第九話 殿ヶ谷戸庭園
河岸段丘は川に沿って階段状に発達した地形だ。扇状地と並んで、地理のテストに頻出する地形じゃないだろうか。私は高校時代に地理を選択していて、河岸段丘も習ったけれど、段丘と段丘の境の崖を
多摩川によって形成された河岸段丘の、低い方が立川段丘、高い方が武蔵野段丘。その段差の崖が国分寺崖線。殿ヶ谷戸庭園の敷地内に、国分寺崖線の崖がある。
受付を入ると芝生が植えられた広々とした空間だ。真っ直ぐ進むと萩のトンネルや藤棚があり、しばらくは段丘の上だ。左手に進むと
紅葉には少し遅く、入り口のイチョウもあちこちにあるモミジも、枯れてくしゃくしゃっとなってしまっている。枝に残っている葉より、地面に落ちている葉の方が多いかもしれない。茶室に紅葉亭と名付けるくらいだから、ピークに来たらきっと綺麗だったんだろう。
奥に歩くにつれて雑木林になった。紅葉亭の横で立ち止まる。確かに崖としか言いようがない。
(地形図を持ってこい! 等高線を見せろ!)
心の中で叫びながら、急な石段を下りる。ヒールの高い靴では絶対無理だ。
降り切った先の池も、木に囲まれて野趣あふれる感じだった。ほんの数メートル先はもう敷地外で、普通にマンションが建っていたりするのに。
池を見ながら遊歩道を歩く。足元を見るとモミジがたくさん。赤よりは黄色っぽい葉が多い。星みたいだなと少し笑う。するとモミジは鈍い光を放つ。
私は、星が敷き詰められた階段を滑らないように上る。蜘蛛の巣にひっかかった赤い星が頭上まで垂れ下がっているのを、太陽を透かして写真に収める。
(そういえば、モミジに例えるのは手だったような……)
ふと思い出すと、星はみるみる小さな手に変わる。ふくふくとした子どもの手だ。丸っこい指先が開いたり閉じたり。
……なんてことは全くなく。
花木園の方から上り、完全に時期外れの藤棚と萩のトンネル(枯れた萩はそれはそれで素敵だった)を通って戻ってきた。
芝生を臨むベンチに座って、スマホのアルバムを確認する。
「オモイノママ」
梅の木に掛かっていた名札だ。カタカナのせいでピンとこなかったけれど、知っている品種だった。紅と白と、紅白が混ざった絞りが、一本の木に咲くのだ。
「思いのまま」
見上げた空は今日も晴れ渡っていた。
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