第11話 どういうつもり!?

 夜になってツバサから電話がかかってきた。

 なんとなく、ベッドの上で正座をしてスマホの画面を見てしまった。何話したらいいんだろうと思って戸惑っていたら、呼び出し音が終わってしまった。


「ええっ!」

うそうそうそっ!そんなにすぐに終わると思ってなかった。私はすごく後悔した。叫びだしそうだった。もう一度やり直したかった。


 時計の針を一度だけ戻すことができたら、さっきの呼び出しがなった時に戻ると思う。元の世界に戻ることなんて、今この瞬間には二の次のことだった。


 どうしよう。でも、かけ直す勇気なんてないし。もういちどかかってこないかなあと、ベッドに寝転びながらスマホをつんつんしてたら、すぐにもう一度電話がかかってきた。


 やっぱり慣れてないので、「ビクッ」としたけど、今度また切れてもいけないと思って、何も考える暇もなく電話にでた。


 電話に出てから、さっき電話がかかってきてから少し時間が経っていたのに、その間、何を話したらいいかとか何も考えていないことに気づいた。


 電話に出ても私が何も言わないから、一瞬無言状態になった。


「こんばんは」

自然にツバサが話しかけてきた。


「うん。こ…こんばんは」

私はいきなりかみながら、何とかそれに答えた。


「今日なんか変じゃなかった?」私が何も考えてなくても自然にツバサは話を進めてくれた。

「変って?」

「いや、なんていうか、元気ないっていうか、授業中もうわの空っていうか」

「あー。そうかな。そうだったかな」

「そうだよ。ちょっと心配した」

その低い声に、ツバサの言葉に、心が震えた気がした。また、しゅわしゅわと浄化された気がした。心配されることがこんなに嬉しいなんてびっくりした。


「ごめん。心配かけて。特に何かあったわけじゃないの」と私は自然に嘘をついた。あまりに自然すぎて自分でもそれが嘘だと分からないような嘘だった。


「そう。だったらいいけど」とツバサは少しぶっきらぼうに言った。

「ううん。ありがとう。心配してくれてありがとう。ツバサが心配してくれるの嬉しい」と私は自然に素直に言った。


 もしかしたらこれまでの人生で一番素直になれた瞬間だったのかもしれないし、たまたま勢いで口をついた言葉が自分の心境にぴったりだっただけかもしれない。


「え、なんか今日は素直だね」とツバサが言った。声の調子からなんだか照れているツバサの様子が伺えた。それに合わせて私もとても照れくさくなった。


 でも、照れくささでツバサとつながりあえているような気がして少し嬉しかった。


 そんな幸せな気持ちに浸っていると、ツバサがまたびっくりな提案をしてきた。

「気のせいなんだろうけど、心配だから明日の放課後、ちょっと付き合ってよ。部活休みなんだ」


 私は心臓をばくばくさせながら、「はい…」と小さな声で言うのが精一杯だった。その日の電話が終わるまで何を話ししたのか全く覚えていない。


 その間何度も、「さっきのってデートのお誘いなの?」という質問を口にしたくなったけど、私にはそれを声に出す勇気はなかった。


 気がついたらツバサが「おやすみ」と言っていたので、「うん、おやすみ」と言って電話を切った。私はぽすっと、ベッドに倒れ込んだ。


 自分の境遇や、ドキドキイベントに疲れた私は、そのまま幸せな気持ちのまま眠りについた。普通こういう時は寝れないものかもしれないけど、私はどうやら自分で思っていたより神経が図太いのかもしれない。

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