第二話 旧古河庭園

 坂を上った先は必ず山――みたいな土地で育った私は、何でもない住宅地をほんの少し歩く間に坂を上ってまた下るというのがよくわからない。何がどうしてこんな地形になったんだろう。東京はそういう道が多いと思う。

 駒込駅から北に十数分。駅からの道もだけれど、旧古河庭園の敷地内も高低差がある。一番高いのは洋館。薔薇で有名な洋風庭園が斜面に作られ、一番低いところが日本庭園になっている。

 今日は都民の日で入場料が無料だった。日曜日でもあり天気も良いため混むんじゃないかなと心配したけれど、意外にそれほどでもない。以前、薔薇が満開の時期に来たときの方がもっと混んでいたかもしれない。

 先週、浜離宮恩賜庭園に行ったもののキバナコスモスの時期が終わっていた。そのリベンジで、旧古河庭園の薔薇を見に行こうと思い立ったのだ。今年の「秋のバラフェスティバル」は十月七日から。今日はまだ咲き始めだった。

 ほとんど蕾。それもまだ膨らんでいない蕾で、咲いているのは一割ほどだ。けれど、咲き初めの花はどれも瑞々しく、可憐だった。

 咲き始めの時期に来たのは初めてだ。若い蕾のが、おひねりのようにくるくるっと捻じれているのも初めて見た。羽みたいでかわいい。気が付くと蕾の写真ばかり撮っていた。

 洋館から真っ直ぐ階段を下りると薔薇園だ。もう一つ階段を下りるとツツジ園。もう一つ階段を下りると日本庭園に繋がる道に出る。階段一つは十四段くらい。下り切ると、洋館はかなりの角度で見上げる形だ。

 薔薇と洋館を一緒に収めた写真を撮りたくて、私は薔薇園とツツジ園の間の階段を下りる手前で振り返った。瞬間。

「あっ!」

 足を踏み外して階段を落ちる。どいて、と叫びたかったけれど間に合わず、すぐ下を歩いていた男性を巻き込んでしまった。手すりなどない石段だ。途中で掴まるものもなく、そのまま下まで転がり落ちた。

「痛ぇ……」

 巻き込んでしまった人のうめき声が聞こえ、私は慌てて起き上がると頭を下げた。

「すみませんっ!」

「は? 俺?」

 裏返った女性の声だ。女性だったっけ? それに「俺」?

「大丈夫ですか?」

 聞きながら顔を上げると、「大丈夫じゃねぇな」と返される。その相手の顔は、

「私?」

 え!? 入れ替わってる!

 ……なんてことは全くなく。

 そもそも足を踏み外すこともなく。

 無事に洋館と薔薇の写真を撮影する。

 もうちょっと雲がなかったら、洋館の色が映えるのにな。

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