二重装甲アナザードライブ

「オレが言えたことじゃないけど、無茶しすぎだぜ」

「気を抜かないでください。紅蓮ぐれんさん。クサリから、アカダルマが放たれました」

 赤い球体。全長20メートル。

 フォトン武装を使用する。内燃機関ないねんきかんを持たず、エネルギーの伝播でんぱで動く。編隊を組んでいた。

「10個のミドリタンスを守ろう、ってことか」

 薄い黄色の巨大ロボットが身構える。全長、約13メートル。Dと呼ばれる。

 白いロボットも構えた。Dファイブ。

「おそらく、エネルギーはクサリから伝播でんぱされているはず。注意してください」

 アカダルマは二人に攻撃を仕掛けなかった。

 まっすぐ進んでいく。

 操縦するグレンとバーティバ、二人が声を上げる。

「うしろ?」

「この質量は、月よりも巨大です」

 球体が迫っていた。直径、約4800キロメートル。

 月に似た灰色の惑星。

 一直線に、クサリめがけて飛んでいた。クサリの直径は、約1万2700キロメートル。

「ムネンの攻撃、じゃないな。なんだ、これは」

「高度な科学力のなせるわざ。これは、援護射撃です」

 重力制御されているグレンとバーティバが、引き寄せられることはない。

 数え切れないほど現れる、赤い球体。アカダルマ全てが防御に回った。

 防御能力を持たないミドリタンスは、クサリの周りを回ったまま、ビームを放つ。ビームが当たっても惑星の軌道に変化なし。

 我先にと飛び出し、光る壁を展開する赤い球体。なすすべなく潰されていく。だが、重力制御装置を使って、すこし惑星の軌道が曲がった。

「戦ってるのは、オレたちだけじゃない!」

 ビームを放った直後のミドリタンスを、薄い黄色の閃光が通り過ぎた。

 5つの光を散らす。

「ワタシたちへの援護に、感謝します」

 惑星の対処に追われるアカダルマに、白い荷電粒子砲が向けられた。

 ビームが突き抜けていく。

 赤い防衛装置による捨て身の軌道変更で、直撃コースから外された惑星。

「これでも、かなりの被害になるだろ」

 一旦、ミドリタンスから距離を置くグレン。バーティバとは離れた位置にいる。

「はい。しかし、あまり好ましくありません」

「どういうことだ?」

 返事はされなかった。

 二人が、ディスプレイに映るものを見た。

 薄紫色の巨大ロボットがクサリから飛び出した。灰色の惑星に取り付いて、両腕を広げる。すると、惑星の軌道がさらに変わった。クサリにぶつかることなく、通り過ぎていった。

「この機体は」

「紫のD?」

 バーティバとグレンが続けて言った。

 全長、約13メートルの金属は、両目を光らせた。


「おせぇんだよ。おまえら。何年待たせる気だ」

 時空並列通信から聞こえてきたのは、ウルフの声だった。

 ロボットに乗っている。薄紫色が目立つ機体。関節は青。装甲の一部に赤紫色がある。飾りは灰色。丸みを帯びている部分が多い。

 逆三角形に近いつり目で、口はない。

「ウルフ? 生きていたのか」

 グレンは不規則に移動を続ける。緑の防衛装置に追われていた。数は、5。

「そのDは、いったい何故」

 バーティバがウルフと対峙する。

 赤い防衛装置に動くものは見当たらない。残骸を蹴り砕く、薄紫色のロボット。

「Dじゃない。アナザーDだ。石ころをどけるために使わせやがって」

「真似しておいて、偉そうだな!」

 グレンの声には怒りの色が滲んでいた。

「そっちも、ムネンの技術を使ってる。お相子あいこってやつ、だろ」

「ワタシが相手になりましょう。ウルフ」

 バーティバが強い口調で言った。

 巨大ロボットのコックピットで、ウルフは笑っていた。目つきが悪い。えり足や耳周りをすこし伸ばした、とがった髪型。濃い灰色の上着に、深紫色のパンツ姿。首には長めの黒いスカーフ。全面ディスプレイの向こうで光る、白いDを見つめる。

 まわりは黒と、多数の星の輝き。

 グレンとバーティバのDは、追加装甲をまとっている。上にとがった部分が向く。

 嬉しそうな顔のウルフ。

「真の姿を見せてやる。二重装甲! アナザードライブ!」

 強く目を光らせたアナザーDが、追加装甲に包まれていく。するどい鉱物が上に突き出したような姿へと変貌した。

「悪い。すぐには行けない。なんとか踏ん張ってくれ。バーティバ」

承知しょうち。できれば、倒したいところですが」

 球形の空間に立つバーティバ。厳しい顔を見せた。金属の棒を握りしめる。サイドがすこし伸びている銀髪。長身を包むのは、小豆色のスーツ。同色のネクタイを結び、下のシャツは灰色。すこし平らになっている足元。足に力が入った。

「久々に頭がスッキリしてるんだ。楽しもうぜ! バーティバ!」

 叫んだウルフが宇宙を駆ける。背景には灰色の星。薄紫色のロボットが、光をまとう蹴りを放った。

 白いロボットは、右腕に光る盾を発生させていた。

 防御して、反撃をしない。

「なんか変だな。招かれざる者とか、宇宙の意思とか言ってなかったか?」

 グレンが、悩んでいるような声を出した。不規則にスラスターを使う。

 残るミドリタンスは、3つ。

「ムネンの呪縛から、解放されたのですか?」

「おまえらが騒がしいから、声がずいぶん小さくなった。感謝してるぜぇ」

 ウルフは攻撃を続ける。光をまとう拳を突き出した。

 バーティバは防御している。光る盾で受けた。

 グレンが叫ぶ。

「一緒に、クサリをぶっ壊そうぜ!」

「ムリだな」

「なぜです。ムネンの中枢を破壊すれば、あなたは自由に――」

「俺はすでに、ムネンの一部。切り離せない。だから、俺と戦え!」

 アナザーDが右手を突き出す。Dファイブも右手を突き出して、光が激突した。


 赤い球体が光を放った。

 秒速150メートル。遅い。白いDには当たらなかった。

 バーティバがウルフに背を向けた。光をまとった蹴りで球体を粉砕して、もう1つに殴りかかる。すぐに離れた。球体が爆発。

 惑星の直撃を免れたアカダルマが4体いたのだ。

「俺の意思に関係なく、勝手に動くんじゃねぇ!」

 薄紫のアナザーDが両腕に光をまとう。2つの球体を撃墜した。

 宇宙空間。

 2機のロボットが向かい合う。

「戦うしかないのなら、ワタシの手で」

「それでいい。俺はそれを望んでいる!」

 ウルフは右腕を伸ばし、まっすぐ突き出した。

 バーティバも右腕を伸ばし、まっすぐ突き出す。

 二体の巨人の胸に、光をまとった指が突き刺さる。そのまま背中へと抜けた。

 白いDは胸の中心を貫かれている。

「バーティバ! ちくしょう。オレが、もたもたしてたから!」

 Dを操るグレン。残る2つの防衛装置を破壊した。

 アナザーDは、胸の中心からすこし外れた場所を貫かれている。

 白いDのとがった装甲が元に戻る。目から光が消えた。

 バーティバは、仮の身体からだを失った。


 ウルフが舌打ちする。

「ちゃんと狙え。いや、あいつの性格を考えるべきだったな」

「ウルフ。オレは、情けをかけないぜ」

 グレンが、ウルフの近くへ向かった。

「ああ。来いよ。地に足をつけないと落ち着かねぇ」

 左胸に穴の開いた薄紫色のアナザーDが、クサリへの地表へと下りていく。薄い黄色のDも続いた。

 二体の巨大ロボットが、灰色の惑星に立つ。

 厳密には、灰色ではなかった。金属光沢があった。

「これが、クサリか」

 球形のコックピット内。360度が見渡せる場所で、グレンが呟いた。灰色の迷彩服姿。がっちりとした体形で、黒い短髪。右手と左手それぞれに、金属の棒を握っていた。

「こんな殺風景なつまらねぇ星なんて、どうでもいいんだよ。グレン!」

 叫んだウルフが、薄紫の巨人を走らせる。光をまとった右腕がのびた。

 薄い黄色の巨人は、すでに腰を下げていた。左足を反時計回りにずらし、右足を横に振るう。かがやく蹴りが襲いかかる。

 ウルフは、左腕にフォトンコーティングを展開して防御。右足を蹴り上げた。脚がきらめく。

 グレンは、すでに右へ回り込んでいた。右腕を突き出し、光がほとばしる。

 左肩をフォトンコーティングで防御したウルフが、一歩下がった。

 睨み合う巨人。

酔狂すいきょうだな。ウルフ」

「お互いに、な」


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