第9話 ビッグイベント☆

 その日は別の世界から来た自分に気付かれないように一日頑張って過ごした。昨日はそんなこと考えなかったのに、きょうそう思ったのは、これからずっとこの世界にいる可能性を考えたからかもしれない。


でもその一方で、自分がどうやったら元の世界に戻れるのかを、普段考えたことないレベルでうんと考えた。知恵熱が出てもおかしくないくらい考えた。


 午後の授業中に「そうか、逆の方向に走ってみればいいのかもしれない!」と思い付いて、私は思わず叫びそうになった。 昨日は歩いて帰ったから元の世界には戻れなかったけど、忘れ物を取りに帰った時のように走れば元に戻れるのかもしれない。


 私はすごい発見をしたと真剣に喜んだ。同時にどうしてこんな単純なことに、今まで気付かなかったのかと不思議に思えた。


 とにかくそれに気付いたら、今すぐあの帰り道を走りたくなったけど、いきなり授業中に教室を抜け出すなんて目立ったことはもちろんできない。だから、その後やきもきしながら1日の授業が終わるのを待っていた。 もちろん授業の内容は全く頭に入ってこなかった。それなのに時間が経つのが凄く遅く感じた。たった2時間しか残っていなかった午後の授業は、いつまでたっても終わらなかった。


 びっくりするくらい長い時間待った後に、ようやく最後の授業の終了のチャイムがなった。


 チャイムが鳴り響く中、タナベさんが何か話しかけてきた。でも、悪いけどこれまた全く内容が頭に入ってこない。外国語で話しかけられている気分だった。私はぼんやりと曖昧に微笑んで「また明日ね」と生返事をしてしまった。


 「ごめんねタナベさん。分からないと思うけど、今私はすごく大きな問題に直面しているから、こんな対応になってしまうのも仕方がないの」と頭の中で、タナベさんにすまなく思っていた。でも、本当に仕方がないのだ。誰だって同じ状況になったらこうなるはずと自分に言い訳した。


 それから急いで帰ろうと教室から廊下に出る瞬間にツバサが

「今から部活だけど、夜に電話するね」と、ツバサにとってはきっと当たり前のキラキラした大きな瞳で声をかけてきた。


「え?え?何それ」と私は思わず声に出してしまいそうなのを必死に我慢した。全く予想していなかったからだ。


私、ツバサと夜に電話するの?


 ああ、そうか。しばらくして私は納得した。確かに女のツバサとは毎日のようにたわいもない話をあれやこれやしていた。男のツバサともそんな話をするのかもしれない。今日起こったこととかテレビの話とかかな?


 もしかして時々、ちょっとお互いに照れたりしながら?


 そんなの楽しそうすぎる!そう思いながら、私は

「うん」と返事した後につい口が滑って「待ってる」と続けてしまった。


 ツバサは爽やかに「じゃあ、また夜に」と言って立ち去った。

 私は一瞬、「夜に、気になる男の子から電話が掛かってくるというイベント」を待ちわびそうになってしまった。

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