【幕間】地球は文化の卵です

m(_ _)m



 エ、今日もいっぱいのおはこび、誠にありがとうございます。



 ンー、サザエさんのテレビ放送が、終了の危機らしいですな。スポンサーが降りるとか降りないとか。



 「始まりがあれば、終わりもある」ってのはわかるが、あんだけ長く続いた番組が、ホントに終わっちまうとしたら、寂しいもんがあるね。



 ウー、巷じゃ、「次のスポンサーがどこになるんでい?」だとか、「おれのかんがえたさいきょうのサザエさんさいしゅうかい」だとかで、そりゃあもう、もちきり。



 色々例を挙げたいが、著作権的にアレってのもあるでしょうからねぇ。アタシの思った最終回だけしゃべって、お茶を濁そうかと、まぁ、そう思うわけです。



 あれね。

 ンー、多分、もう何人か出てくるね。新キャラが。今更になって。

 出世魚のブリとか、スズキとか、ボラだとか、出世魚じゃねえらしいマグロだとか。……あ、こりゃ前の噺ですがね?



 隠し子騒動だよ。

「カツオやワカメ以外にも子供がいた!」ってな感じのな。



 すったもんだのその挙句、蓋を開けたら、なんと実の子。



 そこでようやく、みんなに知れるが、ブリやらスズキやらは、どうやらこれまで、歴史から「なかったこと」にされてたらしい。イクラが、何度も何度もタイムリープ。昭和の暮らしを繰り返し、ブリだとかスズキだとかを、救おうとしてたんだな。



 ア″ー。どうりでおかしいと思ったよ。

 家の作りは昭和の風情なのに、電気屋にゃフィ〇ップスのひげ剃りが売ってるってぇんだから。時空が相当ねじくれ曲がったね。度重なるタイムリープで。



 イクラも大変だったろうなぁ。なにしろイクラは、ハーイとチャーンとバブンしか選べない。3択の組み合わせで、トゥルーエンドを見つけ出すのは、ウー、相当苦労したはずだ。ほんと、お疲れさん。



 そして、みんな揃ってちゃぶ台で晩ごはん。出世したブリとか、スズキとか、ボラとかもまじえてな。マグロも来てる。ノリスケさんとこも来てるから、だいぶ狭いね、ちゃぶ台が。



 マスオさんが、こう、かかとに全体重をかけてな? 「エー? タイムリープは終わっちゃうのかい?」と、例の驚き方で、劇終な。



 ……って、オイオイ、誰か止めとくれよ。



 ん。サザエさんは永遠に続いて欲しいと思うね。ありゃ、もはや風物詩だから。ああいう文化アートは、無くしちゃいけない。日本の宝だからな。

 


 ……ウー、しかしよ? 「アート」って、なんかおもしろいねぇ。文脈によって、意味が変わるんだ。



 絵画は明らかにアートだし、歌い手さんも「アーチスト」だ。

 すでにある技術も、英語じゃ「Prior Art」。先行技術な。

 音楽だとか美術だとか技術だとか、ジャンル関係なく、「人の創意が詰まったモン」が、アートなのかもしれんわな。



 するってーと、人工知能も、人扱いせんとおかしいわな。小説だとか、音楽だとか。人が産んだか、AIが産んだか、もはや峻別できねぇってんだから。人間のみが生み出せるもんなんて、糞ぐらいなもんだろ。なぁ? きたねえ話だけどな。



 え? 脱線しすぎだって? じゃあ、そろそろろうかねぇ。



 ウー、若気至わかき・いたる宗谷未来そうや・みくが勤めてる、瀬田OA鑑定事務所に、業者がやってきた。「急便」って屋号の運送屋で、ロケッターさんって名の男だ。



「毎度どうもー! もー! アート急便ですー! すー!」

 ってな具合にな? そりゃもう、酒屋のサブちゃんみたいに、声がよく通る。

 御用聞きみたいなその声が、事務所の天井にぽっかり開いた、丸ーい筒から聞こえてくる。トンネルの中みたいに、こう、わんわんとエコーがかかった感じでな?



 スススーッと、滑り台を滑るような音がして、小柄な男がポコッと筒から出てきた。ロケッターさんだね。おっ、着地もお見事。こう、スタッと事務所に降り立った。



「まいどっ!」

 と元気よく、お届け物の荷をカウンターに置いた。

 ロケッターは、背が子供みたいにちっちゃくてな? 頭の上まで、ダンボールをえいやと持ち上げて、両手でカウンターの上に押し込むんだよ。



 事務所の奥の方じゃ、至の先輩の未来さんが、両手で本を何冊も持ち上げて、えっちらおっちら片付けしてた。

「あ、おつかれ様ですー」

 そそくさと出てきて、荷物受領のハンコを押し、粗茶を淹れてロケッターさんをもてなすタイムだな。



 そしたら背後で、


 どどん、どどん、ばさばさ。


 きゃはは! きゃはは!


 どどん、どどん、ばさばさ。


 きゃはは! きゃはは!



 突然騒がしくなりやがった。事務所の皆が振り返る。するってーと、天井からもう、出るわ出るわ。ちっちゃな宇宙人が、どんどん降りてくる。



 ンー、その宇宙人。見た目はまるで「紙の本」だ。



 文庫みたいに小さいの。タウンページみたいに分厚いの。同人誌みたいに薄いの。とにかくいろんなのが居る。そんな本みたいな体から、ほそーい手足が、ひょんと伸びてる。まるでおっきな「本の虫」だね。



 ばさばさ、きゃははと、事務所の中を走り回ってるその中で、文学全集みたいな宇宙人だけが、なんかやたらとスカしてる。



「な、なんです?」

 困惑しきりの若気の至に。



「コッカイトショカン星の人……だねぇ……」

 と、未来先輩が教えた。

 地球が属する天の川。そこから3つほど離れた、別の銀河の星の人だな。



 至と未来の大先輩の、薄井存在うすい・そんざい先生は……渋い顔。

「うちの事務所が、託児所になっちゃったなぁ……」

 この先生、とにかく存在が薄いんだな。ようやくのお出ましだよ。



「すまんこって! ワープホールを開けっ放しにしちまったい!」

「ワープホール!?」

 と、新人の至はびっくり顔だ。



 そりゃびっくりするよなぁ。ワープできるホール。そんなもん、かつての地球にゃ存在しなかった。いや、ゲームの話でいいならば、土管に入りゃ次のワールドに行けるし、旅の扉もワープするけどな? 現実にそれが出来るやつが、アウターアートとして入ってきてた。



 このワープホール、惑星特許としちゃ、権利化は無理だろうけど、商標ならどうだろうね? ンー、指定役務はなんだろうなぁ。「ワープ装置を利用した異星間運送サービスの提供」とかかい? ま、難しいことは、どこぞのセンセに聞いてちょうだい。



「ロケッターさん。とにかく、この集団を連れて帰ってもらわないと……」

 と、存在の薄い先生が、いかにも先生らしく、メガネをきらんと光らせた。



「すんまへん。まだ、地球で配達が残ってまして……」

 ロケッターさんは困り顔。見るに見かねた宗谷未来が、ひょいと手を上げ、「はーい! あたしやります!」子守を買って出た。



 んー、外で迷子になられちゃ困るから、事務所の外には出さないようにと、薄井先生から釘を刺された未来先輩。それならばと、事務所の奥の、本棚の所で遊ばせた。



『お姉ちゃん、この人誰なのー?』

「六法全書さんっていうの」



『ねえねえ、この中身の詰まった子はー?』

「科学技術大辞典ね」



『この、スリムな子はー?』

「宇宙ゴルフダイジェストね。週刊誌っていうの」



 これがまぁ好評のようで。書籍みたいな身なりした、コッカイトショカン星人がことごとく、未来先輩になつく。いや、うまいもんだねえどうも。精神年齢が近いんだろうかねえ。



 本棚にゃ、リアルな本と、本みたいな大きさと形の宇宙人。かくれんぼにもってこいだね。混ざり過ぎて、どれが宇宙人でどれが本だか、わからない状態だ。



 ただね? ちょっとやらかしちまったんだな。

 所長が隠してた金庫を、コッカイトショカン星人が見つけちまった。



 凄いねえ宇宙人。隠し金庫は、アウターアートを使ってサ? 壁に偽装されてたんだよ。カメレオンみたいにな? なのに、偽装を解除するスイッチをあっさり見つけた。そのスイッチ、地球人には見えない光線を発する、丸い突起だった。日本酒飲む時の、おちょこみたいな形のな。



 ポチッガガガと開いた金庫にゃ、何やらノートが。



『これなにー?』

「え、えーと……裏帳簿うらちょうぼって言うのかな?」

 未来さんは冷や汗たらたら。素直に教えちまう所がまた、「天然」って言われるとこだね。アタシから見りゃかわいいがね?



 ええいままよ! とノートを開くと、グラビア雑誌の切り抜きだ。



 ビキニ姿でビールを掲げた、小麦色の肌の女性のオンパレード。雑誌が電子で買えるこのご時世に、ご丁寧にもハサミでチョキチョキ。ノートにペタペタと貼り付けたんだな。胸の三角ビキニのとこにゃ、赤ペンでラインがなぞってあって、余白にゃ落書き。『もう少し上向きなら完璧。94点』と書いてある。



「瀬田所長……こういうご趣味が……」

 とまぁ、未来はどん引いたが、裏帳簿じゃなくてよかったな。マルサは怖えしな?



 そんなこんなで、あっという間に夕方だ。



 ロケッターさんも、地球での荷物を配り終え、事務所についっと戻ってきた。

「じゃ、あっしはこれで!」

 と、背ぇに背負ったロケットで、天井のワープホールに突っ込む算段。



 ところがどっこい。一緒に連れて帰るつもりの、コッカイトショカン星人たちが、一斉に愚図ぐずった。

 


『やだー!』

『ここにいたいー!』

『帰りたくないー!』

『未来せんせーとあそびたい!』

 未来の両の手の中に、抱えられるみたいに飛び込んだ。



 微笑む未来と、渋いツラの薄井先生の対比が、またおもしろいやな。



『未来せんせー、僕と結婚して!』

「あはは」

 子供の時にゃありがちだ。それを見ている至もさ、幼稚園児の時、年少組のひとみ先生にほのかな恋心を持っていた。ひとみ先生の、あったかーい、太陽みたいな笑顔が、どことなく、未来と、それと、元カノの佐々木さんにも似ているように、至にゃ思えたようで。こう、微妙な表情で見守ってる。



『だめー! あたしとー!』

 ピンク色のが言い出した。

「あはは。コッカイトショカン星では、同姓婚もオッケーなのかな?」



 ロケッターさんは知ってたね。

「いいみたいですよ。愛さえあれば性別なんて。あっちの星じゃ技術が進んで、性別を日替わりで変えたりもできますし。要は本のカバーと同じなんです」



『いや、私とだ』

 文学全集みたいな、スカした感じのも続いたが、ロケッターさんが苦笑い。

「成人してるでしょ? ああた」



 結局、宇宙人を全員引っ連れて、ロケッターさんは天井の穴ん中へと帰っていった。まるで、列車のように、縦列でな。

 


 そんなこんなで事務所に届いた、まーるい、卵みたいな物品。

 それが、『家庭用マイクロダイソン球』のサンプルだ。



 至が未来先輩たちと一緒に鑑定することになる、発明品な。



 あ、オイ。卵みたいなダイソン球。

 サザエさんに出てきた『全自動卵割り機』に入れちゃあ駄目だぞ?


 

「ひゃああマズい!」と、お婿が泣いて、困るから。



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