第7話 どこまで続くの!?

 次の日の朝もいつものように寒くて、目覚めが悪かった。


 起きた時は普通に元の世界に戻ったつもりだった。「今日もまた学校行くの、めんどうだなあ」って思いながら、起きた。昨日の出来事を忘れかけていた。


 トイレに行ったら掃除用のブラシが置いてある位置が普段と左右逆なのに気付いて、昨日起こったことをぼんやりと思い出しはじめた。


「そういえば昨日、………!」

元の世界に戻れていないことに気付いて、一気に目が覚めた。


 「もしかして」と不安に思いながら、家のあちこちを注意深く見たら、やっぱり所々左右が逆だった。どうやら私は元の世界には戻っていないのだと、つらい現実を突きつけられていた。


 それでもまだ少しぼーっとした頭で、左右がところどころ違う台所を一通り見回した。そして、まじまじと目尻のほくろが逆の位置にあるお母さんを見ながら朝ごはんを食べた。


 いつもよりも水っぽいご飯を食べながら、私は不安が揺るぎなく確信に変わっていくのを実感した。私が違和感を感じているから、なんとなく食卓が変な雰囲気になって、お母さんもなんとなく変に思ったようだった。「はっきりと言葉にはできないけど、どこかおかしい」という雰囲気だった。でも、この世界のお母さんに相談することはできなかった。


 だって、このお母さんは私のお母さんによく似てるけど、私の本当のお母さんではない。遺伝子的には本当のお母さんだけど、私と共通の時間を過ごしてきていない人だから本当のお母さんとは言えないと思った。


 こういうの何て言うんだろ。産みの親でも、育ての親でもなくて、遺伝子の親? 朝から難しいことを考えていたら少し頭が痛くなってきた。


 考えていても何も解決しなさそうなので、時間もないしとりあえず学校に行く用意をした。そして、とにかく制服に着替えて家を出た。学校に向けて歩きながら、私は少し考えた。

「お母さんに相談できなかったら、私、他に誰に相談したらいいんだろう」


 急に自分が独りぼっちであることに気付いて、すごく寂しくなった。


 そりゃ今までも、時々クラスやイベントで一人になって寂しくなることはあった。まあまあぼっち率も高い人生だったから、比較的一人ぼっちには慣れていると思う。


 だけど、その時に感じたのは、これまでのよくある一人ぼっち体験の時の感じとはまるで違った、異次元レベルの孤独感だった。大袈裟かもしれないけど、この広い宇宙に全く自分一人しかいないような、理解してくれる人が全くいないような、そんな感じだった。


 いつもと同じように学校に着いた。左右が少しづつ違う教室で、いつもと似たような、でも全くいつもと違う授業が始まった。


 私は授業をうわの空で聞きながら、今後について考えていた。さっきよりさらに大袈裟かもしれないけれど、なんだか自分が宇宙空間でただ一人ぷかぷか浮かんでいるような絵が思い浮かんで、ますます孤独感が膨らんでいった。


 元の世界にずっと帰れなかったとしたら、私ずっとこんな気持ちのまま、孤独に一人で生きて死んでいくのだろうか。え? 大袈裟なの、これ? 逆にもっと焦るものなの? 何これ?


 私は教室で一人静かにパニックの海に沈んでいった。先生の声もグラウンドの音も、凄く遠くで雑音に紛れて消えていった。なんだろう。段々息もし辛くなってきたような気がする。泣きそう。でも教室で泣くような目立つこともしたくない。どうしたらいいんだろう。


 つらい。どう表現していいか分からないけれど、とにかくつらい。

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