第5章 してはならないこと(3)
その夜、牧は自室のベッドで眠りに落ちると、一つの夢を見た。牧が目を開くと、辺りは真っ暗で何も見えなかった。自分はいったいどこにいるのだろう。牧は見えないながらも、そろりそろりと歩いた。
歩いていくうちに、目が慣れてきて、たくさんの本棚が並んでいることに気がついた。図書館なのだろうか。そう思った時、遠くの方でぼんやりとした灯りがともっているのが見えた。牧はその灯りに誘われるように歩いて行った。すると閲覧用の大きなテーブルに出くわした。灯りはそのテーブルの上に置かれているろうそくの灯だった。
テーブルの上にはたくさんの本が置いてあって、その中の一冊を貪るように読む少女が椅子に座っていた。ピンクのドレスに長い金髪、色白の肌に優しげな茶色の瞳。牧は、はっとした。
「あなたはガラルータ国の王女ね」
牧が叫ぶと、王女は読んでいた本を静かに閉じて椅子から立ち上がった。
「あなたはここに来るべきではなかったのに。なぜ、来てしまったんですか」
優しげな瞳とは裏腹に、王女は厳しい口調で言った。
「そんな……。だって私は王女に会いたかった」
牧は戸惑った表情を浮かべた。
「あなたはこの世界の人間ではない。それに終わってしまった物語は開けてはならなかったのです」
思わず、なぜという言葉が口からついで出そうになったが、王女があまりにも哀しそうな目で見つめるので言うことができなかった。
「私たち、もう終わりだわ」
「終わり? 終わりってどういうこと」
牧は不思議に思って王女に訊こうとした。その時、牧の足下がぐらりと揺れ、慌てて下を見ると、あるべきはずの床がなく真っ暗な穴が待ち受けていた。
「うわあっ」
叫び声とともに、牧はベッドから転がり落ちると、今までのことが夢であったことを知った。
自室の部屋の時計を見ると、夜の十二時を指していた。一瞬脳裏に、白い洋館にあった振り子時計のことが思い出された。
「また十二時」
そんな言葉を呟きながら、再びベッドに入って寝ようとした時、外の様子が妙に騒々しいことに気がついた。
人の声や、けたたましいサイレンの音がすぐ近くで聞こえている。牧は自室の窓をがらりと開けて、外をのぞいてみた。
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