第10話 中野ミルキーウェイ

m(_ _)m


 

 エ、今日もいっぱいのおはこび、ありがとうございます。



 アー、読み書きしてて、疲れるとな。こう、甘いもんが欲しくなりますわな。脳が糖分を欲してるといいますか。甘さでほっこりしたいといいますか。



 だから、プログラマーとかサ? 事務仕事の人の机の上にゃ、お菓子とかが置いてある。運動せずに甘いもんばっかりで、睡眠時間も短いとなりゃ、そりゃもう、糖尿病一直線だね。多少は自制なり、いっこ前の駅で降りて散歩してみたり。そういった工夫も、時々は必要になってくるわけです。



 ン、でもって、道を散歩してみるってーと、小洒落たカフェがある。ダイエット中のはずなのに誘惑に負けるのが、ダメ人間の証ですわなぁ? 衝動で入っちまってメニューを見てみると、なんと、長靴の形したクリームソーダがあってな?



 なんじゃこりゃあ! と注文してみるってぇと、こう、透明な長靴の中に入った、緑色のシュワシュワの上にサ? 四角い氷が浮かんでで、それを上から蓋するみたいにコンモリと、ソフトクリームが乗ってる。



 見た目のインパクト、こりゃ相当なもんだ!

 あまりにビックリしたもんだから、店員とっ捕まえて「なんなんですか! ここ!」と尋ねたら、店員が「こめだ」ってな。



「クリームソーダでしょうに? どこに白米が!」



 ……。



 ……まぁ、コメダ珈琲だわな。まぁ、しょうもない駄洒落でサ? 白米じゃねぇよなぁ。



 コメダさんもまぁ、どこぞの喫茶店との訴訟で、和解したってんで。よかったねえ。 不正競争防止法? 商標? トレードドレス? まぁそのあたりの基準は、判決出てくれた方が、偉い先生方には良いんだろうが、穏便に済むならそれでいい。和解の内容は闇の中だけどな。ふへへ。



 ア、そうそう。カフェといや、「ミルキーウェイ」ってカフェがありまして。甘い飲みもんとかケーキとかを出す、これまた、小洒落た店で。女子とのデートの、甘々な時期に良さそうな。それでいて、不細工なアタシにゃ、完全なるアウェイな空間な。へへっ。



 とか言いつつ、カミさんと行った事はあったよ? まぁ緊張で、変な汗がでたことだけは覚えてる。店のメニューも、星座とかがモチーフになっててな?

 それもそのはず。ミルキーウェイ、つまり天の川は、この地球を含んだ「天の川銀河」のことだ。

 星にロマンを感じつつ、男と女が逢瀬を重ねる。まるで、織姫と彦星だね。



 うちの織姫は、つまんないモンを掴んじまったがねぇ。へへへ。



 ま、そんなこんなはいいや。新人の若気至わかき・いたると、先輩女子の宗谷未来そうや・みくは、デートじゃなくて仕事に出かけた。中野駅から北に続く、細いアーケードの先にある「中野ミルキーウェイ」ってモールに、向かったんだな。



 そこはさ?

 宇宙人とのファーストコンタクト前は、「中野ブロードウェイ」って呼ばれてたとこだ。



 駅の西にある事務所から、未来と至は二人して、徒歩でテクテク歩いてきた。



「先輩。てっきり、特許庁に行って、データベースで調査をするんだと思ってましたけど……」



「審査官と同じDB使っても意味ないでしょ? 外注のサーチャーも雇って、特許庁DB使った結果の、あの通知書なんだからさ。まぁ外注さんが、ちゃんとサーチしているならば、ってのもあるけどね。あたしらが本気で調査するなら、国会図書館にいかないと」



「えっ? 国会図書館なら、中野駅から電車ですよね? 道、違くないですか?」



「国会図書館は遠いよー。めんどいし、効率悪いよ。それよりこの件については、もっと手っ取り早い方法があるでしょ?」



 しゃべりながら歩いていると……出たね。中野ミルキーウェイが。白くてデカい建物な事だけはわかるが、アーケードやら、周りの雑多なビルやらに隠れて、全体が見えない。アーケードの端っこに、赤い枠付き入口があって。ウー、なんだか鳥居を連想させるねぇ。



 ……ってことは、細いアーケードはまるで、「参道」だね。



 建物の中に入ると、少し暗くて、天井低めで、細長ぁい空間がお出迎えする。すぐに右には、あの有名な、まんだらけな。『曼荼羅が多い』って、特許庁が中野に移転してきたきっかけになったとこな。



 他にも、カメラ屋やら、カフェやら、服屋やら、ゲームセンターやらがズラっと並んでて、まるで縁日の屋台だね。家賃16倍と騒がれた、浅草寺せんそうじ前の仲見世みたいなもんだ。



 お祭りよろしく、人もごった返してて、その通路の右寄りに、エスカレーターが、待ってましたと長ぁく首ぃ伸ばしてる。



 エスカレーターの手前には、謎のアーチ状の入口が、通路にでんとせり出してる。その隣にガードマンの常駐ブースが、カプセルホテルの1区画かってな感じで、こう……どんと鎮座してんだな。



「未来先輩。いつも思うんですけど、この横の入口、一体なんなんでしょうかね……商業施設なのに、警備付きの物々しい感じで……」

「居住区だよ? 宇宙から来たお客様が、長期滞在に使ったりする所だね」

「……そんなのがついてるんですね。爆買い的なやつですか?」

「ふふっ、どうだろ?」



 エスカレーターに乗ると、これはちょうどと、館内放送が流れた。人が乗ったのを検知してんのかもしんねぇな。アニメ声優っぽい、可愛い、鼻にかかった声でアナウンスだ。



「エスカレーターは一気に3階、5階と、あいだを飛ばして上りマス! あいだの偶数階は、階段か、エレベーターを利用してねっ!」



 と、日本語で。語尾の吐息が強調された、ツインテールの赤髪少女か誰かを連想しちまうような、元気な声だね。そしてその後、英語と中国語、銀河連邦語のナレーションが続いた……皆さんすスミマセン。アタシは外国語と外語はちょっとばかし苦手でして。すいませんねぇ。



「この声優さん……銀河連邦語もしゃべれるのか……。やるなぁ」

「あー、この声の、おいちゃんの知りあいだから、知ってるよ? 何度も練習したみたいだね」

「えっ!? 宗谷先生、顔広すぎじゃないっすか? って……未来先輩じゃなくて、宗谷雪車夜そうや・そりや先生の事です」



雪車夜そりゃぁ、おいちゃん、あっちこっちに無節操に首をツッコむからさ。宇宙をほっつき歩いて、事務所に寄り付きもしない。あ、そうそう。おいちゃんを『先生』とは呼ばない方がいいよ?」

「……どうしてです? 有資格者なのに?」

「おいちゃんは、『先生』って呼ばれたくないんだって」



 ハァ? と、若気至わかげのいたりは首をかしげた。どうしてだろう? 未来先輩のおじさんの、雪車夜そりや先生は有資格者で、瀬田事務所のパートナー。所長からの信頼も厚くてな。「先生」と呼ばれてしかるべきじゃないのか? とまぁ、至そう思うのも、自然だわな。



 エスカレーターで3階に上がると、通路にゃ上下引きシャッターのガレージがズラリと並んでた。低い天井とガレージ。開いてる店にゃ、アニメのフィギュアやら、セル画やらがギッシリ、雑多に盛られてる。



 ちょいと個性的な服装の男女が、それを物色してる。

 かつて「中野ブロードウェイ」だった頃と変わらない景観……かと思いきや、どっこい。肌の色やら、体のデカさが違ったりする。目がアニメ顔以上にデカかったり、耳が6つあったりで。個性的なのは服だけじゃなかったね。なんせ、宇宙時代だからねえ。



 何度かエスカレーターを乗り継ぐと、登るにつれて、人は閑散としてくる。

 どのフロアも、ガレージだらけなのは変わらないが、そのシャッターが閉まっているのが目立ってきてな? ゴーストタウンに見えるけど、閉まっているのに、奥からギコギコと変な音がする店舗もある。



 扉に「エリア31」とか札が貼ってあってな? もしかして、その先には宇宙人が……とか思っちまうけど、今じゃソレが普通だ。エリア51も、ここの5階にあるかもしれねえ。



 ちょっと面白いのはサ? 2、4、6……偶数階にはデッキが横に走ってて、一つ下の階を眺めることが出来んだな。逆に、一つ上の階は見れない。



 なんでか? ってーと、2フロアごとに天井があって、そこに青空が描かれているんだよ。風情を出そうとしてんのかもしれねぇ。縁日の露店の雰囲気だすにしちゃ、二階建てになってるわけだが、どんなもんかね?



 さて、登りも登ったり。未来と至の2人は、11階にたどり着いた。中野駅とは反対側の、北の奥まで進んでく。周りにゃ人は、ほとんど居ない。



 突き当りまで来たとこで、未来先輩は振り向いた。

「着いたよ?」

「先輩、ここって……?」



 上下引きシャッターのガレージに、毛書体で、「ヨジゲン(株)」と書かれてた。



 『怪訝けげん』って文字を顔に貼りつけながら、至は会社名を覗き込む。


 未来先輩は両手を腰に。苦笑しながら

「至くん、もしかして、書誌情報、チェックしてないなー?」

「書誌情報……?」



「特許出願書類の、最初のページだよ。『家庭用マイクロダイソン球』のさ。あの発明の出願人って……」

 未来は、目の前のガレージへ目配せだ。ソレで察した若気の至。



「えっ!? この会社が、特許出願人なの?」



 織姫ベガを未来先輩。

 彦星アルタイルを若気の至とするならサ?


 

  ミルキーウェイに横たわる、この怪しいヨジゲン会社さんは、橋渡しをするデネブに、なるのかねぇ?

 


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