第14話 迷ってしまう

 話をしている最中、ツバサは真剣な表情をしながらも、ずっと笑顔だった。


 でも、やっぱり内容がかなり唐突だったから、ツバサは話終わった後、神妙と言ったらいいのかな。何かに取り憑かれたような、これまでに見たこともない顔をしていた。


 私は何を言われるのか、少し怖くなった。作り話か、ちょっとおかしくなったと思われてもしかたない。


 ツバサは、ちょっと考えてから、

「本当なの、それ?」と少し力のない声で聞いた。

「うん」

私は精一杯の気持ちを込めて、力強く言った。こんな力強い「うん」を口にしたのは、多分生まれて初めてだった。


 その私の想いがツバサに伝わったのか、ツバサにまるで別のスイッチが入ったように、ゆっくりと目に力が宿った。


 ツバサは「信じるよ」とだけ、でも力強く言ってくれた。その力強さがなんだか頼もしかった。


 唐突に、こんなめちゃくちゃな話をしたのに信じてくれるんだと、「じーん」とした。ツバサは、私の味方なんだなと胸がしびれて、そしてしびれたところがあったかくなってきた。


 それが、右胸の少し上辺りだったから、私の心臓ってこの辺りなんだと分かって、その発見にも少し感動した。


 ちょっと馬鹿みたいかもしれないけれど、なんだか今、「自分は生きている」と感じた。


 ツバサは本当にいい人だ。こんないい人、今後二度と現れないんじゃないだろうかなんて考えちゃう。これから先、大人になってどんな人と出会うのか、想像もできていないけど、だけど今のツバサ以上の人がそもそも想像できない。それくらいツバサはいい人だった。


 そうやって、一人でずっと遠くに想像を働かせている私をよそに、ツバサは真面目な顔で言った。

「そんなことより、ユキはこれから、どうしたいの?」


 ツバサに聞かれて、一瞬意味が分からなかった。

「自分が・・・どうしたいか」

「そうだよ。それが一番大事なことだよね」

「うん」

確かにそうだ。ツバサが言ってることは至極真っ当だ。自分がどうしたいのかが一番大切なはずだ。


 でも、私はこれまで全くそんな視点では考えていなくって、本当にばかだなあって思ったけど、でもツバサならそんな私のことでも受け入れてくれそうな気がした。だから何も考えずに正直に自分の今の気持ちをそのまま話しした。


「正直、自分でも自分がどうしたいのか、わからないんだけど…」私は戸惑いながらもポツリポツリと少しづつ、考えながら口にした。「元に戻りたいという願望っていうのじゃなくて」「当たり前に戻るべきだと思ってる」「だってそれが一番」「一番自然なことだから」


 そう口にしながら、本当に戻りたいと思っているのかどうか自信が無くなっている自分がいることに気付いた。

 セリフの一言一言が、変な方向に自分を整理していくようだった。


 だって、今目の前にいる素敵なツバサはこの世界にしかいない。元の世界の私は普通に人付き合いが苦手で、それほど華やかではない学生生活を送っていた。


不覚にも「元の世界に戻っても今より幸せじゃないし」と思い始めてしまった。「本当に戻っていいの?」「このままここにいた方が幸せじゃないの?」


 色々と口にしていく中で、明らかに私は迷っていた。でも迷いながらもどこか違和感があった。

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