第16話 それだけで?
その後、私たちは図書館に行って、本を探したり、スマートフォンで異世界に行った時に元の世界に戻る方法を探したりした。
数日前までは、まさか自分がこんなバカげたことを真剣に探すとは思っていなかったけど。本当に変な感じ。こんなこと真剣に探している人がいたら、厨二病かなって思ったと思う。
なかなか元の世界に戻るヒントになるようなことは出てこなかった。でも不思議と悲壮感はなかった。だって横に一緒になって頑張ってくれるツバサがいたから。
目の前の、図書館に差し込むかすかな光に照らされたツバサがとてもキレイで、思わず見とれそうになった。こりゃ絵になるし、イラストにしたくなるわ。私も今日書こうかな、なんて。
そしたら、ツバサがじっと見ていたスマートフォンから目を離したので、私の視線に気付かれたのではないかと思って、私は慌てて言い訳を探した。
そんな私には気付かずにツバサは私に聞いてきた。
「 そもそもユキはどうやってこっちの世界に来たの?」
「うん?」っと返事しながら私は考えた。
うん。確かに。まっとうな質問だ。
戻るためにはその入り口を探さなければいけない。
「あの日の朝、学校に行く途中で教科書を忘れたのに気づいて走って家に戻ったの」
「うんうん、それで?」
それでって。ツバサは次を促したけど、次なんて何にもなかった。
「そしたら、こっちの世界に来たの」
「えっ!?」ツバサはびっくりしながら聞いてきた。「それだけなの?」
きっともっと大きな異変や徴候があるものだと思ったのだろう。分かる。分かる。
でも、なにもないんだ。本当に。
「うん。そう。・・・なんだけど」と、それ以上に返す言葉がなくて、まごまごしている私に気遣ってツバサは
「そうだよね。ごめん。一番それで戸惑っているのはユキなのにね。変な言い方してごめん」と謝った。
「ううん。ツバサは悪くないよ」
とにかく私はツバサを傷つけたくなかった。だって、こんな時でも私のことを気遣ってくれる優しい人だから。
「誰だってそんな風に聞いたら戸惑うよ。そりゃもちろん私もだけど。普通のことだもんね」と言ったら、さすがに今は少しだけ力なく微笑みながらツバサは
「うん。だって本当にごくごく普通のことだよね」と言った。
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