第13話 雪車夜のおいちゃん
m(_ _)m
エ、今日もおはこび、ありがとうございます。
寒くなってきましたねぇ。こう、アタシが飲む日本酒も、そろそろ、燗に変わる時期。こういう時期は、料理が上手くなります。鍋とかもいいですな。
だいぶ前に、「アウフヘーベン」なんて言葉が流行りました。
ある人から見りゃ四角、ある人から見りゃ円。これなーんだ? って考えると、円柱になるって寸法。ア、確かに円柱を、横から見りゃ四角く見えるし、上から見りゃ、円に見えるわな。テーゼとアンチテーゼをどかんとぶつけて、ジンテーゼってのにするらしい。
じゃあ、それを現実に出来るのかねえ?
例えば政治。例えば法。挑んでる人は、凄えと思うがね。
さて、至と未来は、しばらく無言で、中野ミルキーウェイの3階辺りをうろうろしてた。あちこちの店を迅速に冷やかし、ガチャガチャを2回やった。カプセルを開けずに5階に登り、『どこでもぶよぶよ空中浮遊温泉』、『バイオマスオ発電セット』なんかを軽く物色してから外に出て、アーケードをぷらぷら歩いてカフェに入った。
「何もわかってないんだから! あの社長さん!」
アールグレイティーを飲みながら、未来さんの怒りが爆発したね。
宇宙から輸入してきた面白ドリンクを頼む余裕もなく、フツーのを注文したんだな。
「あたしたちは、何も難しいことは言ってない。産業の発達の観点から、法はアウターアートを保護対象から除外している。だから権利化できない。これだけのことが、なんでわからないの!」
無理難題を言いやがってふざけんな! って、地団駄を踏む勢いだねぇ。
「すみません……」
と言う至も、顔はゆがんでてさ。口を挟んでしまったからだろうなぁ。
「あたしが所長だっら、この案件、断れるのにねぇ……」
とか毒を吐きつつ、事務所に戻った2人は、まぁ、怒られるわな? 2人の上長、
「あのね、若気君。特許になるならないを、断定的に言っちゃダメですよ」
「申し訳ありません。……ですが、地球産じゃないのが明らかなわけですし」
「それを判断するのは、若気くんですか? 違いますよね? 審査官さんですよね?」
「それはもちろんその通りですが、あたしも至くんと同意見でして……本件については、結果は明らかかと」
「……もういい。君ら二人だけで行かせたのは、間違いだったようだ」
存在先生は、口を閉じ、別の作業に取り掛かってしまった。強引に話を切られた感のある至と未来は、納得の行っていない体だね。
その時。事務所の扉がどん、と開いてな?
「どもども。みなさんお疲れー」
「雪車夜おいちゃん!」
宗谷未来のおじで、この事務所のパートナー鑑定士でもある、
「はい、おみやげ」
「今回は、なんです?」
「『白々しい恋人』っていう、シグマ星のおまんじゅうだよ」
「えっ? おいちゃん、アルファ星に行ってきたんじゃなかったの?」
「いや、メールシュトロームでアルファ星に向かってたんだけどさ。なーんか、シグマ星に行っちゃって」
まぁ、パートナー鑑定士ともなると、金回りは良いわなぁ。おいちゃんはベンツに乗ってた。とある外国企業が、外星と提携して作った、地球人用にローカライズされた「メールシュトロームベンツ」って名の宇宙船でな? 渦巻きみたいな形してる。徳島近くの海に着水したら、もう「鳴門の
「ナビが故障でもしたの? おいちゃん」
「んな無粋なもん使わないよ、つまらん。旅は気の向くまま、自由がいいからねぇ」
「……そうやって恒星爆発に巻きこまれて、2週間も帰りが遅れたのは、どこの誰でしたっけ?」
「うわはは。ごめんごめん。そん時もちゃんと帰ってきたし、まぁいいじゃないか。スイングバイの連続も大変だったんだぞ? ……あ、若気くん、お疲れ。若気くんは知ってるかい? スイングバイ」
と、おいちゃんは、話をスッと逸らしたね。むーってした顔の未来さんから視線を逸らしてさ。
「ええっと、星の引力を使って、船の軌道を変える技術でしたよね? 燃料を消費せずに加速できたりもするっていう……」
「さすが! 事務所期待の新人さんだね。峠でコーナーを攻める感じで、惑星の地表近くをかすめるドキドキがたまんないんだよね」
「おいちゃん、それ、宇宙ベンツでやることじゃないよ」
とまぁ、姪っ子からツッコミを入れられる雪車夜おいちゃんは、とにかく楽しそうだ。なんだかんだ言って、事務所にちゃあんと戻ってくるのが、おいちゃんの凄い所、あるいは運の良いところでな?
そんなおいちゃんが、あたりを見回し……。
「ありゃ、所長は留守かい?」
「はい。気分転換にと、スパに出かけました」
至が素直に答えると。
「所長、また凹んでんのか。線が細いなぁ。じゃ、存在センセでいいや。旅行先で新件、3つほど拾ってきたから。はい、この書類ね? あと宜しく」
と、おいちゃんは、存在先生に書類を押し付けると、事務所の奥の、2帖畳タイプの椅子にどかっと横になり、扇子を開いて仰ぎつつ、日本酒を飲み始めた。椅子は引き出しも兼ねていて、そこにおいちゃんの私物、ってか、酒がたんまりと入ってるんだな。
「くー。うまぃねぇ! 地球の酒は、水の質が良いんだな。水の惑星って名乗るだけあってさ」
勤務時間に酒を飲んでいられるのは、通常の企業では正直考えられない。夢のような職場だね。まぁ、事務所のパートナーでもあるおいちゃんは、「旅行は人生」と称してフラフラとどこかに出かけては、いつも「偶然」、お客を捕まえてくるんだった。外星で、どんな活動してるんのかねぇ。
「あ、存在センセ。つまみもってきて! 棚のところに、菓子が入ってるはずだからさ。『ゲキオコスティック』ってポテト菓子がさ」
おいちゃんは、存在先生をいつも通りにアゴで使うと、あとは酒をかっくらった。
エ、アー、……その、なんだ。
瀬田所長は、劣等感を刺激されると、すぐ風呂に行く。
パートナーの雪車夜おいちゃんは、いつも旅行に出たっきり。たまに帰ってきても、こうして酒を飲んで畳にゴロゴロしてる。
それでも仕事は回るってんだから、まったく恐れ入る事務所だねぇ。
「……んで? 未来ちゃんは、さっきから、何をそんなに怒ってるの?」
姪っ子の表情がちょっとおかしいことには、おいちゃん、ちゃあんと気づいてた。 酒を飲みのみ、そう聞いた。
「今日、ヒアリングに行って来た出願人さんだけどさぁ! ひどいんだよ? おいちゃん」
未来は一瞬、至に目配せした後、おいちゃんへと向き直り、
「……ふうん」
「……それで?」
「……こっちは、なんて返答したの?」
「……ふーん」
とまぁ、おいちゃんは気のない返事。だらしなく畳に横になりながら話を聞いた。酒をあおるペースを全く変えずにな。んでもって、話が一段落するってーと、起き上がり、片手で膝をポンと叩いてから、こう言った。
「そっかー。未来ちゃんは、偉くなったもんだなぁ」
そして、未来をちらっと見上げる。そして菓子を一口。
その言葉が、皮肉のニュアンスを帯びていることに、
未来と至の、その見え方の違いはサ?
アウフヘーベンすると、何になるんかねぇ?
m(_ _)m
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