第5章 してはならないこと(2)
数日後、牧の足は白い洋館に向かっていた。特に用はなかったが、牧の胸には王女から言葉が届いたりしてないだろうかという淡い気持ちがどこかにあった。いつものように林の茂みを抜けると、白い洋館は牧を迎えてくれた。
中央のガラス張りの扉も、置かれたままのティーカップも、全くいつもと変わらない。牧は居間を抜け、二階に行き、例の鍵を取ってきた。そうして一階の青の部屋に行くと、ベッドの下にある宝箱を開けた。
牧は中に入っている紙きれをまじまじと見つめた。紙には何も書かれていない。また文字が浮かんでこないだろうか、牧はしばらくの間、じっとそれを待ち続けた。けれども、待てども、待てども、紙には何の変化も見られなかった。がっかりした牧は立ち上がると、二階の書斎の部屋へと向かった。机の上には牧が書きあげた物語の本がのっている。彼女は呆然とその本を見つめた。開かれたページの最後の言葉は『めでたし、めでたし』で終わっている。
「ちっともめでたし、めでたしじゃない」
牧は不服そうに呟くと、その言葉を恨めしそうに眺めた。それから少しして、牧はあることを思いついた。
「あっ、そうか。ここに書いてしまえばいいんだ」
彼女は机の上に置いてある鉛筆を使って、『めでたし、めでたし』の後にこんな言葉を付け加えた。
『牧はガラルータ国の王女と会った』
牧はそう書くと、一目散に下の青の部屋へと行き、あの白い紙きれを食い入るように見つめた。きっと何かしらの言葉が出てくるに違いないと、期待を胸に見つめていたが、いつまでたっても、文字は浮かんでこなかった。牧はあきらめ、いつものように紙きれを宝箱にしまうと、鍵を本の中へと戻した。そうして、白い洋館を後にした。
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