第4章 王女の物語(3)
黒いローブを身につけ、手には漆黒の杖を持っている。そしてどこかへ向かって歩いて行く魔法使いの姿が映し出されていた。見ているうちに彼の様子は徐々に変わっていった。最初のうちは何がどう変わっているのかよく分からなかったが、最終的な彼の変わりようを見て、王女は思わず、「あっ」と叫んでしまった。
驚きとともに彼女が見たのは、紛れもないガラルータ王の後ろ姿だった。王女が叫んだ瞬間、水面に映しだされた王がくるりとこちらを振り返った。王はこちらの姿がまるで見えるかのように、王女を鋭い目でにらみつけた。
「見たな! お前は城の塔に閉じ込めてやる。そうして誰にも見つからないで、飢えて死ぬのだ」
いるはずなのない魔法使いの声が、王女の耳にとどろくと、彼女は慌ててその場から離れようとした。が、急に身体が動かなくなり、声すら出せなくなってしまった。いったいどういうことなのだろうかと思う間もなく、彼女は突然後ろから物凄い力で引き寄せられた。
その力は彼女の意思とはお構いなしに、王女を後ろ向きのまま、無理やり歩かせ、部屋から出させると、今度は城の幾つもの回廊と階段を、そのまま後ろ歩きのまま、とてつもない速さで歩かされた。目に見えない力と、どこへ連れて行かれるのか分からない恐怖に、王女の心は心底怯えていた。そうして、実際にたどり着いた場所は、あの声が言っていたように、城の塔のてっぺんにある小部屋であった。
王女が部屋の中へ入ると、小部屋の鉄の扉はひとりでに閉まり、鍵がかけられる音がした。そのとたん、身体の自由がきかなかった王女の身体は、ようやく自分の意思で動けるようになった。
すぐに王女は扉を叩いて、声をあげて助けを求めたが、それは無駄だった。真夜中のせいもあったが、もともとこの小部屋は大昔は幽閉など、いわくありげな使い方をされていた部屋であり、今現在は一切使われていない部屋だった。
そのため、人が来ることなどまずなかったのだ。もちろん王女も、数時間おきに、扉を叩いて人を呼んだが、王女の声に気づく人は誰もいないようだった。塔に窓もなく、灯りもなかったため、王女の心はどんどん落ち込み、しまいには絶望的な気持ちになってしまった。
本当にあの魔法使いが言ったように、私は飢えて死んでしまうのだろうか。
思わずそんな良くないことが頭をよぎりながらも、王女はひたすら助けが来るのを待った。そうして幾日が過ぎてから、ようやく待ちに待った助けが現れた。
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