目標はセントラル・パーク

 ハドソンがわの手前で、規制線きせいせんられていた。

 手前に立っている二名の警察官けいさつかんは、何も言わない。フェンスが開けられ、しろくるまが先へ進む。

 わずかにゆき

 フェンスがもとの位置いちに戻された。

 おおきな川の流れが、北から南へとつづいている。方角ほうがくに対してまっすぐではない。地図ちずの上ではすこしかたむいていた。

 車は、川にした人工じんこう岸壁がんぺきを走る。3つある道の一番北側を進んでいく。左手でれる水のなかには魚の姿すがた

 四角い半島はんとうのような場所ばしょには、建物たてもの公園こうえんもある。

 中止になったイベントの会場かいじょうとおりすぎた。

 自動車じどうしゃまる。灰色はいいろ基調きちょうとした迷彩服姿めいさいふくすがたの女性が、助手席じょしゅせきからりた。上着の上からこしおびいて帯刀たいとう

 くろさやの穴におびとおっている。

 ちいさな女性が迷彩用めいさいよう帽子ぼうしをかぶり、しろい小型のふねへと歩く。なびく長いかみ

 こしの左側でれるものは、比較対象ひかくたいしょうにより長く見える。上側に向かってっている。つばに近いつかの部分にがねのある、異質いしつかたな

 しろくるまが、その場でUターン。やって来たほうに顔を向け、止まった。

 運転席うんてんせきから出てきたのは、迷彩服姿めいさいふくすがたのおおきな男性。かみみじかい。後部座席こうぶざせきからかたなを取り出す。同じようにびた。頭のうしろをかく。

「イリヤ。さやいるのか?」

 しろいきかれた。左耳に装着そうちゃくされているインナーイヤーがたのヘッドフォンは、マイク機能きのうそなえている。


 双方向通信先そうほうこうつうしんさき。川からはなれた場所ばしょにある、灰色はいいろ建物たてもの

 グレンから質問しつもんを受けた男性は、灰色はいいろ部屋へやにいた。椅子いすすわり、机の上のキーボードを操作中そうさちゅう

 となりすわるのは、金髪きんぱつかた表情ひょうじょうの女性。もう1つのディスプレイを見つめていた。パーソナルコンピュータで情報じょうほう整理せいりしている。

 陸軍りくぐん施設しせつではない。きゅうごしらえの司令部しれいぶ

 中年ちゅうねん将軍しょうぐんは、二人をうしろから見守っていた。椅子いすふか腰掛こしかけ、すこし白髪はくはつじったかみれる。

 金髪きんぱつミドルヘアのライラは、岸壁たいがん映像えいぞうを見ていた。

 イリヤのかみは、普通ふつうよりすこしびた茶色ちゃいろ。すこしけわしい表情ひょうじょうになる。


だと危険きけんだし、さやにおさめているあいだは、スイッチが入らないようになってる』

 通信つうしん納得なっとくしたグレン。迷彩用めいさいよう帽子ぼうしをかぶった。ふねの前に立つエリカへと歩いていく。

 岸壁がんぺきの北側。二人は、係留けいりゅうしてあるふねからびるロープをつかんだ。

 ビットと呼ばれる係留用けいりゅうよう鉄杭てつくいから、先端せんたんになったロープを次々つぎつぎと外し始める二人。ぬし許可きょか取得済しゅとくずみ。

 流線形りゅうせんけいしろ船体せんたいは、全長ぜんちょう、約20メートル。

 ながれるような形の屋根やねが美しい。側面そくめん岸壁がんぺき接触せっしょくしないために使われている古タイヤが、ちぐはぐな印象いんしょうあたえる。フェンダーとばれる。

 さきにグレンがむ。自由になったふね側面そくめんを、エリカがった。つづいてる。

 二人は、オレンジいろ救命胴衣きゅうめいどういそでとおした。

 操舵室そうだしつに向かったグレンが、かぎを使いエンジンをかける。

 船体後方せんたいこうほうのスクリュープロペラが回転かいてんして水をかき、発生はっせいした揚力ようりょく推進力すいしんりょくになる。

 すこしずつ前に進むふねはば、約1キロメートルの大きな川をわたはじめた。した岸壁がんぺき先端せんたんから出発しゅっぱつしたため、実際じっさい移動距離いどうきょり若干じゃっかんすくない。

 エリカが、側面そくめんに下がるロープとフェンダーを回収かいしゅう。すぐに操舵室そうだしつへ向かう。

 司令部しれいぶ通信つうしんがおこなわれる。

 到着とうちゃくまで、入念にゅうねん作戦さくせん確認かくにんする二人。

「ナイフは? ってるの?」

「ある。いや、確認かくにんしすぎってことはないか」

 グレンが救命胴衣きゅうめいどういいだ。かじから両手をはなそうとして、やめた。ひざをげる。

 エリカがちかづき、迷彩柄めいさいがらの上着のポケットを開いて、拳銃けんじゅうのかわりに携帯けいたいしたナイフを確認かくにんした。

 ふたたび、オレンジいろ分厚ぶあつい服をまとう男性に、女性が聞く。

「こんな状況じょうきょうふねを貸す人がいるなんて、どう思う?」

幸運こううん女神めがみがオレたちに微笑ほほえんでる、ってことだ」

 となりのあきれ顔を、操縦そうじゅうをつづける人物が見ることはない。


 ハドソンがわの上でニューヨークに入った。

 対岸たいがんの高い建物たてものれが、すこしずつ大きくなっていく。人影ひとかげは見えない。

 ふねは、小雪こゆきうなかをすすつづける。

 した巨大きょだい岸壁がんぺきを右手に、さらに進んでいく。道路どうろ建物たてものみどり公園こうえんが見える。

 さやから手をはなして、エリカが双眼鏡そうがんきょうのぞく。

情報じょうほうどおり、ならんで止まっているわ」

「ずっと動かないでくれると、楽なのに、な」

 ニューヨークは、川のすぐ近くまで背の高い建物たてものならんでいた。

 無人むじんとなったまちならんでいるのは、赤橙色あかだいだいいろのメタリックな人型ひとがたロボット。全長ぜんちょうはイリヤと同じくらい。

 暗号名あんごうめいは、ドウ。まるい目と長方形ちょうほうけいの口が、おもちゃのような印象いんしょうあたえる。

 頭や胴体どうたいうであしを四角い装甲そうこうおお機械人形きかいにんぎょうりつづけるゆきを気にする様子ようすもない。

 じょじょに速度そくどを落としていくしろふね

 北から南に流れる川の力にさからって、ふねは西から東へすすつづける。

 操舵室そうだしつから出たエリカが、船体右側せんたいみぎがわのフェンダーを3つ下ろす。

 水の下。ふね後方こうほうにあるスクリュープロペラの回転かいtねnは、すでに止まっている。ふね自動車じどうしゃちがい、ブレーキがない。係留けいりゅう慎重しんちょうにおこなわなければならない。

 ゆっくりと、30度の角度かくど岸壁がんぺきちかづけるグレン。

 した岸壁がんぺきわり付近ふきんで、ようやくふねは止まった。

 有事ゆうじのためかぎさない。

 ふねりた二人。先端せんたんになったロープ4つを、きしのビットにつなぐ。外れないことを確認かくにん。オレンジいろ救命胴衣きゅうめいどういぐ。

 灰色はいいろ基調きちょうとした迷彩服めいさいふく姿すがたあらわした。つばのついた迷彩帽めいさいぼうより、こしくろさや目立めだつ。

 空は薄曇うすぐもり。ゆきがちらついている。

 背の低い女性が歩き出す。背の高い男性も、横にならんで前に進む。岸壁がんぺきを一歩出ると、近くのドウが動き始めた。

 やわらかい表情ひょうじょうの二人。しろいきをもらす。

「1人、5000体ね」

冗談じょうだんきついぜ」

 かたなさやに左手をかけた。親指でつばを押し、右手でつかを持つ。きやすいように、中央部ちゅうおうぶでもっとも大きくっていた。二人はなめらかに抜刀ばっとうする。

 セントラル・パーク南側付近みなみがわふきんのドウは、推計すいけい100体。

かえしになるけど、装甲そうこうれるわけじゃないから』

隙間すきまねらって、とどめで振動しんどう。バッテリー節約せつやく了解りょうかい

 イリヤからの通信つうしん即答そくとうするグレン。つづいて言葉ことばはっする。

無茶むちゃをするな」

 エリカは何も言わずに走り出していた。孤立こりつしているドウのむねに両手でかたなてる。キーンと高い音がひびく。

 がねを引いて、右足ではらっていた。すでに人差し指はのびている。

 重そうな音。赤橙色あかだいだいいろのロボットが、その場にくずちる。

 金属きんぞくの手でつかまれると、人間の力ではりほどけない。だが、動きはおそい。

 一撃離脱いちげきりだつ。うしろでたばねたながかみらして、エリカはかこまれないように距離きょりを取る。

現場げんば指示しじすのは、あたしよ」

「5000体、了解りょうかい!」

 かたなかまえてエリカの横に立つグレン。気合きあいを入れた。


「まずは、57番通りを東へ進むわ」

「広いほうが、やりやすいからな」

 ハドソンがわの東側。

 12番街ばんがいで、銅色どういろのロボットを撃破げきはしていく二人。視覚情報しかくじょうほうたよっていた。すこしはなれ、おたがいにうしろをまかせて進む。

 北北東ほくほくとうから南南西なんなんせいへ流れる川。沿うようにして、まち方角ほうがくに対してまっすぐではない。

 街路樹がいろじゅならぶ4車線しゃせんの道には、いたるところに自動車じどうしゃ放置ほうちされていた。事故車じこしゃも見える。

 不思議ふしぎなことに、火災現場かさいげんば見当みあたらない。

かこまれるかと思ったけど、やけにしずかじゃないか?」

 しろいきいて、体つきのいい男性がたずねた。たおれたドウのむねからかたなく。人差し指はのびている。

 わずかにゆきのなか、まちころがるロボットは5体。

 帽子ぼうしのうしろからくろ短髪たんぱつを見せるグレンは、不機嫌ふきげんそうな表情ひょうじょうだった。

定位置ていいち、および守備範囲しゅびはんいが決まっていると推測すいそくされます』

 よくとおこえがした。ライラからの通信つうしん

 二人とも、インナーイヤーがたのヘッドフォンを左耳に装着そうちゃくしている。

 つかがねが引かれた。

 高周波こうしゅうはによる振動しんどうかたなあじを上げ、グレンよりも背の低い女性がドウを撃破げきはした。

 たばねられたあわ茶色ちゃいろかみが、帽子ぼうしのうしろでなびく。

 いきらすことなく、かわいらしい声のエリカが会話かいわくわわる。

「なら、人を消すときの動きは?」

『人間をらえると、例外的れいがいてきしろ装置そうちまではこぶものと考えられます』

 通信つうしんを聞いて、迷彩服姿めいさいふくすがたの二人がおたがいの顔を見る。

「帰り道のために、歩きやすくしておくか」

「それ、あたしのセリフよ」

 一撃いちげきでドウをたおし、すぐはなれる。

 エネルギーの伝播でんぱつことが、内燃機関ないねんきかんたないロボットの機能停止きのうていしには効果的こうかてき

危険きけんだと判断はんだんしたら引き返してくれ。はじではない』

了解りょうかい

 将軍しょうぐんしぶこえが聞こえて、二人は返事へんじをした。

 ロボットが道路どうろころがっていく。

「セントラル・パークまでの道のりって、こんなに遠かったっけ?」

さむいなか、運動うんどうしてるから、でしょ」

 ドウを退しりぞけながら7番街ばんがいまで到達とうたつ

 北へ向かい十字路じゅうじろけると、セントラル・パークの南側に入る。

 まち中心部ちゅうしんぶにありながらも巨大きょだい公園こうえん。南北に4キロメートル。東西は1キロメートル弱。

 いやしの場所ばしょは、人工的じんこうてき設計せっけいされていることを感じさせない。みずうみやたくさんの木々きぎ、さらには自然保護区しぜんほごくまである。

 ドウをたおしながら、公園内こうえんないのくぼんだ道を北へ進む二人。

 目の前には芝生しばふ広場ひろば

 まわりには、色付いろづいたらした木々きぎはやしのようだった。

 無数むすうの四角いロボットがならぶ。

 みどりの中に、しろ装置そうち銀色ぎんいろ装置そうちが見える。しろ装置そうちはば小型自動車並こがたじどうしゃなみ。高さは、約1メートル。屋根やねはない。

 銀色ぎんいろ装置そうちはばは同じ。

 傾斜けいしゃしたカプセルの上からのびる引き戸部分により、高さは1メートルをえている。2つならんでいるカプセル。右側が開いていた。

 すでにゆきはほとんどっていない。緑色みどりいろの足元には、枯葉かれはらばっている。

 灰色はいいろばかりに見える迷彩服めいさいふく。じつは、褐色かっしょく緑色みどりいろぜられていて、市街地しがいち砂漠さばく森林しんりん対応たいおうしていた。

 たたかいながら、エリカが口を開く。

「じゃあ、任務にんむ復唱ふくしょう

「ギンの破壊はかい装置そうち鹵獲ろかく、または破壊はかい

「まずは、ドウをらしましょう」

了解りょうかい

 つねにてきたい相手あいてにするエリカとグレン。むね装甲そうこう隙間すきま的確てきかくねらっていく。

 ちかづかないとおそってこないことを利用して、安全圏あんぜんけんを広げつづける。

 たおれたドウは50体。快進撃かいしんげきを見せる二人の前方、しろ装置そうちの向こう側から、ゆっくりとちかづいてくるかげ

 すこし背の高い、銀色ぎんいろのロボットがあらわれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る