第25話古代種というもの
「ぐはははは! よくきたな! まってたぞ!」
族長の家に入ると、これまた大きな鉄紺色の肌をしたトカゲが居た。
その厚く逞しい身体には無数の傷があり、太いしっぽがうねうねと波打ち、身長は2.5メートルくらいはありそうで、一見するとこいつが強力な魔物なんじゃないかと勘違いするようなモンスターが居た。
「水トカゲの族長のガリュスさんですね。こちらが今回の依頼を受けてくれたフェアリーハピネスのみなさん――」
「うはははは! わたしたちが来たからにはもうあんしーん! エンシャントスライムなんかパッパと倒しちゃうよー!」
ミリアさんの紹介を遮ってズカズカと進んでいったシルチーは、驚いて目を見開いているガリュスの前に立ちはだかりブイサインをした。
「ぐぁっ!? なんだこのちっこいのは? それにたった三人だと? お前らバカにしてんのかー!」
ガリュスは面食らった顔から一変して険しいしかめっ面になり、今にもシルチーを食べようかという勢いで叫んだ。
「ばかにしてんのはお前だー! わたしたちを誰だと思っているー! マコウリュウを倒したこともある次世代の英雄だぞー!」
シルチーはガリュスより更に大きな声で啖呵を切る。
その勢いに圧倒されたのか、その大きなトカゲは一瞬たじろいだ。
「ぐっあっ? マコウリュウを倒しただと? ……それは本当か?」
ガリュスは困惑した表情でギルド職員であるミリアさんを見た。
「え、えぇ、幼体と思われるマコウリュウですが、そちらのサトシさんが一人で倒しています。ギルドとして確認もしていますので間違いありません」
「分かったかこのやろー! そのわたしたちが来てやったんだ! さっさとエンシャントスライムの所まで案内しろー!」
シルチーのこの何者にも物怖じしない態度と根拠の無い自信には、もはや呆れを通り越して尊敬の念すら浮かんでくる。
「ぐっ。わ、分かった。こっちだついて来い!」
ガリュスはそう言うと、外に出て周りのトカゲ達に命令し、他に屈強なトカゲを4人ほど集めて湖の淵を北側に進んだ。
この湖はかなり大きいようだが、全体を薄い霧に包まれており対岸などは見えない。手前の方は透明で綺麗な水のように見えるが、奥の方は濃い青になっておりなにか不気味な雰囲気を醸し出していた。
「このイヌンダションの湖が魔境と呼ばれる
ミリアさんが観光ガイドのように説明をしてくれる。
「伝説じゃねぇ。湖の
ガリュスが言うには、水トカゲ族にとってそれは大切なもので、一族の安寧と湖からの恵みを享け賜る守り神なんだということだった。
地龍ってのはよく分からないが、俺はでっかい亀の姿を思い浮かべていた。
暫く進んでいると大きくひらけた海岸線に出た。
霧が覆っているので分かりにくいが、広い海岸には黒くて大きな岩がちらほら見える。
「あそこだ。あの黒いのがエンシャントスライムだ!」
大きな岩だとおもったのがどうやらエンシャントスライムだったみたいだ。
「でっかー! なにあれー! いち、にい、さん……」
それは直径20メートルくらいはある巨大なスライムで、海岸線をのそのそと這いずり回っている。
「全部で9匹居ますね。サトシさんどうしましょう。広範囲に散らばっているので一気に殲滅するのは難しいですね」
プルティアが困った顔をして問い掛けてくる。
「う~ん。そうだなぁ。一箇所に集められたら一気に倒せるんだけどなぁ。一匹ずつ攻撃していったら残ったスライムが酸の霧を発生させてきそうだしなぁ」
それに今の俺の魔力量ではあの魔法を9回も打てない。どうしたものか……。
「わたしが集めるよ! 良い案がある!」
シルチーはそう言うと何やらカバンの中から50センチくらいのキャリオンリザードを出した。
「それは? ソーリーのエサか?」
「そう! スライムは生物の死体とかが好物だから、これを使っておびき寄せて一箇所にまとめるの!」
「で、でも危ないですよ!? 一応私の魔法で酸の霧は軽減できますが、完全には防げません。それにもし見つかって飲み込まれたりでもしたら、一瞬で溶かされてしまいますよ!?」
プルティアの言うとおりだ、いくらシルチーが隠れるのが上手いと言ったってリスクが大きい。
「だいじょうぶだって! わたしの魔法を見破れるのはサトシくらいしか居ないよ! サトシの準備が整ったら決行しよう!」
心配する俺達をよそにシルチーはヤル気満々といった表情だ。
「まぁリーダーがこう言うんだ。俺達が心配したところで譲らないだろう。でも、本当に危なくなったら無理せず逃げることを優先しろよ?」
「うん! 分かった!」
そうして俺達は戦闘準備を開始した。
俺は海岸線の遥か上空に魔力を集中させる。
「
更に上空に召喚したエネルギー集束装置に太陽エネルギーを集める。
「あと5分くらいすれば打てる。シルチー集めてくれ」
「おっけー!」
プルティアがシルチーに
「うがっ!? ちっこいのが消えたぞ!」
水トカゲ達が驚いて辺りを見回している。
暫くすると向こうの海岸に次から次へとキャリオンリザードの死体が出現しだした。
エンシャントスライムはそのエサに気付いてのそのそと集まってくる。
「……8、9匹。サトシさん全部集まったようです」
プルティアがそう言った瞬間、エンシャントスライム達は突然合体して超巨大スライムに変形しだした。
「合体!? あぁ! シルチィちゃんが!」
「ぐぁ!? ちっこいのがあんなとこに!?」
合体したスライムに驚いたのかシルチーがその真横に姿を現してしまった。
「ぃやあ! 危ない! 逃げてっ!」
プルティアが息を呑むように叫び声をあげる。
シルチーは砂浜に足を取られて思うように動けないようでモタモタしている。それに気付いたエンシャントスライムが触手のような黒い腕を伸ばしてきて飲み込もうとした。
「あ、あいつ!
「ぐぅあ! つかまれ! ぐぎぎぎ!」
俺がシルチーの足元にワームホールを作ろうと魔法を唱えようとした瞬間、ガリュスが間一髪シルチーを抱えて触手から身を挺して守り、こちらに向かって走りこんできた。
「もうだいじょうぶだ! やれぇ!」
ガリュスとシルチーが駆け込んできたのを確認し俺は溜めていた魔力を解放する。
「
ごそッと魔力が抜けていくのを感じた。
続けて
一瞬、大気が震えたかと思うと、天空から極大の火柱が降ってきた。
「ぐがっ!? な、なんだこれは!」
「えええ! サ、サトシさん!? これは一体!?」
物凄い轟音と共に灼熱の炎が辺り一面を焼き尽くす。
水トカゲ達とミリアさんはそのあまりの光景に驚愕し、全身をがくがくぶるぶると震わせていた。
熱風が過ぎ去った後にエンシャントスライムの姿はなく、熱量によりところどころガラス化した海岸だけが残っていた。
、
「やったああ! エンシャントスライム討伐せいこーう!」
シルチーが飛び上がってそう宣言する。
「ぐっあっ。英雄と言うのは、これほどまでとは……痛っ」
ガリュスを見るとその太いしっぽが根元から溶けてなくなっている。
どうやらシルチーを助けるときにエンシャントスライムに持っていかれたようだ。
俺が治そうと右手をかざすと、シルチーがそれを遮るように前に出てきて呪文を唱えた。
ガリュスのしっぽの根元に光の粒子が集まっていく。
「
パァッと光のカーテンが舞い降りてきてガリュスの逞しいしっぽが元通りに治った。
「ぐぁ!? しっぽが治った……?」
「おっちゃん……さっきはありがとう助かったよ!」
シルチーは照れくさそうにガリュスにお礼を言った。
「ぐっはは! 気にすんな! おめぇもちっこいけど根性あるじゃねぇか! 見直したぜ!」
ガリュスもシルチーを認めたようで二人で大きな声で笑い合っている。
「サ、サトシさん、これは特殊魔法なのですか? こ、これほどの魔法は初めて見ました」
ミリアさんはまだ体の震えが止まらないようだ。
「あぁ、特殊魔法だよ。上空に太陽エネルギーを集束させて発射する魔法なんだけど、まだ範囲や威力を上手く調整できなくてね。合わせて防御魔法も使わないとこっちまで被害が出ちゃうんだ」
俺は頭をかきながら苦笑いをする。
それにまだプルティアの援護が無いと最後の工程まで魔力がもたない。
「あ、あの恐ろしい衝撃を防いでいた魔法も特殊魔法なのですか!? サトシさん貴方は一体……」
驚きおののくミリアさんをよそに俺達はまた水トカゲ村に戻ってきた。
ガリュスがお礼をしたいと言って、村中の人々を集めてエンシャントスライム討伐の祝賀パーティーを開いてくれ、久しく食べていなかった魚料理や美味しいお酒などで持て成され、俺達は時間を忘れて楽しんだのであった。
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