第5話 2番目は目立たない
ツバサが先にタナベさんの名前を呼んでくれたおかげで、私はなんとかこの窮地から逃れることができた。男友達と話をしているツバサがその瞬間、私には天使のように見えた。
こういう時に助けてくれる存在を天使というのかどうか分からないけど、そんなことはどうでもいい。とにかくすごく光り輝いて見えた。
私はその喜びをなるべく表情にださないようにしながら、ナッちゃんと次の授業の教室に向かった。
安心したからかもしれない。左右入れ替わっているものにどんどん気がついた。
廊下、トイレ、階段、曲がり角
少しづつ左右入れ替わっているのに、逆の曲がった先にちゃんと教室があったりして、「ちゃんとつじつまがあってるんだなー」と、すごく感心した。
廊下で学年一のイケメンのハシバくんとすれ違った。私はふと、「大人しいタナベさんもハシバくんのファンの一人らしいよ」という噂を聞いたことがあるのを思い出した。
私はタナベさんとの話題に困っていたこともあり、軽い世間話のつもりで、
「ハシバくん今日もさわやかだねー」とナッちゃんに言った。
ナッちゃんはまたもや意外な反応をした。
誰それと言った感じで首を傾げたのだ。
「ハシバくんって言うんだ。顔見たことあるけど名前は知らなかった」
「え? ハシバくんて学年全員が知ってるんじゃない?」
「そうなの?どうして?」と不思議そうにナッちゃんは言った。
ナッちゃんは、知らないふりをしてるわけじゃなさそうだった。
「え? 学年一の…イケメンだし?」
「えー? 学年一のイケメンは、ツバサくんじゃない? 確かにさっきの男の子もイケメンだけど、ツバサくんにはかなわないんじゃない?」
驚いても不自然だから、驚かないようにして返事はしなかった私に対してさらにナッちゃんは、
「ツバサくんと幼なじみだから気づいてないかもだけど、ツバサくんかなり人気あるよ。上級生にも下級生にも」と言った。
「多分この学校でツバサくんを知らない人はいないんじゃないかな」
どうやらこの世界では、男のツバサが学年一のイケメンらしい。そして、日本で2番目に高い山をあまりみんなが知らないように、学年で2番目にイケメンなハシバくんはこの世界では無名らしい。
ツバサは言うなれば、昨日までの世界で学年一だったイケメンが霞んで無名になるくらいのイケメンのようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます