第七話 六義園

 駒込駅から本郷通りを北に行くと、薔薇を見に行った旧古河庭園がある。南に行くと、六義園りくぎえんがある。

 六義園は紅葉が有名で、見ごろの時期にライトアップのイベントがあり、その期間は特別に二十一時まで開園している。普段は閉まっている染井門からも入園できる。正門よりも駅が近くて(地下鉄の出口は目の前だし)便利なのだ。

 実は、前日にライトアップの時間を狙って夕方に来たら、入園の列ができていて、他の用事もあったため断念したのだった。だから、今日は昼に出かけて来た。行列と混雑を考えたら、ライトアップはまぁいいやとなった次第。

 六義園はかなり広い。中心が「大泉水」――大きな池だ。その周囲は開けている。雪吊りが施された大きな松の木、大泉水、中の島、対岸の茶屋……と、広く見渡せる。その空間の外は林と呼んでも差し支えないくらいの木々が囲っていて、敷地の外と隔てていた。

 モミジは赤の一歩手前のような朱色がかった柔らかな色合いに染まっていた。真っ赤になっているのはドウダンツツジやハゼ(と後で調べた)。園内奥の「剡渓流ぜんけいのながれ」の周りはとても綺麗で、両方の岸を歩いた。流れに張り出したモミジが赤い庇のよう。水面も錦で彩られていた。

 一方の岸を通る道が「蛛道ささがにのみち」で、私のお気に入りだ。しかし狭い道なので、さすがにライトアップ時は立ち入り禁止になるようだった。

「蛛道」の逆岸を通る道はライトアップされるらしく、歩道の両脇にライトが配置されていた。木の下にもライトが見える。

 時折強く吹く風は、天辺の枝を揺らし、葉を巻き上げて渡っていく。幹の間をすり抜けた一陣が、根元の熊笹を騒がせる。木々を透かして見上げた空はまだ青いのに、辺りはすでに薄暗い。こちらから向こうに光が走るように、ライトが点灯した。幻想的に浮かび上がる赤と緑。ほんわりした何かが足元をよぎる。横目で見ると真っ黒な影だ。私の足に絡まるようにじゃれつくのを、転ばないように注意して避けて歩く。紅葉どころではない。そのうえ、足元ばかり気にしていたせいで、前が疎かだった。ぷちんと小気味よい感触で、蜘蛛の糸を切ってしまった。

 ……なんてことは全くなく。

 ライトアップが始まる前には、無事に帰路につくことができた。

 モミジの枝を見上げると、星を敷き詰めたみたいでかわいい。青空を背景にさわさわと瞬く朱色の星が、スマホの中にいくつも残った。

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