第05話 要件と効果
m(_ _)m
エ、今日もいっぱいのおはこび、ありがとうございます。
『バファリンの半分は、優しさで出来ている』と言われますわな。
残り半分が気になるところでして。ま、順当な所でいくと、有効成分なんでしょうが、案外、厳しさで出来てるのかもしれません。アメとムチってやつですな。
どうして病状がやわらぐかってーと、プラシーボ効果。要は思い込み。病は気から。……いやいやホントは、有効成分で出来てるんですけどネ? ハハハ。
そんな感じで、バファリンが何で出来てるのかを考えていくと、いい感じに時間が潰れて、アタシみたいな、まったりスローライフの与太郎にとっちゃ、面白いわけです。
ンー、法律なんてのも、2つに別れるんだそうで。
要件と、効果ってのに分かれるらしい。
エッ? 法律が優しさで出来てる? 本当にそうだとしたら、世界は幸せですわな。弱者救済を法目的にした法律なんかは、確かにそうかもしれん。
ただね? 欲と欲とのぶつかり合いについちゃ、優しさだけじゃ解決できんわけです。みんな我先にと、交差点に突っ込んで来るもんだから、交通整理が必要と、まぁ、こうなるわけですな。
要件は、わかりやすくは条件だ。
風邪っぴきの人がバファリンを飲んだら……ここまでが条件、要件ね。
で、効果はってーと、症状が和らぐと。
要件満たすと効果が発生って、なんだか、カードゲームみたいですな。風邪っぴきの人を、あったかい状態で寝せてターンエンド。次のターンで、おかゆを作って食べさせたら、要件を満たして効果が発生。風邪がふぉぉと治るときた。
そんでサ? おかゆ作ってくれるのが、かわいい女の子だったりすると、これまた別の要件を満たして別の効果発生。風邪も治るかもしれないが、別の意味で、「ポーッ」となっちまいますわな。ハハハ。
……さて、時刻はお昼の12時ちょっと前。
早めに出る理由ははっきりしてた。正午を超えると、サラリーマンがあちこちのビルから、大量に吐き出されてくるからねぇ。
中野駅前のアーケードは、ただでさえ道が狭い。そこが人でビッシリと埋まる。
そんな人の海を、モーゼの如くにかき分けて進むのは、こりゃ難儀だ。早めに出て、回避したいって言うのも、まあ人情だわな。
これ、就業規則からすりゃ、おかしいんだがな。12時までは働く契約だから。「従業員になる」って要件満たしたら、「12時まで働く」って効果が、発生してるはずなんだがなぁ。
つーかサ? 11時半にすりゃいいんだよ。休憩時間の開始を。どこの会社もみーんな同じ時間に休み取るから混雑すんだ。ズラせズラせ! な、そう思わないかい?
早めに事務所を出た甲斐あって、未来先輩と至の二人は、弁当袋をぶら下げて、事務所近くの公園まで、スムーズにたどり着いた。結構大きめの公園で、どこぞの奴が、芝生にテントまで持ち込んでる。
緑と風の匂いをかぎながら、公園のベンチにちょこっと並んで座り、蓋を開けるってーと、この辺じゃ有名な、『酔芯』って店の日替わり弁当だ。
焼き魚に、里芋、ちくわ、卵にブロッコリーに、あかい漬物に、豆とタケノコの煮物。そして白ご飯に小さな梅干し。米粒が照ってる。見るだけで唾液が出そうだねぇ。
「明日で酔芯、本館に移転しちゃうんでしょ? 絶対に買っておかないと、って思ったのよね」
至の先輩、未来さんが、焼き魚に箸を入れると、身が苦もなくほぐれる。ぱくりと口に入れると、まさしく、塩梅がいいんだな。しょっぱくもなく、薄くもなく、絶妙な味付け。ついつい、あわせで、白飯を三口ほど進んじまう。
「へぇ、それで先輩に、付き合わされてるんですね」
と、至はブロッコリーから。野菜から入るのが体にいいわけで。GI値ってやつだな。グッといい感じになる値な。いや違うぞ? ホントは、グリセミック・インデックスな。血糖値の上がり具合を示した数値。アタシみたいに血の気の多いのは、値の高いのから食ってるやつな。
「だってさー。1人で買いに行くのも寂しいでしょ? 事務所にはおっちゃんおばちゃんしかいないし」
「ははは」
愛想笑いで視線をズラした至の目には、近所のママさん達が映った。歩き始めたばかりの子供を連れて、シャボン玉やら、ボールやらで遊んでいる。そんな光景。のどかなもんだねぇ。
権利を扱うお仕事は、「俺の」「俺の」と欲望でギラギラしてるもんだから、こういうサ? なごみの成分も必要なんだな。バファリンの優しさの方な。
あっちこっちに連れが居る。
そんな中、一人で弁当食っても寂しいもんだ。誰かと連れ立って、おしゃべりしながら箸をつっつきたい。それもまた、欲なのかもしれんわな。
「ねぇ。至くんの通い始めた初級ゼミ、どこまで勉強進んでるの?」
「この間、新規性、進歩性はやりました」
「やっぱりそこからだよね」
言って未来先輩は、里芋をぱくり。ほっぺをおさえて「おいひー」からの、白飯だ。こりゃ、おかずとご飯じゃ、ご飯が先に尽きるね。
「1条の次に29条ってのが、ちょっとビックリしましたけどね」
「あはは。やっばりそこに違和感覚えちゃうか」
未来が鈴の音のように笑うと、至は至で、元カノの佐々木さんを思い出しちまう。そりゃあもう、ベルを鳴らすと唾液をたれる、パブロフの犬の条件反射みたいに。声色が元カノと似てんだな。至はごまかすように、漬物に箸を伸ばして、すっぱそうな顔だ。
「独学だと、1条の次は、2条ってなりがちだけど、それだと分からなくなるんだよね。学ぶ順番は、法目的の1条。次は、29条。でさ、至くん。勉強した範囲からでいいから、あたしに質問してもらえるかな?」
「いいですよ? 宗谷先……輩は、彼氏いるんですか?」
ハハハ、いきなり直球がきたねこりゃ。
未来先輩は、おめめをパチクリ2回して、煮物をかじって、そして答えた。
「ちぇ、愚問だなぁ……試験勉強でてんてこまってるのに、そんな暇ないでしょ?」
とまぁ、色気のない返事。
「はぁ」
「あたし、そういうのは、合格してからって決めてるんだよね」
「なるほど。先輩の全部が、試験で出来ています」
m(_ _)m
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