第19話 もう迷わない
次の日の朝はいつもと全く違う、でもいつも通りの寒い朝だった。教科書は家に置いてきた。
寒いけど雲1つない、痛いほどにキーンと透き通った青空の朝の中、私は空のどこにも雲がないことを確かめた。
雲ひとつない真っ青な空の完璧さに私は安心した。今度こそ帰れる。そんな全く誰にも保証されていないことを不思議なほど落ち着いて確信していた。
私にはもう迷いがなかった。
いろんな経験をしたからかもしれない。
前には受け入れられなかった、少女マンガに出てくる恋愛話や、スタイリッシュな家具や、カッコ良くておしゃれなカフェも、今の私は受け入れられる気がした。
成長というのは、何も無理して努力することばかりではなく、こうやって自分の環境を一つ一つ受け入れながら対応して、変わっていくことなのかもしれない。
相変わらず、ぱっとしない自分だけど、本当に幸せを感じられるようになったと思う。
何年後かに振り返ったら、また考えが変わっているかもしれないけれど、今は確かにそう思えた。
寒い空の下で深呼吸をしていたら、ツバサから ライン をもらった 。
「寒い冬がない正解に行きたいよな」
私はそのメッセージの一文字一文字をなぞるように見つめた。見つめすぎてもう言葉の意味が分からなくなりそうだった。
その1行だけのメッセージをゆっくりと読み終わったタイミングで私は大きく深呼吸した。冷たい空気が胸いっぱいに入ってきた。
だけど気持ちは暖かった。私はくるっと回って家の方に走りだした。
それは、とても簡単なことだった。びっくりするくらい、あっけなかった。住んでいるマンションの入り口に着いて、私はあっけなく元の世界に戻れたことに気づいた。あれやこれやが左右元どおりになっていた。
安堵感と、少しの残念な気持ち。
いや少しどころではなく残念な気持ちだったかもしれない。でも深くは考えないようにしていた。何も自分で変えられないなら、振り返ってもしかたがない。
そう思ってはいても、私はいつの間にか泣いていたらしい。電車の窓にもたれながら、声をあげないようにして私は泣いた。
なんて名前をつけたらいいのか分からないような不思議な感情に包まれながら、涙が流れるのに任せて泣き続けた。でも、それだけのことだった。
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