銀の装置と白の装置
「あんた、誰?」
背の低い女性は警戒していた。腰の刀に手をのばそうとして、顔をゆがめる。
灰色の迷彩服とおなじ色の帽子を身に
セントラル・パークの広場。
「ああ。そうか。オレ、見た目がギンになってるのか?」
背の高い男性が右手を見た。手は肌色。服は灰色の迷彩。帽子も同じ模様で、髪は短い。黒色。
「あれ? エリカ。失敗か?」
エリカは眉を下げている。
「うしろを見なさい。あなたが出てきたのは?」
「右側じゃねぇか! 左側に入っただろ? オレ」
銀色の装置には、ゆるやかに傾いた2つのカプセルがある。その左側は完全なカプセルの形で、上部は黒色。右側で開いているのは、上部スライド式の引き戸。
「本当にグレンなの?」
「グレン・チカマ。陸軍ワシントン地区隊所属。
「第5軍。北方陸軍、
緊張感のない二人に向かって、2体の銅色のロボットが歩いてきていた。
「とりあえず、
「寒いわけじゃなくて。あたし、腕痛いから。頑張って」
エリカが見守るなか、グレンは
銀色の装置と白い装置がある場所のまわりが、広く
迫る2体のロボット。男性よりも背は低い。コードネームは、ドウ。
「この刀って、バッテリー残ってるのか?」
グレンが刀を両手で構えた。
安全装置が解除された
ドウに攻撃を仕掛けて、胸に突き刺さらなかった。
刀を受けたドウが、2メートル近く吹き飛ぶ。機能を停止した。
「イリヤ。どうなってるんだ?」
『聞かれても困るよ。とりあえず、人格はグレンと同じみたいだ』
通信している男性から、困惑した声が発せられた。
グレンとエリカは、左耳のインナーイヤー型のヘッドフォンで声を聞いている。マイク機能により双方向通信が可能。
「そういえば、変なんだけど。おかしいな。息しなくても苦しくないぞ」
喋りながら突き出された刀。ドウの胸に届いた。やはり2メートルほど吹き飛んで、機械人形は動かなくなった。
セントラル・パークには、まだ多くのロボットが並んでいる。そのうち2体のドウが、銀色の装置を目指して動き出す。
「回収班、いないの? このままじゃ、まずいわ」
エリカは腰の刀に触れもしなかった。リミッターを外した振動剣は、
「よし。光の弾を食らえ!」
グレンが右手を構えて、何も起きなかった。
『映像からは、変化が確認できません』
冷静に状況を伝える、よく通る声の女性。ライラは普段と変わらず落ち着いていた。
ドウの動きは遅い。枯葉に覆われる林の中にいた。
銀色の装置と白い装置は、
『ふむ。2つの装置を持ち上げて、移動してはどうかね?』
渋い声の男性が提案した。ホレイシオ
グレンの眉が下がる。
「さきほど、ドウですら持ち上がりませんでしたよ」
「命令よ。持ち上げて」
「クレイジーだな。まったく」
エリカの命令で、グレンは銀色の装置に近づく。しゃがんで両手を下にのばした。持ち上げようとして、やめた。
不思議そうな表情のグレン。装置を右腕一本で持ち上げた。
公園に立つ二人は、腰に帯を巻いている。黒い鞘に入った刀を帯びていた。
「なんだか分からないけど、撤収だ」
「そうね。船のところまで行きましょう」
男性の意見に女性が同意した。同じ色の迷彩服を着ている。
任務のうち、ギンの破壊は成功。残りは、装置の
装置は2つ。白いほうは小型自動車並の幅。高さ約1メートルで、屋根はない。銀色のほうも、サイズはほぼ同じ。ちがいは、傾斜したカプセルが2個あること。右側のカプセルの引き戸は、斜めにスライドして開いていた。
銀色の装置を持ち上げているグレン。あせもかかず軽々と移動させて、白い装置の上に置いた。
最初から1つの装置だったかのように、ぴったりと重なる。
ピアノの音が聞こえてきた。
装置を目指して歩いていた2体のドウが、同時に動きを止める。
「おいおい。嫌な予感がするぞ」
「考えても仕方ないわ。撤収!」
エリカが前に立ち、二人はセントラル・パーク南の出口を目指す。
銀色と白。重ねられた装置から鳴り続ける、悲しげな旋律。両手で頭の上に装置を掲げているグレンは、冴えない表情のまま歩く。
『ドウ、依然沈黙』
ライラからの通信も、グレンの耳には届いていないようだった。
「退路は確保されているみたいね」
セントラル・パークの外に出た。7番街を歩くエリカが、白い息を吐き出した。
大きな装置を両手で運ぶグレンは、辺りを警戒している。
「さっきの2体、どうなった? いないぞ」
『映像が届いていないため、不明です』
通信の声には、感情がこもっていなかった。
装置から聞こえるピアノの音が、すこしだけ小さくなった。
十字路をすぎて、五十七番通りに出た二人。映像を送っているという、別動隊の姿は見えない。西へ移動する。
8番街。
9番街。
10番街。
11番街。
ハドソン川の手前、12番街も抜けた。刀に手が触れられることはなかった。
歩みを進めるごとに、すこしずつ小さくなっていくピアノの音。
川の流れが見えた。
エリカが、かわいらしい声を上げる。
「船を確認したわ」
「早くこいつを下ろして、オレの
グレンは、相変わらず両手を頭の上にのばしていた。かぼそい音で曲を流す、大きな装置を掲げて歩いている。
『うん。解析できれば、これ以上ない戦力になるはず』
通信の声には、興奮の色が混じっていた。
イリヤに応答するグレン。
「どうやら、そう簡単にはいかないみたいだぜ」
川に突き出した巨大な四角い岸壁。道路が4本のびている。エリカとグレンが立つのは、岸壁の手前。一番北側の道路の前。
建物が立ち並ぶ路地から、次々と何者かが現れた。
濃い青色のスーツに身を包んでいる。総勢十名。白い船の前に立ちはだかった。
「別動隊の方々ですよね? お疲れさまです」
明るい声を出したエリカ。まぶしい笑顔を、うしろに立つグレンが見ることはできない。
十名は、グレンに勝るとも劣らない筋肉を備えていた。
ライラからの通信。
『これまでの状況から考えて、船の近くへ移動すると何かが起こる可能性があります』
「ああ。来たとき、この岸壁から出たら、ドウが動き出したんだったな」
「覚悟はできてるわ。でしょ?」
「いまさら、だな」
『分かりました。二人を通してください』
通信のあとすぐに、十名が白い船から離れた。
「え? ライラの手下?」
「違いますよ。二人ともお疲れさまです。帰りは、我々が操縦します」
スーツ姿の男性が微笑む。耳にはヘッドフォンが
エリカに続いてグレンが岸壁へ出る。装置から鳴り続けていたピアノの音が止まった。
ニューヨーク市に変化はない。
十名は水色の船でやってきていた。白い船と同型で、全長、約二十メートル。
救命胴衣を着用する十二名。
白い装置の上から銀色の装置が下ろされて、別々の船へと積まれる。
六人ずつに別れて、
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