第8話 え!?私… 本気なの?
その時だった。
ふと、知っている顔が目に飛び込んできた。なんだかこれまでずっと知っていたような顔。すごく近くで心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「どうしたの?大丈夫?」
ツバサが休み時間に、深刻そうな顔をしている私を心配して席まで来てくれたようだった。
馬鹿みたいだけど、それだけでさっきまでの孤独感がすうっと消えて行くようだった。
一人ぼっちの宇宙空間で自分に向けて差し出してくれる手を見つけたようで、泣き出したいくらい嬉しくなった。でも、泣くのは必死に我慢した。ツバサを困らせるわけにはいかないから。
涙をこらえる方法が浮かばなかったので、多分間違っていると思うけど、私は大きく深呼吸した。間違いかもしれないけど、その場をしのげたので、ある意味正解だったと思う。
私の様子が変だったからだろう。
「何か悩み事あるの?」とツバサはさらに聞いてきた。
私は全身の力を集めて頑張って笑顔になって、
「ううん」といって首を振った。
ツバサはいつも通り優しいなと思った。でも、なんだかいつもの女のツバサの優しさとはちょっと違っているように感じた。いつもは優しさがじんわりとあったかいのだけど、それに比べたらちょっと力強いような暖かさだった。女友達の優しいのと好みの男性の優しいのとは違うんだななんて発見していたら、「あれ?やっぱり私ツバサの事が好みなんだ」と急に気付いてしまった。
いや、好みなんてものじゃないかもしれない。「好き」なのかもしれないと思った。それは突然の気付きだったけど、ぼんやりと自信のないものだけど、なぜか、前から好きだったこにその時「気付いた」ような気がしたのだ。
元々の世界ではぼんやりとした中学生の頃に異性に抱く淡い気持ちくらいの経験しかなかったから、もしかしたらこれが初恋なのかもしれない。
こんな普段とは違う世界で、元女友達に初恋だなんて、なんてぶっとんだ人生なんだ私。つい最近まで、びっくりするくらい平凡で単調な人生を歩んでいたはずなのに。
ツバサの発言を全く蚊帳の外にして、また1人で自分の世界の中で盛り上がってしまった。しかもなんだか恥ずかしさがこみ上げてきて、ツバサの顔が見れなくなって下を向いてばかりいるので、
「今は相談できなくてもいつかは相談してな」
とツバサは席を離れようとした。そしてその時に優しく頭をぽんっ、と撫でてくれた。撫でるという表現があっているかどうかわからないけど、叩いたって感じではない。頭に触れた瞬間にじーんとした暖かさを感じて、なんだか友達とは違う感情がこもっている暖かさを感じた。
もちろん私が勝手に感じているだけかもしれないけれど。
そう思ったらなんだか顔が、かあっと熱くなってきて、そんな私に気付かれないように、私は慌てて顔をそむけ
「そんなに気にしてくれなくてもいいよ」と窓の外の方を向きながら言った。
上の空で話を聞き流した上にこんなそっけない態度を取ってしまって、「そんなつもりじゃないのにごめんなさい」という気持ちで胸がいっぱいになった。
自分でやっておきながら、自分の態度に後悔していた。でも、こんな時ってそうは思っていてもそれ以上体が動かないものなのだ、と自分のコントロールがきかない自分にびっくりしていた。
そんなことを考えながらもんもんとしていたら窓の外を向いた私の背後から、
「放っておくなんてできないよ」というツバサの低くて優しい声が降り注いだ。こんな風な「友達以上恋人未満な雰囲気」に元いた世界でずっと憧れてた。
自分の嫌な態度を許してもらえたようで、罪悪感もあまり感じずに済んだ。それどころか大袈裟だけど魂が浄化されたような気がする。
炭酸水の泡のように、汚いものが私から出ていったようなイメージ。しゅわしゅわするよ。じーんとするよ。「あ、これ、私、感動してるんだ」と気付いた。
その後しばらく私は、じーんと感動し続けちゃった。
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