第15話 筋違いのうらみごと
そんな混乱している私にツバサが言った。
「自分でも、まだ整理できていないんじゃないの?」
私のことを思って真剣に言ってくれるツバサの、整った鼻筋をなぞるように視線を沿わせながら、ふと私は何度も忘れかけていることを思い出した。
「目の前のツバサとこれまでの関係を築いたのは私ではない」という事実。スマホの写真フォルダの中の無数のツバサのイラストが、分かりやすくそれを物語っていたこと。
そうなんだ。ツバサがこれまで、「単なる幼なじみとしてだけではない好意があるかもしれない接し方」をしていたのは、本当の私に対してではなく、こちらの世界に元々いた自分に対してなんだ。
ツバサがこんなに親しくしてくれるのも、こちらの世界にいた私がいろいろな想い出をツバサと積み重ねたからなのだ。もしかしたら、すごい努力もしていたのかもしれない。
しかも、あんなにたくさんのイラストがあって、日付から見て、最近も増え続けているということは、現時点では何も実ってないのだろう。
そんな自分を勝手に私自身だと思えない。私はなんの努力もしていないのだ。
そんな私がこちらの世界に留まって、いい思いをしよう、なんてずうずうしいにもほどがある。誰だってそう思うじゃない?
そう思うとやっぱり私は元の世界に帰るべきなのだと改めて思った。例えそれが今の私にとって都合のいい選択肢ではないとしても。「私ってまじめなのかな。本当はそんなこと考える必要ないのかな」なんて思ったりもした。
でも。でも、やっぱり、この真剣なツバサと、こっちの世界でこれまで生きてきた自分の真剣な想いは裏切れないと思った。これまで頑張ってきたのに幸せになれてなくて、もしかしたらずっと想いが届かないかもしれないもう一人の私がかわいそうになった。
だから、正直に言った。
「だって、私は、ツバサが知っている私とは本当は違うんだよ。なのに勝手にここに居座ることはできない」
無意識に声が震えて、なんだか少し感情的になってしまったような声が出た。こんな時の私って本当に思った通りにならない。リセットしてもう一度やり直せればいいのにって思うけど、もちろんそんなことはできない。
その時の少し尖った声が変にツバサを傷つけてしまいそうな気がして怖かったけど、だけどどうしようもなかった。
ツバサはそんな私に少しだけひるんだ感じでかすかにピクッとして、ゆっくりとうつむいてから「そう」と何気なく言った後、顔をぱっと上げて、「協力するよ」と明るく微笑みかけてくれた。「だったら協力するよ。全力で」と言ってくれた。
思うところはいろいろあるに違いない。でもツバサは心から協力してくれるとだけ言ってくれた。その微笑みが力強くて、ツバサが協力してくれたら何でもできるような気がした。
本当に、ツバサは、優しい。
できたらずっとその優しさに触れていたいところだった。
「最初から私がこっちの世界に生まれてきたらよかったのに」と思った。
「私、どうして最初からこっちの世界に生まれてこなかったんだろう」
「それは何?お母さんをうらんだらいいの?こっちの?あっちの?人のせいにするにしてもどっちの誰のせいにすればいいの?」
今の状況を考えれば考えるほど頭が混乱してきて、ちょっと頭がおかしくなりそうな気もした。
だから、あまり難しいことは考えすぎずに目の前のツバサに全力ですがりつくことにした。
「ありがとう。頼りにしてるね」と私は笑顔で言った。ツバサのような力強さはないだろうけど、精一杯の笑顔で言った。
そうやってツバサにいい顔をすることぐらいは許されるだろうと思った。
「こんなにいさぎよく、あるべきところに戻ろうとしているのだろうから、絶対にそれくらいは許されるはずだ」と私は誰にともなく言い訳をした。間違いなく誰にも届かない言い訳だ。
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