天の川銀河奪還作戦

 あま川銀河奪還作戦がわぎんがだっかんさくせんが始まろうとしていた。

 防衛線からクサリまでの距離は、最短で、約1万5000天文単位。

 1天文単位とは、地球と太陽の平均距離。光が届くまでにかかる時間は、500秒。約1億5000万キロメートル。

 ムネンの中枢、クサリの防衛線まで、目と鼻の先の宙域。たたずんでいるのは、巨大な銀色の球体。マトクスター。その前に浮かぶものが小さく見える。

 船が、あま川銀河がわぎんがの中心に向いていた。

 ケイ素生物の宇宙船。浮島級リカイネン。まっすぐにフルマラソンを3回しても端まで着かない大きさ。銀色の軍艦。複数存在する。

 艦橋。ひくい位置の席には、メタリックな赤橙色のロボットたち。

 たかい場所に机がひとつ。椅子には、十歳くらいの外見をした男の子が座っていた。帽子姿。年齢は十歳ではなく、天文的な単位。

 銀色の部屋に窓はない。壁一面のディスプレイに映し出されているのは、宇宙。

 見つめるのは、ケイ素生物のアルヴァタ。帽子をかぶっている。クラウンと呼ばれる上部は白。前方と左右がすこし膨らんでいる。黒いつばには、黄色の装飾がされていた。

「Dシリーズ・タイプAの、ハッシンを許可シマス」

 高速航海時は流線型のリカイネン。戦闘前のため、すでに変形済み。するどさを前方に向ける。上部は戦艦のような見た目。

 フォトン武装で攻守を両立。主砲は、超大型中性粒子ビーム砲。

 巨大ロボットを発進、格納させる入り口は、26ヵ所を超える。その1つが開いた。船体下部の前方カタパルト。

了解りょうかい。グレン・チカマ。D、いくぜ!」

 薄い黄色を基調としたDには、丸みを帯びている部分が多い。巨大な人型の金属。関節は緑色。装甲に赤い部分がある。黒い装飾品が光を反射した。頭部は人の顔に近い。目の光度が増した。

 Dシリーズは、人が乗り込むことにより真の力を発揮する。

 緊急用の電磁式カタパルトは使用されない。

 重力制御により、どこにも触れることなく船の外に飛び出した。


 1億と1番目の亜地球。

 衛星の軌道。

 月。

 その裏側。

「時間だ。月を落とすぞ」

「装置の奪取。月を割るなよ?」

 濃い灰色を基調としたDから、意思が伝えられた。

 金属光沢がある。巨大ロボットは有人機。

 背後には、巨大な銀色の軍艦があった。

 光る目。

 Dが2つ目の装甲に包まれる。右腕が大きく変形して現れたのは、巨大な銃口。

 ウェーブリアクターが膨大なエネルギーを集中させる。

 ミックスされた原子核と電子は、亜光速で放たれた。

 秒速29万キロメートル。

 人間には視認できない、中性粒子ビーム。ビームの前で何かが光った。

 月の裏側に穴が開いていた。


「2、1、ゼロ!」

「ビームを撃てるだけ撃つぞ!」

 あま川銀河がわぎんがの中心部から、0・3パーセク離れた場所。

 ムネンの中枢、クサリに向けて、あらゆる角度から攻撃が開始されていた。

 銀色の軍艦を背に、巨大ロボットが浮かぶ。

自然体しぜんたいこころ。Dヒストリー」

 ファリアは、桜色を基調とした機体を操縦している。関節は緑。体の一部が紺。装飾品は灰色。目がきらめく。追加装甲が現れていく。

 すこしとがった見た目になる。頭部も変形。メガネをかけ、口元はマスクのような形状。

かぜける感覚かんかく。Dゼノブラスト!」

 アイザックは、緑色を基調とした機体。深緑の関節まわり。体に白い部分がある。装飾品は黒い。目があやしく光る。まるみを帯びた姿が変貌する。

 金属がするどさを増した。頭部も変形する。ゴーグルをつけ、マスクのような口元。

思慮深しりょぶかこころ。Dリスペクト」

 チャンドラの機体は、水色を基調としている。

 関節は青。一部が灰色の装甲。緑の装飾品。目がつよい輝きを放った。2つめの装甲につつまれる。すこし角張った見た目になった。

 頭部も変形している。ハチマキを巻いて、口元はマスクのようになった。

 べつべつの座標の3機。

 同時に腕の装甲を変形させて、粒子加速を始めた。

 Dだけでなく、自律機動の巨大ロボットもビームを放っている。ハガネ。金属光沢のある黒色。全長はDと同じく13メートル。右腕には大型フォトンキャノン。左腕に装備されているのは、荷電粒子砲。

 まるい装甲は円柱にちかい形。手足の関節には球体の装甲がある。腹部は板を重ねたような構造。目はゴーグルの形。口元はすこし出っ張っていて、横に線が入っているように見える。

 すべての機体のパフォーマンスが向上していた。

 搭乗者がいるものもある。

「削ぎます。ムネンの演算能力を」

 それは乗り手によって、それぞれ色が違った。

 様々な方向からクサリに向いている、多数の銀色の軍艦。同時に主砲が発射された。


 同時刻。

 グレンの乗るDの目が、強く光る。

一意専心いちいせんしん! D、アクセル!」

 薄い黄色の装甲が変化していく。丸みを帯びている部分がすくなくなった。追加装甲をまとった状態のパワードスーツに近い姿になる。とがりかたは控えめ。頭部は、燃える髪が逆立っているような形状。角張ったマスクのような口元に変化した。

「ビームを使う!」

 コックピットは球形の空間。足元はすこし平たい。全面ディスプレイで見える前方には、赤い防衛装置。全長20メートル。球体。

 グレンは、重力制御により両足で立っている。右手と左手それぞれに握られているのは、金属の棒。スイッチを押した。

 両腕の装甲が変形して、それぞれに巨大な砲身が現れた。

 同時に粒子加速が始まる。

「すこしでも、こっちにムネンを引き付けてやるぜ」

 クサリの座標に、右腕からのビームが放たれた。途中の赤い防衛装置、アカダルマを数機貫通。爆発。

 複数のアカダルマが隊列を組み、広範囲にフォトンシールドを展開。

 ビームが突き抜ける。

 次の隊列はすでに用意されている。次々にぶつかり、減退していくビーム。

 左腕からのビームが放たれた。アカダルマを一瞬で貫き、レーダーが多数の敵の接近を知らせる。

「そうだ。さっさと来い」

 両脚の装甲が変形して、それぞれに巨大な砲身が現れた。

 同時に粒子加速が始まる。


 あま川銀河がわぎんが。中心の、巨大ブラックホール。

 超高温のガスを噴射する上部と下部の近くに、同時に穴が開いた。それぞれ、銀色の軍艦が現れる。

「シュヴァルツシルト半径に近付けば、Dといえども無事では済みません。気を付けてください」

 距離と時間の影響を受けない時空並列通信で、バーティバが注意した。

 宇宙での通信はすべて、これでおこなわれている。

 全長、約100キロメートル。浮島級リカイネン。上部の50ヵ所から、光る弾が発射された。秒速200メートル。遅い。

 フォトンブリットの形状を安定させるために、速度が犠牲になる。物質を使用しない利点は、持久戦において強く現れる。

 回避したアカダルマが、光る弾を撃ち返す。

 リカイネンがビームを発射。軽い元素を使った、射程距離が短いもの。アカダルマを貫く。

 一斉にむらがる、周囲のアカダルマ。

 船は動かない。フォトンシールドを複数展開。光る弾が消えた。

どうじないこころ。Dイントロダクション!」

 船から発進した赤いDが、2つ目の装甲を展開した。するどい見た目。関節は茶色。装甲に黒い部分がある。黄色い装飾品。

 帽子をかぶり、口元はマスクのような形状。

「ワープ中にチャージできれば、楽できたっていうのに。まったく」

 ウリセスが、Dナインの右腕の装甲を変形させて、ビームを放った。

 ガスをエネルギーに換えている、アオボウシ。青いブラックホールエンジン。全長50メートル。アカダルマにエネルギーを伝播でんぱしている。

 ビームが速すぎるため、肉眼では命中を瞬時に判断できない。爆発。

 ひとつめを破壊した。

 下部では。

現在げんざい眼差まなざし。Dトラスト!」

 船から発進した濃い黄色のDが、追加装甲を展開した。鋭さを増す。オレンジ色の関節周り。装甲の一部が青。装飾品は赤。

 ヘルメット姿で、マスク形の口元。

 ディエゴが、Dトゥエンティーの左腕の装甲を変形させて、ビームを放つ。

 アオボウシを捉えた。ふたつめを破壊。

「みんなの頑張りを、無駄にするわけにはいかない」

 残り、上下1つずつ。


停雲落月ていうんらくげつ。Dエフェクトの力、使わせていただきます」

 あまりにも広いため、光によって得られる情報が限られる宇宙。全面ディスプレイには、はっきり映っている。レーダーの情報を基に、視覚的に分かりやすく表示していた。

 銀髪のバーティバが、コックピットで左右同時にスイッチを押した。

 Dファイブは白色を基調とした輝き。追加装甲をまとう状態のパワードスーツに近い姿に変化した。

 頭部は、髪がすこし伸びたような形状。あごの部分にかけて角張っている。

 するどい両腕の装甲が同時に変化して、巨大な砲身が現れた。

 粒子加速が同時に始まる。

 同時に発射されたビームは、それぞれアカダルマを貫いた。


 ブラックホールの上部と下部。

 ウリセスとディエゴが、それぞれアオボウシを狙う。

 アカダルマが多数接近していた。

 左腕の装甲を変形させたウリセス。すでに粒子加速中。

「悪い。こっちを優先させる」

 ビームが亜光速で放たれた。アオボウシが光る。爆発した。

 下部。

 右腕の装甲を変形させたディエゴ。粒子加速完了。

「ダメだ。やるしかない」

 ビームが発射された。アオボウシに命中。

 すべてのアオボウシは沈黙した。

 しかし、その前に多数のアカダルマからフォトンキャンが発射されていた。

 集中砲火で、2隻のリカイネンは大破。

 ウリセスとディエゴは孤立した。


「アカダルマは、力のほとんどを失ったはずよ」

 Dエイトを操縦するファリアの声は、すこし明るかった。

 桜色を基調とした機体。とがった見た目。メガネをかけ、口元はマスクのような形状。

 荷電粒子砲が標的を捉えた。赤い球体の防衛装置、アカダルマがビームで熔ける。

「フォトン武装を、全開で使えなけりゃ、こんな玉っころ」

 アイザックが鼻を鳴らした。機体は、Dトゥエンティーフォー。

 とがった見た目で、緑色を基調としている。ゴーグルをつけ、口元はマスクのような形状。

 フォトンガトリング砲でけん制。フォトンブレードでアカダルマを破壊していく。スラスターで意表を突いた。機体の128ヵ所で使用可能。

「あとは僕たちに任せて、安らかに。ウリセス。ディエゴ」

 Dエイティーンに乗るのは、チャンドラ。声は穏やかだった。

 水色を基調とした、とがった見た目。ハチマキを巻いて、口元はマスクのような形状。

 フォトンカタナがアカダルマを一閃。爆発。

 追加装甲を展開中のDシリーズ。素早い動きをすると、自動でフォトンコーティングが発生。移動部分を守りつつ、攻撃にも転化できる。

 3機は別々の場所で、別々の船を守りながら戦っていた。

「勝手に決めるな。健在だぜ、まだ」

「ビーム攻撃じゃなければ、どうということはない」

「ヒヤヒヤさせやがって。無事でよかったぜ。なんとか、クサリを目指してくれ!」

 激励したのは、薄い黄色のDを操縦するグレン。両腕からムチのように伸ばしたフォトンブレードで、アカダルマを破壊した。

「こちらの狙いを、悟られてはいけません。各自、船を防衛してください」

 白色を基調としたDファイブを駆る、バーティバ。全身50ヵ所に砲門を生成し、時間差でフォトンキャノンを放つ。

 次々と爆発していくアカダルマ。あえて安全な場所を作り、誘導していた。

 あま川銀河がわぎんがの中心近くで、光がまたたく。

「こんなの、エリカのしごきに比べたら、ぬるいぜ!」

 クサリまでは遠い。最短で、あと1万4000天文単位。


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