第2章 白い洋館(4)
一階の部屋はその二つの部屋で終わっていたので、牧は玄関ホールへと引き返した。さっきは気がつかなかったのだが、玄関ホールの側にも、もう一つ部屋があった。牧はその部屋ものぞいてみたが、そこは応接間のようで、銀色のシャンデリアに白亜の暖炉、ビロード地のソファと大理石のテーブルが置いてあった。マリの姿はそこにもなかった。見ていないところは、あとは二階の部屋のみだった。マリが階段を上って行くことは、あまり考えられなかったが、牧は一応見て回ることにした。
応接間を出ると、何かの視線を感じるような気がして、牧は後ろを振り返った。すると背の高い振り子時計の姿が目に入った。時計の文字盤は四時十分を指している。もうそんな時間なのかと牧は思ったが、よくよく見ると振り子時計は動いてはいなかった。アンティークのつもりなのかな。そうでなかったら、正確に表示されていない時計なんてなんの意味があるのだろう。牧はそんなことを思いながら、振り子時計の側を離れ、二階へ上がる階段を上って行った。
階段を上りきると、廊下が一本続いている。廊下の左右には向かい合った部屋が一続き続いていた。その廊下の一番奥には向き合っている部屋とは別の構造の部屋があるらしく、その部屋だけはドアが開け放たれていた。牧は先にその部屋から見ることにした。
部屋に一歩入ってみて、彼女は心底驚いた。そこはいわゆる書斎と言われるべき部屋かもしれないが、牧から言わせれば、まるで図書館のようだった。高い天井に届くほどの大きな本棚が、壁のぐるりを取り囲み、たくさんの本が整然と並んでいた。棚の中の本を見てみると、日本の本だけでなくどこの国の本か、さっぱり分からない本が所狭しと置かれていた。窓の側にはここの部屋の主が座る椅子と机が置いてある。机は横に長い大きなものだったが、その上には山積みになった本が乱雑に重なっていた。そのうちの何冊かが床に落ちていた。
じゃあ、さっきの物音はこの音だったのだろうか。牧は本を拾い上げると、机の上にのっけてみた。その中の一冊は洋書で、茶色の本の扉が古そうな印象を与えていた。金色の文字のタイトルを見ても、何語で書いてあるのか、牧にはちっとも見当がつかなかったが、本のページが金色に塗られているのを見て、何か変わった本なのかもしれないと思った。それで彼女はなんとなくその本を開いてみた。
牧は一瞬顔色を変えた。本の扉を開けた先には、くり抜かれたページと、そのくり抜かれた部分に銅の鍵が入れてあった。それは本のように見せかけた鍵の隠し場所だったのだ。牧はびっくりするのと同時に、嬉しさが心の底から湧きあがってきた。
「まるで『秘密の花園』のメアリーみたい。きっとこの鍵は秘密を守っている重要な鍵なのね。でもいったい何の鍵なのかな」
彼女は首をかしげながら、その鍵を日の光にさらしてみた。銅の鍵なので、光を受けて輝くはずはないのだが、牧の中ではまばゆく輝いていた。そして、ふと気がついた。
「鍵……。宝箱」
青の部屋で見つけた宝箱が頭の中をよぎると、牧はすぐさま鍵を持って階下の青の部屋へと駆け込んだ。彼女はベッドの下の宝箱を引っ張り出すと、鍵を鍵穴へとあてがった。鍵はすんなりと鍵穴に入ったので、牧は思い切って鍵を回してみた。
「カチャリ」
鍵の回った音が聞こえると、牧は思わずつばを呑み込んだ。緊張した面持ちで宝箱を開ける。中にはいったい何が。いろんな期待感を込めて箱を開けた牧だったが、実際の箱の中身を見ると、とてもがっかりしてしまった。中に入っていたのは、金銀財宝ではなく、白い紙きれと羽根ペンが一本だけだった。
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