第4章 王女の物語(4)

小部屋の鉄の扉を開けたのは、侍女のエルダだった。

「まあ、姫様。こんなところに閉じ込められていたのですか。お可哀そうに」

むしろエルダの方が涙ぐむものだから、王女は逆に彼女をなだめながら、こんなことになってしまった事情を彼女に話した。


「なんてことでしょう。では、あの王様は例の魔法使いがなりすましているのですね。私もおかしいと思ったんです。急に姫様がいなくなって、王様に訊いたら、隣の国に重要な使命を帯びて行ってもらった。当分は帰ってこないって言うんですもの。それにしたって侍女の私に何も言わずに姫様が出かけてしまうなんて、一度もないですからね。だからなんだか、変だと思ったんです。それに王様の態度も日を追うごとに横柄な態度になる始末で、これはひょっとしたら、ひょっとしてと思ったんです。王様に関わることを姫様が知ってしまってどこかに閉じ込められているんではないかと。案の定、そうだったし。でも誰も、王様が魔法使いだなんて気づかないでしょうね。何しろ、王様にそっくりですから」


エルダが怒ったり、びっくりしながらも、そう説明を終えると王女はエルダに頼んで召使いの服を一着持ってきてもらった。

「この服どうされるんですか」

エルダが驚きながら訊くと、

「私が着るのよ」

と王女は答えた。


王女は自分が閉じ込められていたように、王もまた閉じ込められたに違いないと、にらんでいた。エルダに聞いたところによれば、自分を探す時に、人の閉じ込められているような場所は全て見て回ったが、城の塔以外は、人っ子一人いなかったという話だった。恐らく人の探せない秘密の場所に王は隠されているのだろう。魔法使いにとって、王は何かあった時の重要な人質のはず。きっと魔法使いの目の届くところに王を隠しているのだと王女は考えた。そこで王女は召使いになりすまして魔法使いの様子を窺うことにしたのだ。


こうして数日の間、王女は魔法使いを見張っていた。そうしてあることに気がついた。魔法使いは、王の自室に掛けられている丸い鏡を、ことあるごとに見つめているのだ。きっと鏡の後ろに秘密の入り口でもあるのだろう。王女は魔法使いが部屋から出るのを見計らうと、部屋の中へと飛び込んだ。


王女は部屋の中に誰もいないのを確認すると、すぐさま丸い鏡の後ろをのぞき込んだ。けれどもあるのは普通の壁だった。試しに押してもみたが、秘密の入り口らしきものは何もなかった。当惑した王女はまじまじとその鏡を見つめた。鏡の後ろに何もないというのなら、秘密を握っているのはこの鏡自体。きっと何かがあるはずだ。王女は鏡の細部を細かく調べたが、怪しいところは何もなかった。

もはや、あきらめの境地で王女は鏡を元通りに掛けてみた。そしてもう一度だけ、その鏡を眺めてみた。と、その時、王女は鏡の隅っこに黒猫が映っていることに気がついた。


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