第八話 清澄庭園

 門をくぐると、池が広く視界を占める。清澄庭園も池を中心としており、遊歩道は池の周囲をぐるっと巡る。菖蒲や桜が植えられている広場など一部を除けば、常に池を眺めながら散策する形だ。

 遊歩道には、大きくて厚みのある飛び石が埋められている。アイスボックスクッキーみたいでおいしそうだなと思いながら、辿って歩くと、大きなイチョウの木があった。木一本を丸ごと塗り替えたように黄色で、晴れている空とイチョウの葉のコントラストが眩しい。見渡すと、濃い赤に染まっているモミジもあり、常緑樹の緑の中で際立っていた。

 とにかくずっとその調子で、どこを見ても色鮮やかだった。和の趣きというよりも、カラフルでポップと表現した方がぴったりだ。イチョウと常緑樹を下から見上げスマホのカメラを構えたら、絶妙なバランスで黄色と緑と青が収まったときなど、心の中で小躍りした。

 オレンジのグラデーションや、緑と赤の二色の写真を撮りつつ、池の端に降りる。「磯渡り」という大きな飛び石があり水の上を渡ることができた。池には鴨がたくさん浮かんでいる。橋で渡れる島もあったけれど渡れない島もあり、そのうちの一つに、青みがかった灰色の大きな鳥がいた。アオサギだ。邪魔にならないように飛び石から地面に避けて、カメラを覗く。しかし、めいっぱいズームしても綺麗に撮影できそうにない。

 仕方なく肉眼で見ていたところ、飛び石を歩いてきた六十代くらいの夫婦らしき男女に話しかけられた。

「あの大きな鳥は何ですかねぇ?」

「サギ、えっと、アオサギじゃないかと……」

 私がそう答えると、男性は大きな声を上げた。

「あれが青詐欺ですか!」

「青詐欺って、お父さんのおじいさんが子どもの頃に騙されたっていう?」

「そうそう。昔はよくあったらしいけれど……あれがねぇ」

「騙すのねぇ」

 二人はうなずき合いながら、飛び石を渡っていった。

 ……なんてことは全くなく。

 私が言う鷺は詐欺と同じアクセントになるから、慎重に答える。

「たぶんアオサギだと思います」

「ああ、鷺!」

「鷺ねぇ」

 そう繰り返した二人のアクセントは、全然詐欺ではなかった。

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