第10話 まあ、それもいいか
いやいやいやいや。
だって、私今日の放課後元の世界に戻るんだよ。夜にツバサと電話するのは私じゃないと思う。え?元の世界に戻るのは明日でもいいかもしれない?確かにそうだけど。
私は自問自答しはじめた。確かにこんな憧れのシチュエーション、元の世界に戻ったら下手したら一生経験しないかもしれない。一生は大袈裟に考え過ぎかもしれないけど、少なくとも当面は全く予定がない。
どうしよう。どうしよう。私は考え過ぎて頭がオーバーヒートしそうだった。どうやって電車に乗ったか改札をくぐったか全然覚えていないけど、気がついたら家の近所まで戻ってきていた。
え、どうしよう。そこまで来ていながら、私には結論が出ていなかった。元の世界に一刻も早く戻りたい気持ちは大きいけど、夜にツバサと電話もしてみたい。
しばらく迷ってしまったけど、時間が経てばどんどん元の世界に帰れなくなってしまいそうで怖かったこともあり、「今日戻れなくてもお楽しみがあれば落ち込まないし」と変な理由をつけて、私は元の世界に戻ることにした。やっぱり私、慎重な性格なんだなあと再実感した。
あの日私が忘れ物に気付いて走って戻った、正にその場所で、私は立ち止まった。そして、目をつむって大きく深呼吸した。普通の道路の何もない場所でこんなことをしていて、変だったかもしれない。だけど、そんなことは気にしていられなかった。
決心できた私は目を開けた。「ツバサと電話できないのは残念だけど」と思いながら、思い切って走って家に戻った。
走った時に大きな風が私の周りに吹き抜けたような気がした。生暖かい大きな風に包まれた気がした。そういえばあの時もそんなふわっとした気持ちを感じたような気がする。私は手応えを感じた。
この何日間かのことが、短い間だったけど走馬灯のように頭をめぐった。長い夢を見ていたような不思議な気持ちだった。
…だけどそれだけだった。
少し歩いて、あちこち左右が逆なままなのが分かった。
元の世界には戻っていなかった。
その後何度かその周りを行き来したけど、元の世界には戻れなかった。「まあ、いっか。ツバサとも電話できるし」と呟いて自分を言い聞かせた。そのおかげで、あんまり落ち込まずにすんだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます