第五話 小石川後楽園

 飯田橋駅から、JR総武線で新宿駅まで行くときは市ヶ谷駅に向かう電車に乗るけれど、東京メトロ有楽町線で池袋駅に行くときは市ヶ谷駅から来る電車に乗る。漠然と新宿と池袋が同じ方角だと思っていたため、初めてのとき、間違った電車に乗ったかと思って焦った。市ヶ谷駅ってどこにあるの? 四次元? 四次元市ヶ谷? とか訳がわからなくなったけれど、総武線と有楽町線は飯田橋駅と市ヶ谷駅の間で、点じゃなくて線で交差しているだけだった。

 そんな飯田橋駅から小石川後楽園は徒歩十分はかからない。飯田橋の交差点の歩道橋を渡って少し歩くとまた飯田橋駅がある。都営大江戸線だ。JR飯田橋駅からは(歩道橋を渡るせいもあるけれど)五分近く歩く。いったいどこまでが飯田橋? と思いながら歩いていくと、小石川後楽園に着く。

 園内に入ってすぐ、枝垂桜と池を見越した木々の上に東京ドームの白い屋根が見えるのが、妙に近未来的だ。天辺だけしか見えないから余計に何だかわからなくて戸惑う。毎回写真を撮ってしまう。

 小石川後楽園は、池を広々と見渡してのびのびできる一方で、かなり急な石段を登ったり、飛び石を渡ったり、木深い道を通ったり、けっこう探検気分が味わえる。

「渡月橋」を渡って、「屏風岩」の横を登る。かなり登る。「清水観音堂跡」とあるところで見下ろすと、何階分だろうかというくらいの高さ。そこから道なりに少し下って、朱色の橋「通天橋」の手前まで来たとき、石畳がおもしろい模様になっているのを見つけた。大きな四角や三角の石と小さな丸い石が不規則に組まれているのはずっと気付いていたけれど、その段の大きな石は、四角形を三角形が二つ、頂点を四角形側に向けて挟むように配置されていた。写真を撮って、真ん中の四角を踏む。すると、前方にあったはずの橋がない。

「あれ?」

 足元前方には踏んだはずの、あの石畳がある。でも、石の形と配置が少し違う? 振り返ると、朱色の橋。

「え?」

 混乱したまま、同じように真ん中の四角い石を踏む。すると、また景色が変わった。今度は全然違う。どこだかわからない上り坂の途中だった。足元には三角・四角・三角の並びの石畳があるけれど、真ん中の四角が長細く、明らかに形が違う。

「ワープポイント?」

 三度目は恐る恐る石を踏む。すると、やはり景色が変わった。石畳も、先ほどとは違う形だけれど、三角・四角・三角の並びは同じ。

「やっぱりワープポイント?」

 四度目は楽しくなって、軽やかに石を踏んだ。すると、前方に朱色の橋があった。

「戻ってきた!」

 ……なんてことは全くなく。

 地道に歩いて、坂道を登ったり下りたり。

 風が出てくると、落ち葉がカラカラと私の後ろをついてきた。池の中の岩にアオサギがいるのを遠目に見ながら、視線を上げると、白い屋根。来たときには晴れていたのに、灰色の雲が屋根の上に広がっていた。青空の方が白が際立って違和感が増して、より一層近未来っぽかったな、と思ったりして。私の近未来のイメージって。

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