第18話 実は他のことなんてどうでもいい
そして、もう一つ、すっかり忘れてたことを思い出して、私は何も考えずにそのまま口に出していた。
「あの日の朝、ツバサからラインで、寒い冬がない世界に行きたいねってメッセージをもらったんだ」
「それ、いつの話?」
「一昨日かな」と答える私の横で、ツバサは自分のスマホを覗き込みながら、深刻そうに言った。
「確かにラインでユキにメッセージを送ってる」
「俺のせいでもあったんだ」
ツバサは自分を責めるようにうなだれた。どうやらすごく落ち込んでいるようだった。
「別にツバサのせいじゃないよ。ツバサが悪いわけじゃないもん」本当にそう思ったから必死にそう言った。不用意に発言した自分の無神経さを責めたくなった。
「 うん」 とだけツバサ小さくは呟いた。 その時不謹慎にも、落ち込んでいるツバサがすごく可愛いなって思った 。そんなことできないけど、頭をなでて抱きしめたいなって思った。
こんな時、女のツバサだったら抱きつけるのにと思った。これまで異性に抱きつくなんて細かく想像したこともなかったけど、その時、私は確かにこの男のツバサを これ以上なく愛しく思ったのだ。
うなだれた横顔が愛おしいばかりか、左耳の上側にあるほくろさえ愛おしく思った。冷静に考えたら、ほくろが愛おしいって、かなりおかしなことだけど。
脱線した頭の中身を元に戻しながら、
「気にしなくていいよ。たまたまだよ」と私は笑った。私の事で落ち込ませたくない。 本当に心からそう思う。
ツバサは顔上げて、私の目をじっと見ながら 言った。
「俺のせいだから。俺のせいでもあるから協力するよ。全力で。ユキが元の世界に帰るのを」
「 ツバサのせいじゃない。ツバサのせいなんかじゃないけど、わかった。ありがとう」また、 じーんとして、なんだか泣いてしまいそうになった。
胸がいっぱいになった。ツバサの優しさに包まれて、もう実は他のことなんてどうでもよくなっていた。
ツバサも少し涙ぐんでいたような気がする。
涙ぐんだツバサも、それはそれで美しかった。ある種完璧なツバサの美しさを目の当たりにして、私は完璧なものもいいなと思った。
私はこの数日で自分が大きく変わったことに気付いた。
ツバサは
「でも、あっちの世界に戻っても忘れないでね。俺のことを」と言った。
私は
「うん。もちろん」と答えた。
こんなおかしなことを言ってる別の世界から来た私のことを認めてもらえた気がした。そんな私を認めてくれたツバサのことを忘れるわけがない。ツバサと出会えてよかった。本当にそう思う。例えこんな変な出会い方でも、今同じ時間を過ごしているだけでも意味があると思った。
私達はそうしてそのまましばらく二人で見つめ合っていた。「抱き合うように見つめ合っていた」というのは勝手に私が思っていただけかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます