第一章 並列兵士

トツゼンの襲来

 棒渦巻銀河ぼううずまきぎんが辺境へんきょうに、地球ちきゅうと呼ばれる惑星わくせいがあった。

 地球ちきゅうぞくするのは、局所恒星間雲きょくしょこうせいかんうん。小さなうでからはずれた場所ばしょ。とはいえ、星間密度せいかんみつどは高い。

 地球ちきゅうは、太陽たいようと呼ばれる恒星こうせい公転こうてんしている。

 太陽たいようの大きさは、地球ちきゅうの約109倍。半径はんけいは70まんキロメートル。ほかにもいくつかの惑星わくせいしたがえている。

 地球ちきゅうでは、ぞくしている場所ばしょを、あま川銀河がわぎんがと呼んでいた。


 あおほしさかえる文明ぶんめい

 住宅じゅうたくならぶ。道路どうろ舗装ほそうされ、たくさんの自動車じどうしゃが走っている。赤信号あかしんごうまって、別の方向から車が走り出す。

 おおくの街路樹がいろじゅえられていた。色付いろづいていない針葉樹しんようじゅも多い。大通りではかざりつけがされている。

 あか黄色きいろの葉が目立つ公園こうえんにも、夜になるとイルミネーションがかがや場所ばしょがある。東からの日差しを受けていた。

 巨大きょだい大陸たいりくだった。

 おおきなまちができることも必然ひつぜん。背の高い建物たてものがずらりとならぶ。鉄筋てっきんコンクリートづくりの、高層こうそうなものが多い。

 空をおおいつくすようにそびえ立つ、摩天楼まてんろう。この国では、スカイスクレイパーと呼ばれている。

 建物たてもののあいだを吹き抜けるような強い風に、厚着あつぎ人々ひとびとが目をつむった。

 公園こうえんは広い。まちの中に、ぽっかりと自然しぜんあらわれたような景色けしきが広がる。あたたかみのある落葉樹らくようじゅが、色付いろづいた葉を落としていた。

映画えいがか?」

 目を開けた黒人男性こくじんだんせいが、かばんから情報端末じょうほうたんまつを取り出した。

 上空に、全長ぜんちょう、約500メートルの銀色ぎんいろ円盤えんばんかんでいる。

 ほかの人々も空を見上げ、指差ゆびさしていた。撮影さつえいをする音があちこちでひびく。空からエンジン音は聞こえてこない。

 突然とつぜん円盤えんばん建物たてものすれすれまで下降かこうした。

 冷たい風が吹きおろされる。

 円盤下部えんばんかぶの入り口が開いた。そのかず50以上。何かが地上ちじょう落下らっかしてくる。衝撃しょうげきはない。加速度かそくどがついていなかった。四角いものがゆっくりと地面じめんりて、前へ進む。

 ブリキのおもちゃのようなものは、全長ぜんちょう170センチメートル。

 白人女性はくじんじょせいが目を丸くしていた。

どう? なんなの?」

 赤橙色あかだいだいいろをしたメタリックな人形にんぎょうは答えない。

 しずかに整列せいれつしていく。

 目の部分はまるく、口の部分は長方形ちょうほうけい全身ぜんしんは四角い部分が多い。角張かくばった見た目をしている。

 ただ、関節部分かんせつぶぶん構造こうぞうはひどく複雑ふくざつ。指の構造こうぞうも人間の手に近い。

 別の何かがりてきた。

 銀色ぎんいろ装置そうち

 高さ、約1メートル。人が横になれる大きさのカプセルが、2つならんでいる。みどりの芝生しばふの上に置かれた。約20度の傾斜けいしゃがあるカプセル。上部から平行に、屋根やねのようなものが長くのびる。

 ふたが開いた状態じょうたい

 近くのロボットが装置そうちれた。すぐ、もとの位置いちに戻って止まる。

 屋根やねのような部分ぶぶんが、低いほうへとスライドしていく。引き戸になっていた。密閉みっぺいされ、完全かんぜんな形になるカプセル。

 まわりの人々は、かたずをのんで見守っていた。

 カプセルの上側がスライドして開く。

 中から機械人形きかいにんぎょうが出てくる。開いたのは右側だけ。

「今度はぎんか」

 銀色ぎんいろのロボットだった。

 どうに見えるロボットとはちがって、全長ぜんちょう180センチメートル。

 ロボットたちは、公園こうえんの人々にられても動かない。

 みずうみの近くでも、地面じめんよりくぼんだ遊歩道ゆうほどうでも。林の中でも、機械人形きかいにんぎょうは止まっていた。

 装置そうちから見える範囲はんいで100体以上いる、赤橙色あかだいだいいろのロボット。なにも言わず、立っている。

 見物人けんぶつにんがざわつく中、さらに何かがりてくる。

 しろ装置そうちだった。

 高さ、約1メートル。中心部ちゅうしんぶに穴がある。

 はば普通自動車並ふつうじどうしゃなみ。タイヤはついていない。銀色ぎんいろ装置そうちの近くへと着地ちゃくちした。

 そのとき、変化へんかが起きた。

 赤橙色あかだいだいいろのロボットたちが、一斉いっせい公園こうえん人々ひとびとに向かっていく。胴体どうたいつかんでかかげ、しろ装置そうちへと歩いた。

はなせ!」

 返事へんじはない。

 しろ装置そうちの穴に、黄色人種おうしょくじんしゅの男性が置かれる。

 ロボットにかかえられた人々ひとびとの目の前で、男性は消えた。服も残っていない。

 悲鳴ひめいと叫び声であたりは騒然そうぜんとなる。

 その日、地球上ちきゅうじょうの10のまちから人がいなくなった。


「夢ならめてほしいぜ」

 体つきのいい青年せいねんがぼやいていた。頭のうしろをかく。短い黒髪くろかみ。上着をいだ。白いシャツからのぞく、筋骨隆々きんこつりゅうりゅう肉体にくたい。ロッカーに上着をしまって、かわりの服を取り出す。

 紺色こんいろの服にそでをとおした青年せいねんかがみを見ずにとびらを閉める。パンツは足首までの長さがある、青色あおいろ

 部屋へやには一人だけ。

 ずらりとならんだロッカーを開く者はいなかった。くろ革靴かわぐつが動いて、部屋へやのドアが開く。

 青年せいねん更衣室こういしつをあとにした。廊下ろうかを歩いて、別の部屋へやへ向かう。

おそい! てたの?」

 ドアを開けた青年せいねんは、背の低い女性からきびしい言葉ことばをあびた。

 言葉ことば内容ないようはんして、かわいらしい声。

 紺色こんいろの上着にかざはない。胸元むなもとから、わずかに白いシャツがのぞく。スカートも紺色こんいろ

 女性は、あわい茶色ちゃいろかみをうしろでたばねていた。前髪まえがみは長くない。

「ああ。わるい。ところで、きみ迷子まいごか? わかった。1日体験にちたいけんとか、そういうやつか」

「グレン特技兵とくぎへい!」

 呼ばれた男性が部屋へや見渡みわたす。二人以外にはだれもいない。

 灰色はいいろ質素しっそ部屋へや暖房だんぼうがなければこごえていたはずだ。外ではゆきっている。

 コンクリートせい建物たてもの簡素かんそつくりで、朝の日差しをびていた。

 いんよう同居どうきょする風景ふうけい

「エリカ伍長ごちょう想像そうぞうちがうな。オレより背が高くて、ゴリラみたいな人かと思ってた」

 身長しんちょう、約180センチメートルのグレンが、笑いながら言った。

「あたしも、想像そうぞうしてたのとはちがった」

 身長しんちょう、約160センチメートルのエリカは、ふくれっつらだった。

 北方統合任務部隊所属ほっぽうとうごうにんむぶたいしょぞく本土防衛ほんどぼうえい一翼いちよく

 伍長ごちょう下士官かしかんという階級かいきゅう最小規模さいしょうきぼ部隊指揮ぶたいしきをおこなう。兵士へいし各個訓練かっこくんれん担当たんとうする。

「あんた、本当に、きゅうで大学出てるの?」

「え? オレだけじゃなくて、全員ぜんいん……」

 特技兵とくぎへいとは、特殊技能兵とくしゅぎのうへいりゃく特殊とくしゅ技術ぎじゅつ資格しかくっている兵士へいし

 しまった! というような顔をした黒髪くろかみの男性が、いきおいよく頭を下げる。

「同い年だというのに、すみませんでした。エリカ伍長ごちょう!」

「わかればよろしい。りはたたかいでかえしてよ」

 エリカは右手をにぎり、前に突き出した。

 頭を上げたグレンも右手をにぎり、前に突き出す。二人はこぶしを合わせた。


「ロボット相手あいてに、どうにかなると思いますか?」

「何、その口調くちょう普段ふだんどおりしゃべって」

 エリカの言葉ことばを受けて、グレンは普段ふだんどおりの落ち着いた表情ひょうじょうになった。

 二人は、部屋へやの真ん中にならんで立つ。北を向いていた。エリカが東寄りで、グレンが西寄り。ドアは西側にある。

 部屋へやの中に椅子いすはない。机もない。グレンがとなりを向く。

「話の分かる人で、助かったぜ」

「で、何の話?」

「パワードスーツとか、ビーム兵器へいきとかが、秘密裏ひみつり実用化じつようかされてる、なんてことは」

「ないわ。電力でんりょくが足りない」

 前を向いたまま、エリカがつぶやいた。残念ざんねんそうな顔のグレンは、時間じかんを気にしている。

「おかしいぜ。あいつがおくれるなんて」

「どっちかが、知り合いってことね?」

 むすばれているながかみれた。

 グレンが口を開く前に、部屋へやのドアが開かれる。

秘密兵器ひみつへいき開発かいはつ時間じかんがかかって、おくれました!」

 男性の頭が下げられた。普通ふつうよりすこし長めの、茶色ちゃいろかみが向きを変える。きれいにととのえているわけではなく、しばらくかみっていない様子ようす

 上着は紺色こんいろで、かざがない。下にはしろいシャツを着ていた。パンツは青色あおいろ

「まだ将軍しょうぐんいないぞ。イリヤ二等准尉にとうじゅんい

 女性にを向けたグレンが、西で頭を下げる男性にげた。

 イリヤとばれた男性は頭を上げる。身長しんちょう、約170センチメートル。ほっとむねをなでおろす仕草しぐさをした。微笑ほほえむ。

 陸軍りくぐんワシントン地区隊所属ちくたいしょぞく准尉じゅんいは、専門技能せんもんぎのうもの階級かいきゅう整備せいび管理業務かんりぎょうむなど。

 そのうしろにだれかがいた。

「もう、いいですか?」

「あ。はい。どうぞ」

 部屋へやへ入ったイリヤに続いて、女性が部屋へやへ入る。ドアを閉めた。

 金髪きんぱつミドルヘアの女性は、表情ひょうじょうかたい。ちらりと見えるしろいシャツの上に、紺色こんいろの上着。わずかにある装飾そうしょく黄色きいろかざはない。スカートは紺色こんいろ

 四人は、同じ種類しゅるい軍服ぐんぷくを着ている。

 やわらかい表情ひょうじょうのエリカ。

「ライラ二等准尉にとうじゅんいね。よろしく」

「よろしく」

 色白いろじろのライラは、表情ひょうじょうを変えることなく答えた。

 身長しんちょう、約165センチメートル。第二軍所属だいにぐんしょぞくで、情報戦じょうほうせんけている。

 ぐん海兵隊かいへいたいそれぞれにネットワーク担当部隊たんとうぶたい存在そんざいし、協力きょうりょくして任務にんむにあたることも多い。サイバーぐんと呼ばれている。

 東から、エリカ・グレン・イリヤ・ライラの順番じゅんばんならぶ。四人ともくろ革靴かわぐつ

秘密兵器ひみつへいきってなんだよ」

本来ほんらいはパワードスーツ用の装備そうびなんだけど――」

 グレンとイリヤの会話かいわはそこで止まった。

 部屋へやのドアが開き、軍服姿ぐんぷくすがた中年男性ちゅうねんだんせい姿すがたを見せる。にこやかな表情ひょうじょう

諸君しょくん、おはよう」


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