じでな。こええこええ。



 至は、初級ゼミの、江口先生の教えを思いだす。

 特許法は「発明を公開する代償として、独占権を与える制度」だ。

 とすると、発明の肝を公開せずに、権利だけよこせというのは、どうにも虫の良すぎる話なのではないか?



 至のそんな疑問が、ストレートに、言の葉に乗っちまったね。

「そのあたりを公開しないと、特許にはならないと思いますが……」



 そしたら社長は切り返す。

「ほな、聞くけど、入手経路を公開したら、特許がもらえて、マイクロダイソン球、ワシが独占出来るっちゅうことでええんやな?」

「それは……」

 至は言葉に詰まった。



 今度は、未来先輩が助け舟を出す。二人で来といてよかったねえ。



「いえ、特許には審査がありますから、確実というわけには参りません。しかし、重要な論点であることは確かです。現に審査官が通知をしてきてますので。この物質の出所、お教えいただけませんか? 我々は秘密保持義務を負っておりますから、ここでお話しになっても、秘密が外部に漏れることもございませんし……」



「……絶対しゃべらんといてな? 宇宙ゴルフをしに、ナシキロン星に行ってきてな? そこで見つけたんや。あっちではこの岩だらけらしくて、宇宙船にぎょうさん積んで持ってきたんやけどな」



「そうですか……」と、未来先輩は黙って受けた。


 

 しかし至は、素直に言った。

 っちゅーか、言ってしまったんだなぁ。法律の部分になるよう、フィルターをかけて。



「それだと、特許になるのは難しいでしょうね」



「はあ? なんでや?」

「アウターアートが混入してると、権利にならないんです」



「なんやそら! 今日び、宇宙船が仰山ぎょうさん飛んどんのやぞ? ブツがどこのモンかなんて、どうでもええことやん! 使えるモンは使う。出来るだけ安く仕入れる。そんだけのことやし、周りだって同じことしとるで? それが当たり前やろ!?」



「で、ですが、特許法で……アウターアートの混入の場合は拒絶……」

「だから、んな小難しい話、知らんっちゅーとるがな。ええか? あんちゃん。ウチの家庭用マイクロダイソン球はな? ワシや従業員が、汗水たらして作ったもんじゃ。それが認められんっちゅーなら、それはそもそも、法がおかしいんとちゃうか? だから」



 次元社長は、お茶をズズッと一口飲んで、ブハッと息を吐いてから、



「ちゃちゃっと、特許にしたってーな。金は払うんやから。このあと大体的に宣伝したいねん。『うちのこの製品、特許でも認められたすごい技術やで』ってな具合でな?」



「……持ち帰って、検討してみます……」

「たのむなー」



 と、プレッシャーを受けつつ、未来と至は、ヨジゲン株式会社を後にした。



 まぁ結局……理屈フィルターより金フィルターの方が強い、ってことですな。



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