第13話 告白

 その時、私はふと自分のスマホに入っているツバサのイラストのことを思い出した。普段、実際の人物はあまり描かないのだけど、ツバサには何度かモデルになってもらったことがあり、そのイラストをスマホの写真フォルダに入れていたはずだ。そして、そのツバサは女性の姿なのだ。


 いいことに気づいたと思って、スマホを開いて写真フォルダを見た。でも、思っていたのと全然違う光景に、私は心を奪われていた。


 そこには私が描いた覚えのない、でも特徴的に私が描いたと分かるイラストが無数に広がっていた。


 そのイラストは、全部「男のツバサ」を描いていた。ぱっと見ただけで少なくとも、何十枚もあって、「私これだけのイラストを書くのにどれだけの時間を費やしたんだろう」と思ったけど、想像もつかなかった。


 笑顔のツバサ、真剣なツバサ、あどけないツバサ、かっこいいツバサ。色々なポーズで色々な表情をしているツバサが私のスマホの写真フォルダの中で舞っているようだった。


 そして、私は悟った。こっちの世界の私は間違いなく、ずっとずっとツバサのことが好きだったのだ。見ているだけで、胸が一杯になった。誰かに胸を鷲掴みにされているような苦しさすら感じた。


 たくさんのイラストから伝わってくる、強い想いを、自分の想いを、大事にしてあげたいと強く思った。それがこっちの自分でも、あっちの自分でも関係ないと思った。


「正直に告白しないといけない」私は強く決心した。


 カッコよく決心したのはいいけど、切り出すタイミングがなくて30分くらいはモヤモヤしたかもしれない。30分くらいだったのに、まるで一週間くらいモヤモヤしたような気がした。


 モヤモヤしている私に気付いて、ツバサが何も知らない笑顔で言った。

「ほら、またそんなに考えこんで、どうしたの」

その一言が私の中の何かに触れて、私の告白の第一歩が自然と口からこぼれた。


「聞いてほしいことがあるの」

ツバサはすぐに真剣な顔になって、私を見つめながら「うん」と言った。

 真剣な顔をすると整った顔がますます整って、美しく見えた。


 「私、ずっとツバサの顔を見ていられるな」なんて思った。


 「だめだめ、なにのん気な事考えてるの。本題に戻らなくちゃ」と、私は頭を戻して、スパッと言った。

「私、一週間前の私とは別人なの」


 ツバサはきょとんとし、私の真意を測りかねているようだった。しばらくあやふやな表情をした後、一度大きく笑いとばそうとしたのか、変な引きつり笑いをしかけた。だけど、いつまでも私が真剣な顔をしているから、笑うのをやめて、心配そうに口にした。

「何を言ってるの?」


 ツバサは明らかに戸惑っていた。そりゃそうだろう 誰だってそうだろう。私も逆の立場なら戸惑うに違いない。


「分かってる。ツバサ。私、変なこと言ってるって。でもこれは本当の話なの」

「ほんとうのはなし?」


 ツバサが外国語を口にするようにそう発音したので、ゆっくりといつもの日本語だからというのを分かってもらえるように私はゆっくりと繰り返した。


「本当、なの」


 その後私はこうなったいきさつを説明した。と言っても私もどうなってこうなったのか分からないので その辺りは説明しきれないことも多かった。あくまで自分の理解している範囲での説明だ。


 ツバサは真直な瞳で、ずっと話を聞いてくれた。拙い私の話を理解しようとずっと真面目な顔で。

 その真面目な顔は私にとって幸せそのものな気がした。

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