第20話 そういう幸せのかたち
学校に着いたら真っ先に教室に行って、ツバサを確認した。見慣れた美少女がそこにいた。
私に気づいたツバサは、いつものように明るく、でもちょっと甘えたようにゆっくり
「おはよおー」と言った。
「おはよう」と返事しながら、また寂しいような嬉しいような、不思議な気持ちに包まれたけど、気づかれないように頑張った。
私はツバサに駆け寄って、軽く抱きついた。実際にそんなことをしたのは初めてだ。自分が苦手だった「かわいい女子」みたいだ。
ツバサは不思議そうに、でも何も言わずに私の頭を撫でてくれた。
何も言わないのは、こちらの世界のツバサも何かを知っていたのかもしれなかった。
授業の5分前の予鈴のチャイムが鳴り、ツバサは笑顔で
「さっ、授業始まるよ」と言った。
私は頷きながら「うん。また後でね」と言って自分の席に戻った。
自分の教室に行くと、前の席にはタナベさんが座っていた。
もちろん、こちらの世界では私と交流がなかったので、特に彼女は振り返らなかった。
でも、私は彼女と仲良くなりたかったので、
「タナベさん、おはよ」と声を掛けてみた。
なっちゃんとはさすがに呼べなかったけど。
タナベさんは振り返って、ちょっときょとんとしながらも、
「おはよー」とぼそっと挨拶を返してきた。
なんとなく少し嬉しそうに見えたのは気のせいではないだろう。
こっちの世界でも仲良くなれる。そんな気がした。
「でも、こんなことならあっちの世界でもっと話ししていればよかったかも」なんて軽く後悔しそうになった。でも、「ううん。違う」と思い直した。これからこっちでたくさん話せばいい、それだけのことなんだ。私は過去ではなく、これからの未来を生きていくのだから。
やがて授業が始まり、先生が話す中、私は殆どその日一日、ぼんやり窓の外を眺めてあちらの世界のことを考えていた。
確かに私は元の世界に戻ってきたけど、あっちの世界でも元いた私が戻ってきているのだろうか?そうしてツバサとうまくやっているのだろうか。
考えてみたら私が戻ったからと言って、向こうも戻るという保証はないのだ。でも、戻ってうまくやっているという確信があった。特に根拠はないけど自信があった。
好きになった男の子が他の人とうまくいくのは、正直ちょっと残念でもある。他人ではなく私なんだけど、でも残念。不思議な話だけどね。
その後の私はタナベさんとも、他のクラスの何人かとも仲良くなり、以前よりも充実した高校生活を送っている。
あの時の帰ってくるという決断を時々思い出して胸が痛くなることだってある。
好きになった人とこんなにあっさり会えなくなるなんて。しかもどこに行っても、これから二度と会えないなんて。本当はすごくつらい。でも、私は後悔はしていない。それは自信を持って言える。
だって、私は自分の信じたことをやったから。胸を張ってそう言える。そのことが私の中で大きな自信になった。何をやる時にも、あの時後悔のないようにできたんだから、できるはず、と思えるようになったのだ。
だから、こっちの世界のツバサに 恋愛相談に乗ってもらって、私は 彼氏を作ろうと思う。こんなに何かやる気になったのは、 生まれて初めてのことかもしれない。
だから あっちの世界のツバサにはとても感謝している。
ありがとうツバサ。
大好きになってしまったから忘れられないし、一生忘れるつもりもないけど。
ありがとう。ツバサ。
あっちの私と仲良くしてあげてね。
私は私でここで頑張って生きていくね。
そう思いながら見上げた窓の外の空は、雲一つない完璧な青空だった。
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