バーティバの決意

 金属光沢のある灰色の艦橋。たかい位置に1つ席がある。

 部屋に窓はない。外のカメラから送られてきた映像が、壁のディスプレイに映っている。

 一面に広がる星空。宇宙。

 ひくい位置にある机の上には、三面ディスプレイ。手元にはキーボード。

 宇宙での座標は、立体図で表示されていた。きれいに並んだ六角柱のフレームで、空間把握を容易にしている。

 銀色の船に、回転している部分はない。重力制御装置が働いているためだ。

 町がいくつも入るほどの大きさで、一般的な軍艦よりも艦橋は広い。

 20体以上のドウが、椅子に座っていた。メタリックな輝きの赤橙色をした人型ロボット。ドウ。目はまるく、口は長方形。装甲は四角い。手の構造は複雑で、人間に近い。

 小豆色のスーツ姿のバーティバが、一番高い席に着く。

「では、ワープ移動をしてもよろしいですか?」

「なんというか。ドウを6万体くらい倒したぞ、オレたち。大丈夫なのか?」

 黒い短髪のグレンは、気まずそうな顔をしていた。

「問題ありません。すでに、ほとんどのドウは回収済みです」

「気になっていたことがある。生身でワープって、できるのかい?」

 大きな耳のチャンドラが尋ねた。

「炭素生物は、水分を大量に含んでいるため、耐えることができません」

「聞いたことがある。重力がないと、目の中の水がかたよって、視力が落ちるって話だぜ」

 鼻の高いアイザックが手を握る。人差し指だけをのばし、上に向けた。

 すこし口をとがらせているファリア。つり目ぎみ。

「ツインタイム。あれができる以前に戦った方たちも、いたのでしょう?」

「はい。彼ら自身が望んで、身体からだを改造したのです」

 バーティバを見つめているグレン。

「それでも、勝てなかったのか」

 バーティバは、すこし悲しそうな顔をしていた。

 その表情を見逃さなかったディエゴ。厚い唇を動かす。

「まさかとは思うけど、ドウみたいな身体からだにしたのか?」

「いいえ。もと身体からだにすこし手を加えただけです。しかし、それは誤りでした」

 眉毛の太いウリセスが腕を組む。

「どうした。何があった?」

「彼らの思いは強く、それゆえに、Dの性能に身体からだが耐えられなかったのです」

「そうか。よく話してくれた。ありがとう。バーティバ」

 水色の服のチャンドラが微笑んだ。

「いまのオレたちなら、問題ないってことだ。ワープってやつを体験しようぜ」

承知しょうちしました。掛け声は必要ですか?」

「オレに聞くなよ。自分で、勝手に叫んでいいんだぜ?」

 グレンが心からの笑顔を見せた。

「ならば。ゲートを開きます」

 バーティバが机に手を当て、扉を生成した。中から白いものを取り出す。机を元に戻した。黒いつばに黄色の装飾がされている。クラウンと呼ばれる上部は白。前方と左右がすこし膨らんでいた。

 白い帽子をかぶる。

「友よ、見ていてください。……いまこそ、偽りの運命を解放するとき! ワープ開始!」

 宇宙に穴が開いた。

 船が姿を消していく。大海原を進むように、ゆっくりと。おおくの星々に見守られていた。

 なかでも、横一直線は光の密度が濃い。

 幻想的な海。

 銀色の船に帆は必要ない。流線型の前面と比べて、うしろはすこし角張っている。

 船体が全て消え、穴が閉じた。


「ここまで船が来ると思ったら、あっさり行っちゃうんだもんね」

「そうですね。ムネンについて公表していないので、仕方ないですが」

 エリカとライラは、空を見ていた。うしろでまとめられた、淡い茶色の髪が揺れる。前髪は顔を隠さない長さ。金髪ミドルヘアも揺れていた。

 フォート・リー基地には、ほかにもたくさんの兵士がいた。

 不安そうな表情のイリヤ。濃い茶色の髪をいじる。

「なんか、心配になってきた」

 ツインタイムが、次々と空飛ぶ円盤に吸い込まれていく。重力制御の範囲を下に広げていた。

 ある程度近付くと、プヘリアスの迷彩は機能しない。

 当然、近くの人々からは注目の的になっている。

 銀色の装置が六人分回収されて、基地の真ん中は広々とした。

 東からの日差しを遮るものも姿を消す。

「もうちょっと、優しくてもよかったな。なんで、優しくできなかったんだろ」

「わたしも、そう思います」

「奇遇だね。ボクもだ」

 銀色の円盤は、遠隔操作されていた。

 丸皿級プヘリアス。全長、約500メートル。

 操作している人物は、悲しげな兵士たちを情報端末じょうほうたんまつの画面で覗いた。

「地球の平和を守るのも大事。でも、この人たちの笑顔も守りたいですね」

 電子音は鳴らなかった。


 宇宙に開いた穴から、浮島級リカイネンが現れた。

 全長、約100キロメートル。

 輝く星々。密度が濃い。光にあふれている。

 銀色の軍艦は、鋭さを前方に向けている。上部が戦艦のような見た目に変形していた。

 1せきではない。

 別の穴が開いた。次々と現れていく。6隻の船が、隊列を組んで静止した。

 さらに巨大なものが宇宙に浮かんでいた。

 全長、約1700キロメートル。銀色の球体。月の半径に近い長さだった。

 壁に映る、巨大な物体を見つめる面々。

 メタリックに輝く灰色の艦橋。地球のツインタイム使いたちは呆然としていた。グレンが口を開く。

「なんだ、あれ。いや待て。太陽が近くにないのに、なんで見えるんだ?」

「あれは衛星級マトクスター。レーダーで得た情報から、視覚的に分かりやすく表示しているのです」

 広い艦橋を見下ろす高い位置の席から、帽子姿のバーティバが答えた。

「作戦会議といかないか?」

 黄色い服のディエゴが提案した。

あま川銀河奪還作戦がわぎんがだっかんさくせん、って言うだろうな。将軍しょうぐんなら」

 グレンは笑っていた。

 疲れを知らない仮の身体からだなので、誰も座ろうとしなかった。

 知らない声が聞こえてくる。

「どうも。アルヴァタというケイソ生物デス。お話、よろしいデスカ?」

「おかまいなく。どうぞ」

 黄緑色の服のファリアが、物怖じせず答えた。

「タカク的な攻撃で、ムネンのエンザン能力を分散させる作戦になってイマス」

成程なるほど。まだ、機は熟していないというわけですね」

 バーティバの言葉に、チャンドラが反応した。

「これで、まだ全戦力じゃないって言うのかい?」

「こんにちは。けいそ生物の、ジョウトゥアです。みなさま、お元気ですか?」

 さらに、知らない声が聞こえてきた。

 ウリセスが答える。

「おう。元気だぜ。なんの用だい?」

「たすうの船が、べつの場所でどうじ攻撃をしかけるまで、もうすこし先です」

「用件を言いましょう、さきに。ヘルジョイテラです。どうも」

 またも、声が増えた。

「よろしくな。用件というのは、なんだ?」

 緑色の迷彩服のアイザックが尋ねた。

「そうでした。みなさまに、お渡しするものがあります。すでに、向かっています」

「お。気になるな。見にいこうぜ」

 灰色の迷彩服姿のグレンが、艦橋から出ていく。バーティバと五人のツインタイム使いも続いた。

紅蓮ぐれんさん、どこへ向かえばいいのか、ご存じなのですか?」

「知るわけないだろ? バーティバ、頼む」

 バーティバに案内されて格納庫へ向かう。巨大な船には、たくさんの出入り口があった。

 カタパルトも巨大。向こう側からやってくるのは、銀色の円盤。

 中から、彫刻のような人型の金属が降ろされる。その名はD。全長、約13メートルのロボット。

 5機のDが格納庫に並んだ。


「どう考えても、俺はこれ。だろ?」

「Dシリーズ・タイプI、です。赤色を基調としていて、Dナインと呼ばれています」

 銀色の格納庫に並ぶ、巨大な金属の塊。それぞれ細部が異なる。丸みを帯びている部分が多い。装飾品のようなものもある。頭部は人の顔に近い。

 反対する者はなく、ウリセスの太い眉毛が上がった。笑顔になる。

「よろしく頼むぜ、相棒」

「どう考えても、わたくしがこれ、でしょう?」

「Dシリーズ・タイプH、です。桜色を基調としていて、Dエイトと呼ばれています」

「なんで、服は黄緑色なのに、それ選んだんだ?」

 灰色の迷彩服姿のグレンが尋ねた。

「逆に、服と同じような色を選ぶ理由が、分かりません! それに、グレンだって――」

「そうだな。これが、おまえが言うな、ってやつだな」

 柔らかな表情の男性を見て、ファリアのつり目ぎみの目じりがすこし下がった。

「ぼくは、こいつだ。いいかな?」

「Dシリーズ・タイプT、です。濃い黄色を基調とした、Dトゥエンティーです」

 淡々と説明する、白い帽子姿のバーティバ。

 ディエゴの厚い唇が開いて、感謝の言葉が伝えられた。

「おれは、最後でよかったんだが。決めないなら選ぶぞ」

「Dシリーズ・タイプX、です。緑色を基調とした、Dトゥエンティーフォーです」

御大層ごたいそうなのを、選んじまったようだな」

 アイザックは高い鼻を鳴らした。緑色の迷彩服姿の男性は、巨大ロボットを見つめている。

 バーティバが、五人目を見た。

「残り物にしようと決めてたのさ。僕は。なんていう機体なんだい?」

「Dシリーズ・タイプR、です。水色を基調としている、Dエイティーンという機体です」

 大きな耳のチャンドラは、嬉しそうな顔。

「乗ってみても、構わないかな?」

「そうですね。みなさんも、紅蓮ぐれんさんも、宇宙での操縦に慣れておいたほうが、いいでしょう」

 銀色の格納庫に置かれた色とりどりのロボット。

 地球では、巨大ロボットに分類される。

 胸部装甲の隙間を操作する五人。左右に開いた装甲の中心から乗り込んでいく。

 眺めるバーティバが、ポケットに手を入れた。

「おや。そういえば、そうでした」

 帽子の位置を直す。両手をあわせ長方形を作り、片目を閉じて覗き込んだ。

 5つのDの目が同時に光った。


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