七つのツインタイム

「では、参りましょう」

「そうだな」

 バーティバとグレンは、音もなく浮かび上がった。グレンの短髪は揺れない。慣性の影響も、風圧もない。

「決め台詞は、よろしいのですか?」

「普通の姿でやったら、おかしいだろ?」

成程なるほど。さらに、親交を深める必要がありそうです」

 ものすごい速度で海の上を進み、一瞬で南アメリカ大陸の上空に着いた。

 重力制御によって、急加速の影響はない。マッハ3を超えても、熱の壁の影響を受けない。

 高速で移動した場合、圧縮された空気は高温になる。熱の壁。断熱圧縮された空気により、飛行が困難になる。通常は。

 使用制限の解除とともに、すべての制約から解放されたツインタイム。

 これにより、使用可能なエネルギーが増大。現状、最大で3000億クーロン・ボルトになる。3年のあいだ自動車を走らせても余りある力。重力制御装置を小刻みに使って、節約する必要はない。

 広がる景色は頂上台地。

 その上から流れをたやさない、巨大な滝が見える。

 二人は、テーブル状の台地の上に降りていく。

 紫味を帯びた赤褐色のスーツは、風になびかなかった。銀髪も激しく動くことはない。

「現在、この軍艦、浮島級リカイネンにより、ツインタイムにエネルギーが伝播でんぱされているのです」

 話している途中で、台地の上に銀色の船が現れた。光や赤外線を曲げることで迷彩をおこなっている。

 全長、約100キロメートル。

 リカイネンには、ウェーブリアクターを6基搭載している。

 1基の最大出力は、5000億クーロン・ボルト。

「言いにくい名前だな。というか、ムネンやクサリを名付けたのって、炭素生物だろ?」

「はい。彼らは、よき理解者であり、友人でした」

 すでに、リカイネンの上部は戦艦のような形に変形していた。

 下降する二人。

 銀色の巨大な軍艦の上には、5つの人影があった。太陽の光は、東のすこし高いところから降り注いでいる。

「グレン。会えてうれしいよ。カタナは持っていないのかい?」

 水色の服の男性は、興奮した様子だった。インドのツインタイム使い、チャンドラ。二十一歳。隣の男性に抑えられて、おとなしくなった。

「こんなことに、なってたなんて。これからが、恩返しの時間だ」

 黄色い服のディエゴ。十八歳。軽くお辞儀した。フィリピンのツインタイム使い。隣の女性に目配せをした。

「一人でやってこられたなんて、思わないほうがいいです」

 黄緑色の服のファリアは、眉を下げていた。十九歳。パキスタンのツインタイム使い。照れくさそうに笑う。すこしうしろに下がった。

「よお。殴り込みのときは近いぞ。頼りにしてる」

 赤色の服の男性は、組んでいた腕を下ろした。メキシコのツインタイム使い、ウリセス。二十一歳。わずかに微笑んだ。

 グレンが口を開く。

「四人はいいけど。なんで、空軍の人がいるんだ?」

 緑色の迷彩服姿の男性が立っていた。爽やかな笑みを浮かべている。

「アイザック。空軍所属。航空兵長こうくうへいちょう。宇宙では階級関係ないから、気にするな」

 高い鼻が印象的。どこか儚げな雰囲気。

 アメリカが某国ぼうこくから譲り受けて誕生した、二人目のツインタイム使い。二十三歳。某国で戦っていた。デイヴィッド大統領は、襲撃に我慢できなかったらしい。

「まあ、自ら乗り込まなかっただけ、マシか」

 グレンは苦笑いしていた。

「七人になったことですし、一度やってみたかったことを、やりましょう」

 バーティバの提案。困惑を見せたのは、ファリアだけだった。

変身へんしん!」

 七人がきれいに並ぶ。

 同時にパワードスーツ姿に変わった。装着そうちゃくは一瞬のことである。

 それぞれ、白に近い薄緑色・紺色・水色・濃い黄色・桃色・赤色・濃い緑色。メタリックな輝きを放っている。

 ハッチが動き、ドアが開く。情報端末じょうほうたんまつで写真が撮られた。

「思っていたのとは、すこし違いましたね。もっと、溜めが必要でしょう?」

 銀髪にあずき色のスーツ。バーティバと同じ見た目の人物が現れた。


「双子だったのか? そうなら、そうって言ってくれよ」

 グレンはパワードスーツを解除した。

「いえ。炭素生物とは、遺伝情報の伝達方法が違うので。一言で表すなら、分身です」

 紺色のパワードスーツ状態を維持したまま、バーティバが説明した。

「ワタシは、バーティバ=ツー。この地球を守るために、生まれてきました」

「うーん。雰囲気が違う気がするな。本当に分身か?」

「完全なコピーではありません。記憶はほとんど同じですが、この個体は生まれてから日が浅いのです」

 パワードスーツ姿のバーティバが答えた。

「ムネンの停止に絡み、バグ発生の可能性あり。有事の際は、ワタシが地球を防衛します」

「助かるぜ。これで、安心して殴り込みに行けるってもんだ。なあ?」

 グレンが、六人のほうを見た。

 全員、パワードスーツ姿のまま、思い思いのポーズを取っている。

 グレンが、再びパワードスーツを装着そうちゃくする。敬礼した。

 バーティバ=ツーは、情報端末じょうほうたんまつで写真を撮った。


 戦闘準備のため、すぐには出発しない。

 集まった各国のツインタイム使いたちは、いったん解散することになる。宙に浮いて、あっというまに姿が見えなくなった。

「バーティバ=ツー。丸皿級プヘリアス。発進します」

 全長、約500メートル。銀色の巨大な円盤は、空の彼方へ消えていった。

「地球の平和はあの個体に任せて、こちらへ。見てほしいものがあるのです」

 グレンとバーティバは、巨大な船のハッチを使用した。

 ドアが開く。

 目の前には、広い銀色の格納庫。

「見せたいものって、これか?」

 薄い黄色をした、彫刻のような人型の物体が立っていた。ぽつんと、1体だけ。全長、約13メートル。わずかに金属的な輝き。関節部分は緑色。体のあちこちに赤色の部分がある。装飾品は黒色だった。丸みを帯びている部分が多い。頭部は人の顔に近い。

「これは、Dシリーズ・タイプAという機体です」

「Dって、ウルフの言ってた?」

「そうです。ワタシたちケイ素生物には、性能を引き出すことが叶わなかったのです」

「てことは、炭素生物と協力して開発した機体、ってことか」

 巨大ロボットを見つめるグレン。

「こんなこともあろうかと、ハイパフォーマンスを行ってきました」

「性能を引き出す、か。バーティバになら、できそうだけどな」

「いえ。この機体は紅蓮ぐれんさんが使ってください。いますぐに、テストしましょう」

 ラセットブラウンのスーツ姿のバーティバは、Dの胸へと飛行した。

 手を装甲の隙間に入れて、スイッチを操作。すると、胸板のような装甲が、それぞれ左右に開く。グレンのいるほうへと戻っていった。

 二人はすれ違う。

「よし。やってみるか」

 迷彩服姿のグレンは、胸部に開いた穴へと消えていった。

 コックピットは球形の空洞。足元だけ、すこし平らになっている。全面ディスプレイ。格納庫の様子が映し出されている。

「ハガネと似てるな」

 グレンが、足元に転がっていた金属の棒を2本持つ。胸部装甲が閉じた。

 薄い黄色のロボットの目が光をはなつ。

 バーティバは微笑んでいた。

「思いを力に変える機体です。紅蓮ぐれんさんなら、Dアクセルも使用可能なはず。叫んでください」

 コックピットのグレンは、必要のない深呼吸をした。

 全面ディスプレイの一部に、文字が表示されている。

一意専心いちいせんしん?」

「タイプAには、そのような文字が表示されるのですね」

 目をつむったグレンが、再び開く。

「D! アクセル!」

 ロボットの装甲が変化していく。丸みを帯びている部分のほうが、すくなくなった。

 追加装甲をまとった状態のパワードスーツに近い姿になる。とがりかたは控えめ。頭部も変形していた。燃える髪が逆立っているような形状。角張ったマスクのような口元になっていた。

「素晴らしい」

 情報端末じょうほうたんまつを取り出したバーティバは、写真を撮った。


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