機械人形

 銀色ぎんいろのロボットに気づいた二人が、装置そうちから距離きょりる。

 両手でかたなかまえて、周囲しゅうい警戒けいかい

 ちゃいろの木が目立つ公園こうえんなら銅色どういろのロボットに変化へんかはない。身動みうごきひとつ取らずに止まったまま。みどりの足元にころがっている、撃破済げきはずみのものも変わらない。

 空はれ、いつのまにかゆきんでいた。東からあらわれた太陽たいようがあるのは、すこし高い位置いち

「ギンを確認かくにん。ドウに変化へんかなし」

 迷彩服姿めいさいふくすがたのエリカが報告ほうこくした。応答おうとうつ。イリヤのやさしそうな声が聞こえてくる。

『何が起こるか分からない。注意ちゅうい

「見せてもらおうか。性能せいのうちがいってやつを」

 通信つうしんけて、グレンが不敵ふてきみをかべた。

 ロボットが右腕みぎうで真横まよこにのばす。銀色ぎんいろの体が光を反射はんしゃし、色付いろづいた木にとまる鳥をがした。手の近くの四角い装甲そうこう変形へんけいして、じゅうのような部品ぶひんあらわれた。そのままうでを二人に向ける。

じゅうを使うなんて聞いてないぞ!」

 かたなさやにしまったグレン。たおれたドウをかかえようとして、持ち上がらなかった。

たてにするのは無理むりみたいね」

 エリカは冷静れいせいだ。両手でかたなかまえつづける。

 ギンの右腕みぎうでから光がはなたれた。破裂音はれつおんがなく、火薬かやくを使ったものではない。ちいさなたま目視もくしできる。

 おそい。秒速びょうそく80メートル。

 大きく横に動いたエリカのうしろで、芝生しばふに小さな穴ができた。

連射れんしゃされなくて助かったわ。攻撃こうげきおそい光。威力いりょくはそれなり」

 よくとおるライラの声が聞こえてくる。

『ドウとはちがい、ギンは武器ぶき使用しようするということですね。撤退てったい推奨すいしょうします』

装置そうちは目の前だっていうのに。なんとかならないのか」

 さやからかたないたグレンは、人任ひとまかせだった。銃口じゅうこうを向けられた迷彩服姿めいさいふくすがたの男性が、ぼやきながら光るたまをよける。

 ギンをじっと見つめるエリカ。

一撃いちげきじゃあ、たおせそうにないわね」

「なるほど。了解りょうかい

 迷彩帽めいさいぼうからするど眼光がんこうをのぞかせる二人。じりじりと銀色ぎんいろのロボットへちかづいていく。

 グレンがねらわれた。

 右腕みぎうでから光がはなたれたときには、すでに攻撃対象こうげきたいしょうは左前方へ走っていた。ギンのひじを狙って左手一本でられるかたな寸前すんぜんで光にはばまれる。

「ビームブレードかよ」

 左腕ひだりうで装甲そうこう変形へんけいさせたギンは、光るけん発生はっせいさせていた。鍔迫つばぜいの格好かっこうになる。

かたなけた?』

「いや。ってるけど?」

 イリヤからの通信つうしんに答えるグレンは、ギンの右腕みぎうで警戒けいかいしていた。

 横からかたなが向かってきて、ギンの左ひじの内側にさる。エリカの人差し指ががった。まだ光るけんは消えない。

「ちょっと。バッテリー切れ!」

「いったん下がるぞ」

 グレンの提案ていあんで、エリカがギンと距離きょりを取った。たばねられたながかみれる。

けてないなら、ビームじゃない。おそらく、たまと同じ原理げんり

 鍔迫つばぜいを中断ちゅうだんして、グレンもうしろに下がる。

かたな交換こうかんしようぜ」

「そっちもからでしょ? バッテリー」

「いや。ほぼ満充電まんじゅうでんのままだぞ。使ってくれ」

 ギンの右腕みぎうで警戒けいかいしながら、二人はかたな交換こうかんした。

「まさか、振動しんどうなしでたたかってたの?」

意外いがいといけるもんだな。うでつかれたけど」

 光るたまんできて、グレンは横にかわした。

「どっちがゴリラよ。まったく」

「イリヤ。リミッターの解除方法かいじょほうほうはなんだ?」

『言ってないよね? それ』

「パワードスーツ用だから、あるだろ。使わないと確実かくじつたおせない。エリカなら、できる」

 ギンの右腕みぎうでは、二人のあいだでれていた。

柄頭つかがしらのふたを開いて、スイッチをす』

つかの中心にもがねが出てきたわ」

 光るたまけながら、エリカが応答おうとうした。つかには、縦に2つがねがならぶ。

『それ単体たんたいでは作動さどうしない。中心のがねを引きながら、つばの近くのがねも引く』

「引きながら引くね。了解りょうかい!」

 ギンの右腕みぎうでねらったエリカのかたなが、光るけんふせがれた。

 グレンは、ギンの左腕ひだりうでについたきずめがけかたないた。左腕ひだりうでの光るけんが消え、ひじが下がる。引き抜いて、ギンの右腕みぎうでかたなてる。

右腕みぎうでまかせろ」

まかせた!」

 すでに、左手の人差し指でがねを引いているエリカが、ギンのむねねらう。装甲そうこう隙間すきまをとおってさるかたな。右手の人差し指ががる。

 高くふるえた音がひびく。高周波こうしゅうは振動しんどうで上がった威力いりょくにより、通常つうじょう一撃いちげきではあたえられない致命傷ちめいしょうわせた。

 動いていた右腕みぎうでが止まる。ギンはその場にくずちた。


「あとは、装置そうちだけね」

 かたなにぎるエリカの手はふるえていた。

「そうだな。あとはオレがやる」

 かたなさやにしまったグレンの前で、ギンのいろが変わっていく。金属光沢きんぞくこうたくのある灰色はいいろ全身ぜんしんから消える。ドウと同じいろ形状けいじょうになった。

 銀色ぎんいろ装置そうちにも変化へんかがあった。閉じていた左側のカプセルが開いていく。

『カプセルが開きます。けてください』

「忘れてた! もう1体いるのか」

 エリカの手からかたなうばって、グレンがかまえた。

 スライドして開く引き戸。カプセルから現れたのは、赤橙色あかだいだいいろのロボット。コードネームは、ドウ。

銀色ぎんいろ装置そうちの、左側から出てきたのは、ドウ」

 両腕りょううでを下げたエリカが、淡々たんたん事実じじつつたえた。

『2体同時たいどうじにハイパフォーマンスをおこなう装置そうちではない、ということか。だったら――』

「ラッキー、ってことだ!」

 カプセルから出てきたドウのむねに、かたなさった。動きを止め、ロボットは枯葉かれはとともに芝生しばふの上にころがった。

 エリカが素直すなおめる。

「やるじゃない」

『うむ。よくやってくれた。あとは、ゆっくり休みたまえ』

 ホレイシオ将軍しょうぐんが二人をねぎらった。

 グレンがすぐに口を開く。

「まだです。装置そうち破壊はかいを――」

わるいが、装置そうち破壊はかいみとめられない。鹵獲ろかくする。大統領だいとうりょうからの命令めいれいだ』

 通信つうしんのあと、2体のドウが動き始めた。銀色ぎんいろ装置そうちを目指して歩く。1体は装置そうちに近い。

 エリカの表情ひょうじょうが変わる。

「もう一度、ギンになろうとしてるの?」

「そんなことになったら、きりがないぜ」

 右側のカプセルに向かって走るグレン。かたなが、ドウの装甲そうこう隙間すきまう。ドウはカプセルの中に横たわった。

 もう1体は装置そうちからとおい。むねしたかたなで、機能きのう停止ていしした。

『また2体動き出した。グレン、撤退てったいしよう』

 イリヤからの通信つうしんに答えないグレン。しろいきいている。

 代わりにエリカが言う。

「なんで、状況じょうきょうが分かるの?」

 将軍しょうぐんが答える。

『ふむ。遠回とおまわしすぎたようだな。勝手かってうごいているこまがあるのだ』

「見てるだけじゃ、いないのと同じだぜ。……エリカ。スイッチを押してくれ」

 グレンは、っていたかたなをエリカのさやにしまった。こしかたなおびごとはずして、芝生しばふの上に置く。左側のカプセルに入った。

正気しょうきなの?」

「こっちに入ったやつが、もう1体を操作そうさしてるんじゃないか?」

『その可能性かのうせいはある。けど、危険きけんすぎるよ』

 イリヤは、声からあせりをかくしていなかった。

 話しているあいだにも、2体のドウがゆっくりと装置そうちちかづいてくる。

こわせないなら、これしかない。やってくれ」

「どうなっても知らないわ。グレン、うらまないでよ」

 カプセルは、約20度の傾斜けいしゃ。足のほうが低くなっている。中には、横たわるグレン。

 エリカは、銀色ぎんいろ装置そうち近寄ちかよった。左側のカプセル横の、スイッチを押す。スライド式の引き戸が左右同時さゆうどうじまった。じると、引き戸の透明部分とうめいぶぶんくろくなった。中がまったく見えない。

 くす女性がしろいきらした。

 足元から頭側にスライドして開く、右側の引き戸。カプセルの中からあらわれたのは、迷彩服姿めいさいふくすがたで同じ模様もよう帽子ぼうしをかぶった男性。大柄おおがらで、身長しんちょう、約180センチメートル。

 グレンと同じ顔をした者は、口角こうかくげた。


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