第12話 じーんとする

 次の日の私の様子を見てツバサは少し安心したようだった。まあ、確かにそうかもしれない。私は落ち込んでいる暇もなく、今日のイベントに少し緊張しながらも浮かれていた。


 なんか、気がついたら顔が笑顔になってしまっている自分に気づいて、本当に馬鹿だなあと自分がかわいくなった。それはそれで、今日も授業の内容は全く頭に入ってこなかった。


 午後の授業が終わったら、自然とツバサが席に来て、

「さっ、行こうか」と言って自然と二人で教室を出た。

 校門のあたりでツバサは「本当になにも悩んでないの?」と聞いてきた。


 相談しても困らせるだけだから、相談しないでおこうと思った。でも、それでは納得してくれなさそうだったので、「今は相談できないけど、またタイミングが来たら相談するね」と打ち明けた。


 ツバサは「うん」とだけ言って、それ以上何も聞かずに、優しく、いろんな所に遊びに連れて行ってくれた。


 いろんなところと言っても高校生だから、もちろんそんなたいしたところではない。


 ショッピングモールのカフェだったり本屋だったり、そんなところだ。女のツバサとも行ったことがあるところばかりだった。でもいつもとケタ違いに、とても心地よく、幸せな時間だった。


 私は自分の置かれてる状況を少し忘れてツバサの優しさに浸った。


「ツバサは本当に誰にでも優しいね」私が呟いた。

ツバサは少し「むうっ」と声に出して言って、すねたような口をして、そしてずっと私の方を見た。

「俺が誰にでも優しいと思っているの?」


 ツバサはそう言って優しく私の手を握った。


 ツバサの手はとても暖かかった。その暖かさはこれまで 自分が知っていたどの暖かさとも全く違っていた。そしてその暖かい手の平から 、幸せな感じが胸まで伝わり、幸せが胸いっぱいに広がった。もう私は何も考えられなくなった。


 なんだろう、これ。今それどころじゃないのに。ないはずなのに。でも、ずっとこのままだったらいいのになって思った。


 ツバサが男であることにはまだ慣れないけど、でも、私にとってそれは幸せなことかもしれないと思った。


 私が別の世界から来たことを言わなければ、そのまま私はこの世界でツバサと幸せにすごせるのかもしれない。


 でも、それだと私はツバサに嘘をついていることになる。あっちの世界の親友だった女のツバサにも、こっちの世界の自分に好意を寄せてくれているツバサにも少し悪い気がする。


 だけど、だからと言って中々本当のことを言いだすこともできなかった。だいたいどうやって今の状況を信じてもらえばいいのかとも思った。

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