ツインタイム起動

解析かいせきには、時間じかんがかかりそうだよ」

「もう、腹減はらへってもいいころだろ?」

「そうだね。このあたりの店、知ってる?」

「いや。腹減はらへってないんだけど」

 イリヤとグレンは、灰色はいいろ部屋へやの中にいた。大きなまどから外を見るグレン。日が南かららしている。

 銀色ぎんいろ装置そうちが真ん中に置かれていた。装置そうちには2個のカプセルがならぶ。ゆるやかに傾斜けいしゃして。その右側。カプセルの中にすわ迷彩服姿めいさいふくすがたの男性を、紺色こんいろの服の男性が見ている。

「そうだろうね。ほとんど金属きんぞく身体からだだから」

帽子ぼうし身体からだの一部、なんて笑えないぜ。元の身体からだもどれない、なんて言うなよ?」

「どうかな。左側のカプセルの中は、時間じかんが止まっているらしい」

 装置そうちのカプセル上部にある引き戸。右側はスライドして開いている。

 左側は閉じられていて、透明部分とうめいぶぶんくろくなっている。

いきできないだろ、それ」

時間じかんが流れてなければ、呼吸以前こきゅういぜん問題もんだいだと思うけど」

「それもそうか」

くろく見えるのは、光がそこで止まっているから。現状げんじょうでは、中を見る手段しゅだんがない」

 イリヤは、喜々ききとしてグレンの身体からだを調べていた。

時間じかん、止まってるのに、なんでオレ動けるんだ?」

「なんらかの方法ほうほうで、記憶きおく直接共有ちょくせつきょうゆうしている、と思う。並列へいれつでね」

「まあいいや。そろそろ元に戻してくれ」

 借り物の身体からだを動かしているグレンが、カプセルの中に横たわった。高いほうに頭がある。目を閉じた。

 ためらいがちに手をのばす、イリヤ。

 右側のカプセルにあるスイッチが押された。頭側から足元に向けスライドして、引き戸が閉じる。

 みじか沈黙ちんもく

 両方の引き戸が同時にスライドして開く。右側のカプセルの中には、赤橙色あかだいだいいろの四角いロボットが横たわっている。

 左側のカプセルの中から、迷彩服姿めいさいふくすがたのグレンがあらわれた。

腹減はらへったな。めしにしようぜ」


 将軍しょうぐんの言う“勝手かってうごいているこま”とは、海軍第かいぐんだい10艦隊かんたいのことだった。

 別名べつめい艦隊かんたいサイバーコマンド。

 ぐん海兵隊かいへいたいそれぞれに存在そんざいする、ネットワーク担当部隊たんとうぶたいの1つ。海軍かいぐんでありながら陸上りくじょうでの活動かつどうしゅとしていて、情報じょうほう入手及にゅうしゅおよ行動こうどうが早い。本部ほんぶちかくのしゅう灰色はいいろ建物たてもの提供元ていきょうもとでもある。

「ホレイシオ将軍しょうぐんしたしいレフティ司令官しれいかんが、独断どくだんで動いたようです」

 説明せつめいえた、紺色こんいろの服の女性。すこしだけ表情ひょうじょうゆるませていた。

「なるほどね。しろふねぬしも?」

 イリヤが質問しつもんして、色白いろじろのライラが答えた。ふね兵士へいし私物しぶつだという。

 横にならぶ二人。木の椅子いすすわっている。目の前には大きな木の机。

 おなじくならんですわるグレンとエリカは、だまっていた。灰色はいいろ迷彩服姿めいさいふくすがた帽子ぼうしかぶっていない。時計とけいをちらりと見る。

 同い年の四人が、木の机をかこんでいる。

「もう、来てもいいんじゃないか?」

我慢がまんしなさい」

 チャイムがった。

 グレンが一番に部屋へやを出て、三人がつづく。

 最初さいしょもどってきたのはイリヤ。次がライラ。二人とも、ものかれたはこを持っている。四角い。

 すぐ全員ぜんいんがそろった。

 エリカは何も持っていない。

 右手と左手それぞれにはこかかげるグレン。ならべて机の上に置く。

 せきいた四人。飲み物もよっつならぶ。

 紙のはこが開かれた。直径ちょっけい40センチメートルのピザが姿すがたを見せる。

 ふちがすこしり上がった、まるうすいパイのような生地きじ。トマトソースがかれている。その上にこんがりとしたチーズ。ひかえめな量の野菜やさいにくは、かれたことでほとんどチーズの中にもれている。

 中心から、放射状ほうしゃじょうに切れ目が入れられていた。

 宅配たくはい主流しゅりゅう分厚ぶあついイタリア風ピザではなく、うす生地きじ特徴とくちょうのニューヨーク風ピザ。外はカリカリで、中はもっちり。たたんで携帯けいたいでき、手がよごれないのでおやつにも最適さいてき

「食べないのか?」

「手がつかれてるの」

「オレが無茶むちゃさせたからな。仕方しかたない。食べさせてやるよ」

「あ。うん。そうね。仕方しかたないわね」

 手でつまんでげてもソースはたれない。

 がこぼれることもなく、昼食ちゅしょくわる。


 食後しょくご談笑だんしょうと、歯磨はみがきのあと。

 四人は、銀色ぎんいろ装置そうちいてある部屋へやに入った。

「まずは写真撮しゃしんとろうぜ。にしても、ほかに何もないな、この部屋へや

かり本部ほんぶだからね。装置そうちぐん施設しせつくわしく調べることになる、と思う」

 構図こうずを考えているグレンに、イリヤが答えた。

 エリカは微笑ほほえんでいる。

解散前かいさんまえに、写真しゃしんわるくないわ」

「わたしがります。集まってください」

 すでに情報端末じょうほうたんまつ操作そうさしていたライラを、グレンが制止せいしした。

 部屋へやから出ていき、木製もくせい椅子いすを持って戻ってくる。

装置そうちの前で、四人でるぞ」

 グレン・エリカ・ライラ・イリヤの順でならぶ。

 銀色ぎんいろ装置そうちの前で思い思いのポーズを取った。

 右ひじをげ、指をのばして顔の近くでななめに上げるグレン。笑顔えがお灰色はいいろ基調きちょうとした迷彩服姿めいさいふくすがた。がっしりとした体格たいかく。その頭はくろ短髪たんぱつ

 背筋せすじをのばして、にこやかに微笑ほほえむエリカ。服装ふくそうはグレンと同じ。背は20センチメートル低い。あわい茶色ちゃいろながかみは、うしろでむすばれている。前髪まえがみは長くない。

 両手を身体からだの前で組むライラ。表情ひょうじょうかたい。紺色こんいろの服で、スカート姿すがた金髪きんぱつミドルヘアが小刻こきざみみにれていた。

 左手をこしに当て、口元くちもとゆるめるイリヤ。紺色こんいろの上着に、青色あおいろの長いパンツ。茶色ちゃいろかみは、普通ふつうよりすこしびている。

 セルフタイマーにより、撮影さつえいがおこなわれる。

 椅子いすの上から電子音でんしおんった。

 確認かくにんするライラに、グレンが聞く。

れてるか? 送ってくれよ」

「ネットにこの画像がぞうを流すことは、許可きょかできません」

「メールで送るだけだろ」

傍受ぼうじゅ可能性かのうせいがあるので、容認ようにんできません」

 高度こうど暗号通信あんごうつうしんのできない、私物しぶつ情報端末じょうほうたんまつによる送信そうしん不可ふか。ライラはかたくなだった。

 四人は、さらに3枚の写真しゃしんった。

 グレンはうれしそうに情報端末じょうほうたんまつを見ている。

だれけても、無理むりだったよな。今回こんかい任務にんむ

「うん。でもさ、何かがおかしい」

 イリヤの言葉ことばに、三人ともすこしまゆをひそめた。

 エリカが口を開く。

色々いろいろと、おかしいところがあるのはたしかね。てきに」

未確認情報みかくにんじょうほうですが、聞きますか?」

 ライラがたずねて、三人がうなずいた。情報端末じょうほうたんまつ操作そうさされる。

「世界の10かしょ襲撃しゅうげきされたと思われます。ジャカルタ、デリー、マニラ……」

「ちょっと。うそでしょ?」

 エリカの顔は青ざめていた。

「どうした?」

「ニューヨーク周辺しゅうへん人口じんこうが、約2000万人まんにん。3つの都市周辺とししゅうへんと合わせると、消されたのは1億人以上おくにんいじょう

 理解りかいできていないグレンに説明せつめいするイリヤ。

 ライラの話はつづく。10の都市としを合わせると、推計すいけいで2億人以上おくにんいじょう消滅しょうめつしていた。

 情報じょうほう錯綜さくそうしていて、正確せいかく状況じょうきょうはつかめない。

「その気になれば、あっというまに地上ちじょう支配しはいできるってことか。ん? おかしいぜ」

問題もんだいはそこ。何かの理由りゆう目的もくてきがあるとしか思えない」

 イリヤが断言だんげんした。

 次の言葉ことばはっせられる前に、ライラの手が上がる。

てき一言ひとことあらわせるよう、コードネームをけることを提案ていあんします」

「いいね。何か思いついた?」

「ロボットを尖兵せんぺいとしているところから、メタル」

 すこし表情ひょうじょうゆるませたライラに対して、となえるものはいなかった。


「まずは、こいつを調べて兵器へいき転用てんようしないと、な」

 グレンは銀色ぎんいろ装置そうちれた。

 なだらかに傾斜けいしゃした2つのカプセルがならんでいる。低くなっているほうに足を入れるとやすい。

 開いている上側は、スライド式の引き戸。使用者しようしゃは左側に横たわる。

 右側には機能きのう停止ていしした赤橙色あかだいだいいろのロボット。暗号名あんごうめい、ドウが横たわっていた。

「はい。あたしもためしたい」

 宣言せんげんしてすぐ、エリカは左側のカプセルに近づく。中に入った。

「クレイジーだな」

「何? 仕返しかえしのつもり? さっさと起動きどうしてよ」

「どうなっても知らないぞ」

 グレンがスイッチを押した。

 そして、何も起こらなかった。

「おい。イリヤ。こわしたな。将軍しょうぐんにはだまっといてやるよ」

「何もしてないよ。次はボクがためす」

 エリカと交代こうたいで、左側のカプセルに入るイリヤ。

 グレンがスイッチを押して、何も起こらなかった。

「次は――」

 エリカが言ったときには、ライラは壁際かべぎわまで下がっていた。

こわくないです。本当ですよ」

「なら、たのむ。そのあとはオレだ」

 グレンに言われて、まゆを下げたライラが左側のカプセルに入った。けわしい顔で目をつむる。

 スイッチが押されて、やはり何も起きなかった。

「まさかとは思うけど……いや。グレン、ためして」

「なんだよ。出てきたら教えろよ」

 ライラが出たあと、グレンが中で横になった。

 イリヤがスイッチを押す。引き戸が動いた。頭側から足元へ向かってスライド。

 右側の引き戸も、同時どうじに同じ動きをした。

 閉まった引き戸の透明部分とうめいぶぶん黒色くろいろになる。

 右側の引き戸のいろが戻って、開く。足元から頭側へスライド。

 カプセルから、灰色はいいろ迷彩服姿めいさいふくすがたの男性があらわれた。体つきがよく、身長しんちょうは四人の中で一番高い。くろ短髪たんぱつ

 立ち上がって、右手で頭のうしろをかく。

帽子被ぼうしかぶってないから、今度こんどはないな」

「やっぱり。生体認証せいたいにんしょうでグレンしか使えなくなったみたいだ」

「自分の身体からだが見えないのは、やっぱり不安ふあんだぜ」

「中の時間じかんが止まって、光も止まっているから。って、説明せつめいしたでしょ?」

 イリヤは落ち着いていた。

何度見なんどみても、そっくりよね。本当にグレン?」

何度聞なんどきかれても、オレはグレンだ。所属しょぞくを言えばいいのか?」

 エリカにつられて、かり身体からだになったグレンも笑った。

「ところで、光のたまけんが出せないのは、なぜなんだ? イリヤ」

素体そたいとなっているドウに変形機構へんけいきこうはないから、単純たんじゅんに考えれば、知らないからできない」

「知ってることならできるかも、ってことか」

「ちょっと。ここであばれないでよ」

 エリカは本気ほんきあわてていた。

「ところで、銀色ぎんいろ装置そうちにもコードネームをけることを推奨すいしょうします」

 ライラはすこしほおめていた。三人から離れて立つ、色白いろじろ金髪きんぱつミドルヘアの女性。

 普段どおりの表情ひょうじょうでイリヤがちかづく。

「うん。まかせる」

瓜二うりふたつの身体からだを作って時間じかんを止めることから、ツインタイム」

 三人は微笑ほほえんで肯定こうていする。

 ライラは、今日一番きょういちばん笑顔えがおを見せた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る