第17話 前向きな行動

 私はこれまで、昨日までの毎日って疑いもなくずっと同じように続くのだと思っていた。当たり前すぎて、そう思っていたことにも気付かなかった。だけど、今回のことで非日常はこんなにも突然にやってくるのだと、まざまざと見せつけられた気がする。


 突然の非日常というと、真っ先に思い出すのは子供の頃に飼っていた文鳥の「サクラ」が死んだ時のこと。小学校から帰ってきたら、お母さんから「サクラ」が死んだと言われたけれど、私は全然実感が湧かなかった。


 原因は分からないけど、急に目をつむったまま動かなくなったらしい。私より年上だったから寿命だったのかもしれない。でも全然昨日までは普通だったのだ。


 私は「サクラ」のことが大好きだったのに、心構えができてなったから全然悲しむことができなかった。

「そうなんだ」って少し暗い声で言って、その後普通に夜ご飯を食べて普通に寝た。すごく悲しいはずなのに一度も泣けなかった。


 その事を後日、学校の作文で発表したら、クラスのどこからか「冷た〜」って声が漏れてきた。もしかしたら、その時「冷たい」と言われた時の方がはるかに悲しかったかもしれない。


 だからか、「私は冷たい人間なのかな」って悩んだりもした。私はどこか壊れた存在なのかもしれないと思った。思えば完璧なものが苦手になったのも、その頃かもしれない。不完全な私にとって、完璧なものは眩しすぎるような気がし始めたのだ。


 今考えたら、サクラのことで、深く傷ついてしまうのを避けていたのかもしれない。目の前の突然の現実から目をそらしていたのかもしれない。でも、誰もそんな私に気付いてはくれなかった。だからしばらく消化できずに悩み続けた。


 そんなことがあったからか、今でも突然何かが変化するのは凄く苦手だ。もちろん今の事態も避けられるなら、全力で避けていただろう。


 でも、今は目をそらしている時ではない。私はもう子供ではないのだ。自分の行動に責任を持たないと、そしてその行動によって変わる未来を自分で選ばないと、と強く思った。


「普通のことだけど、聞いて」と私は小さな声で、でも強く決心して言った。

 ツバサはそんな私に何かを感じたのか、まるで私を応援してくれるかのように優しく「うん」と頷いた。


 私はその日の朝の行動を細かく話した。ゆっくりと、まるでもう一度その日の朝をなぞるようにして。ツバサは優しく、うん、うんと声で付いてきてくれた。それはなんだかとても穏やかな時間だった。ずっと続いていてほしいような穏やかさだった。


 その話の中で私は二つのことに気づいた。一つは「朝」に「教科書を忘れて」走って帰る、というのはまだ試していないこと。わざと忘れ物をすることに効果があるのかどうか分からないけれど、試してみる価値はあるのかもしれない。

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