変わらず、変わっていく




驚いた摂政が、

その手を解こうとするものだから、

潰れる程に、抉る程に、きつく手を握った。



「……っ、手を放して下さい…」

摂政は、全てから逃げる様に眼を伏せる。



それなのに、逃げられない様、

締め付けられている手が、痺れ始めてくる。



「正直、エリクが嫌いだ。


戦争でしか繁栄を築くなかったところも、

剣が強いし、構えが綺麗なところも、

誰も彼もがエリクを凄いって思ってるところ、」



「ならば。

尚更、手を――だから、痛っ、」


王の眼には、悪意がなく、実に淡白で。



時折、寂しさが宿しては、

  骨を砕く程、摂政の手を握る。




「それでも、

今みたいな顔されてるのは、更に嫌いだ。




だから、分かった。


この嫌いは尊敬だったんだ」







摂政は、思わず視線を上げる。





王の痛々しい義足が、

 夕焼けに染まって炯々と燃えている。



背丈に合わない外套が、

  伸びた影を誇張する様に、大きく翻る。



王の強張っていた表情は

 かつて読書が大好きだった

    穏やかな少年に変わっていた。







「尊敬が、壊れるのが怖い。

憧れが壊れるのは、もう見たくない







だから、堕ちないでくれ」



摂政の眼を凛と捕らえて、言葉を吐く。


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