第2章 白い洋館(5)

牧はとにかく、その紙きれを拾いあげてみた。紙にはこんな文字が書かれてあった。

『私は閉じ込められています』

一瞬、牧は目を疑った。しかしどう読んでもそう書いてある。牧は慌てて立ち上がると、一気に二階へと駆け上がった。そうしてまだ調べてない部屋という部屋を調べ上げた。誰かが、この家の中に閉じ込められている。そう思って彼女は部屋を回り歩いたのだが、人っ子一人見つけることができなかった。牧はおかしいなと思いながらも、もう一度青の部屋へと戻り、宝箱の中の紙きれを見つめた。するとどうしたことか、さっきまで書かれてあった文字がきれいさっぱり消えていた。

「えっ」

牧は驚きの声をあげると、もう一度改めて紙きれを見直した。やはり何も書かれていない。どういうことだろうと彼女が訝しげに思っていると、またおかしなことが起きた。真っ白だった紙きれに徐々に文字が浮かんできたのだ。さっきの文字と同じなのかと思いきや、また別の文字が浮かんできた。

『早く助けて』

牧の顔は、たちまち曇った。

「そんな助けてって言ったって」

一階の部屋も二階の部屋も全部見たのだ。でも、誰もいなかった。


これ以上どうすればいいというのだろうか。そうこうしているうちにその文字も消えてしまった。牧は苛立つ心を抑えながらも、冷静に考えるように努めようとした。そもそも私はいったい誰を探せばいいのだろうか。そう思った時、宝箱の中の羽根ペンが牧の目に留まった。ひょっとして、まさかね。そんなことを思いながらも、牧は恐る恐るその羽根ペンを手に取ると、その紙きれにちょっとだけ線を引いてみた。すると一本の線が浮かび上がってきたのだ。インクも何もつけていない羽根ペンのはずが、なぜか書くことができた。確信を得た牧はその羽根ペンを使ってその紙きれにこんな文字を書いた。

『あなたは誰』

牧が質問した言葉が徐々に消えると、再び別の言葉が浮かび上がってきた。

『ガラルータ国の王女』

「王女? 王女だって」

思わず、すっとんきょうな声をあげながらも、牧はそんな国など今まで聞いたことがないと思った。そこで紙きれにはこう書いた。

『そんな国ないわ』

それに対して王女の答えは、

『でもあるのです』

というものだった。どうやら本当のことを言っているようだったが、人らしき姿を見つけられずにいるのも事実だった。そこで牧は今度はこう書いた。

『どこにいるの』

王女から、すぐに返答が戻ってきた。

『城の塔にいます』

それを読んだ牧は目をぱちぱちさせた。この家には城もなければ、塔もない。どちらにしても高いところを目指している。彼女はそう考えると、もう一度二階の部屋を見て回った。それでもそれらしいものは、何も見つけられなかった。それでも牧は宝箱の紙きれのように、何かしら手がかりは残っていないだろうかと、辺りを探し回った。やはり何も見つけられない。

 

彼女は落胆の表情を浮かべながら、書斎の机の上のたくさんの本を見やった。この本の中に、また何かあるのだろうか。乱雑に置かれた様々な本を眺めているうちに、牧はある本に気がついた。机の真ん中にページの開けられた本が一冊置かれている。それは本の形状をしていたが、誰かの分厚い日記帳か何かなのだと、牧は思っていた。


その証拠に文章は途中で途切れていて、側には使い込んだ鉛筆が転がっていた。何かの用で席を立ち、日記が途中になってしまったのだろう。そしてそのまま日記を書いていたことを忘れてしまったに違いない。牧は、だいたいそんなところだろうと思っていたが、ひょっとしたら、閉じ込められている女の子の記述もあるかもしれない。彼女はそう思って、その文章を読んだ。




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