第6話 変わった1日だった
お昼になったら自然な雰囲気でツバサが私の席に来て、極々当たり前にタナベさんと3人でお昼を食べた。
話題は昨日のテレビの音楽番組だとか、朝のテレビの占いの順位だとか、いつものようにどうでもいい話。
話す内容は女のツバサとほぼ同じなのに、男のツバサは声が男性で、それが当たり前なのに、とても不思議な感じがした。
多分ぼーっとツバサを眺め続けていたからだろう。ツバサは私に、
「何? なんか俺変か?」
と言いながら、少しうつむいて顔をそむけた。少し照れてるように見えた。
なにそれ。すっごくかわいい。
私もつられて何だか赤くなってしまった。
タナベさんが微笑ましく私達を見守るように見ていた。朝から混乱してて、あまり理解してなかったけど、考えてみたら「仲がいい幼なじみがイケメン」って、すごく都合のいいシチュエーションではないだろうか。
しかも女のツバサは性格も良かったし、私と話もあってたし、男のツバサも私と相性がいいかもしれない。
「もしかしたら、一生で今が一番のチャンスなのかも」なんて、ぼんやり考えてたら、突然おでこに手の平がきて、急に現実に引き戻された。
そしたらなんと、ツバサの顔がアップで目の前に。
近い! 近い! そしてイケメン!!
心臓が口から飛び出しそうになりながら、後ろにのけぞったら、ツバサが「なんか、ぼーっとしてるから熱でもあるかと」と言った。
流石におでことおでこではなかったけど、あまりに顔が近かったので、しばらくは心臓の音が止まらなかった。
なにこれ。何のご褒美なの? ツバサは私の中では女の子だけど、急にイケメンになって、こんなドキドキイベントがあるなんて。
しかも、こういうの好意が全くない相手にはしない、よね? なんとなく近づいた顔に好意を感じたような気もする。え? なんだろ? 私自意識過剰!?
その一連のやりとりだけでもう、その日は1日中幸せな気分になれる気がした。不覚にもなんてラッキーな日なんだと思いかけた。
……よくよく考えてみたら、とんでもない状況の真っ最中なのに。
私って、すっごい単純。かも。
男のツバサがこんなに優しくて、私と親しいのなら、ずっとこの世界にいるのも悪くないなあなんて思ってた。いやむしろ、こっちの方が幸せかも。
だけど、その時私は「明日になったら当然私は元の世界に戻るんだし」って、のんきに考えていた。深刻な事態をあまり想像していなかった。
帰り道はやっぱり左右がところどころ違ってた。朝に家に引き返した場所あたりでちょっと見回してみたけれど、おかしなところは特になかった。もちろん左右がところどころ違うという一点を除いてだけど。
家に帰ったらところどころいつも違うけど、大体いつもと同じ日常だった。
いつものような濃いめの味付けのおかずと、いつもより少し水分の多いご飯。いつもと同じお風呂の順番といつもとちょっと違うテレビ番組。
最後はところどころ左右が違う間取りの部屋のベッドの中で、今日1日、なんだかおもしろかったなと思いながらベッドで目をつぶった。なぜだかその時私は、目が覚めたら元の世界に戻っている、と信じ込んでいた。
ちょっと楽しかったかも、なんて思いながらいつも通りの姿勢で寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます