第24話イヌンダション湖の水トカゲ族
「それで、そのアキヒトって人は本当に
「あぁパーシさんは何か知ってる? 大きな広いつばのついた帽子を被って変わった格好をしてたな」
俺達は、あれからポルタ・ゴ村に戻ってきて、眠れる森の美女亭でかつての英雄パーシさんにアキヒトとアールについて話を聞いていた。
「そういった話は聞いたことないわねぇ。実は私も実際に
「え、そうなのか。じゃあ
「いや、居ることは確かよ。例えば、隣のレムリア大陸の奥地には闇の深淵があって、一気に2~3匹出てくることもあるんだって。そういう時に
こっちの大陸の人間には馴染みの薄いものということか。
「じゃあ、闇に生きるモノがマコウリュウを作って世界の魔力濃度を調整しているという話は? 魔力が多くなると生命の形が保てなくなるとも言ってたけど?」
「う~ん。それもよく分からないのよねぇ。ただ、伝承にもあるように私達は魔力に順応した種族の子孫と言われてるでしょ? 魔力自体私達の体の中でも作り出されているし、植物や動物の中にも魔力を作り出すものはあるわ。逆に魔力が少なくなると調子が悪くなるけど、多い分には困らないわねぇ」
「あぁ確かにそれはそうだな。魔力切れは辛いけど多い分には支障はないね」
「あ! でもね。例えば、メコンの実みたいに長時間魔力にあてると変質するものもあるわね。だから実ったらすぐ採取して乾燥させ粉末にしてるのよ。そうしないと苦くなっちゃうから。もしかしたらそういった魔力に弱いものは魔力濃度が高くなると形が保てなくなるのかもしれないわね」
「なるほど。そういった生命体もあるということか」
結局のところおっさんが言ってた話を確かめることは難しいってことだな。まぁ今すぐ何かが起こるわけでもないしそこまで気にするものでもないか。
「話は終わった~? 難しい話はもういいよ~!」
こういった話には興味がないのか、シルチーは痺れを切らしてテーブルをばんばん叩き出した。
「あぁ、考えても分からないしな。今度ジルベスター爺さんに会った時にでもまた聞いてみるさ」
あの爺さんはこの国の人間じゃないと言っていたしこういう話にも詳しそうだ。
「はい! ではフェアリーハピネスのミーティングをします!」
待ってましたと言わんばかりにシルチーは自分の座っていた椅子によじ登り胸を張った。
「シルチーちゃん! 椅子の上に登っちゃダメよぅ」
そしてパーシさんに注意されすぐ降りる。
「わたしが上位魔法を使えるようになったということで、今度はチームとしての実績を積む為に高難易度の依頼を受けようと思います!」
「上位魔法って言っても一個しか使えないけど良いのか? しかもプルティアは新しい魔法すら覚えて無いぞ?」
結局、あの後すぐ戻ってきたので二人とも大した進歩はない。
「それはいいの! 依頼をこなしながら経験値を積めば大丈夫!」
「わ、私は蘇生魔法を三人で創造できたことだけでも十分価値があったと思います。人間で成功するのか分かりませんが、戦闘以外でも実績を積むことは出来ると思います」
確かに功績だけを考えるなら蘇生魔法を使えるというのはこれ以上ないくらい強力なアドバンテージになる。偉い人が死んだらすぐ蘇生させたりしてればダイヤモンド級どころではなく重宝されるだろう。しかしそういった場合様々な問題も出てくる。
「貴方達がさっきそこの花でやってくれた蘇生魔法なのだけど、確かに凄いと思うわぁ。でも、それは隠しておいたほうが良いと思うの」
ここに戻ってきてすぐシルチーが張り切って蘇生魔法をやろうと言うので、鉢植えで枯れていた花を蘇生させてパーシさんに見せていた。
「えー!? なんでー? 凄いじゃーん!」
「えぇ、確かに凄いわ。……でも凄すぎるのよ。私が知る限り、この辺りでほかに完全な蘇生魔法が使える存在は、神聖ミレイア皇国の現教皇しかいないと思うわ。教皇はその力で周辺諸国からも崇められていて絶大な支持を得ているの。でもね、わたしもダイヤモンド級冒険者だったから分かるんだけど、人間というものは強い力に惹きつけられる反面、そういった見えない力を恐れて迫害しようとする習性もあるのよ」
「あぁそれは分かる気がする。それに、なんの制約もなく死んだ人をポコポコ蘇らせるのもなんか異常な気がするしな」
「そ、そうですね。確かにおかしいですよね。か、隠しておきましょう」
「まぁ~サトシとプルティアもそう言うならしょうがないね。じゃあ、この魔法はいざっていう時にしか使わないようにしよう!」
もっと駄々をこねて「これを使って大儲けしよう!」とか言うのかと思ったら、意外とすんなり受け入れたシルチーに驚く。やはり自然の理に反するものは後ろめたいのだろうか。
その後の話で、蘇生魔法は三人とパーシさんだけの秘密にすることになった。
「やっぱりイヌンダションの湖のエンシャントスライムはまだ残ってるなー!」
「これはみんな討伐するの嫌でしょうから……」
「でも、値上がりして50金貨になってるぞ? これおいしくないか?」
俺達は次の日、レトロスの街のギルドにやってきて高難易度依頼を選んでいた。
「あのサトシの極大魔法でふっ飛ばしちゃえば楽勝だよね」
シルチーがニヤリとした顔でこちらを見る。
「まぁそのスライムがどんなものか知らないけどあれで倒せない魔物は居ないだろうな。でもどうやって倒したと証明するんだ? 一瞬で消し去ったら本当に倒したのか分からないよな。他の魔物は素材を取ってくれば証明にはなるけど、スライムみたいなものは体液をコップにでも入れて持ち帰ればいいのか?」
「あ、どうなんだろう~? でもエンシャントスライムってコップとか溶かすよね?」
「それはですね。そういった高難易度の依頼はギルド職員の方が同行することになっているんです。信用あるギルド職員の方が一緒にいれば討伐したことの証明になります」
「「へぇ~」」
俺とシルチーは同時に関心してプルティアを見る。プルティアがリーダーのほうが良いのではとも思った。
そうして俺達はイヌンダションの湖に発生したエンシャントスライムとやらの討伐依頼を受けて出発することになった。
「では、今回はわたくしミリア・ソルトワークがギルド職員としてエンシャントスライム討伐に同行いたします。どうぞ宜しくお願いします」
同行する職員はギルド初日に受付をしていたエルフのお姉さんだ。真面目そうでキリっとした面持ちの仕事が出来そうな感じの人だ。
「ミリアよろしくねー! でもわたし達フェアリーハピネスがいて良かったねー! あの依頼ずっと残ってたもんねー!」
シルチー達とも仲は良いみたいで身支度を整え一緒に馬車に乗り出発した。
「はい。あの依頼はイヌンダションの湖周辺に居住区がある水トカゲ族の人達から依頼されていたんです。なかなか依頼を受けてくれる冒険者が居なくて困ってたんで本当助かります」
やっぱりベトベトになるのが嫌だからみんな依頼を受けなかったのだろうか。
「そのエンシャントスライムってのは何でそんなにみんな嫌がるんだ? どういう魔物なの?」
前のペリュトリアの件もあるし、簡単だと高をくくって油断してはいけない。
「エンシャントスライムはですね。スライムの古代種と言われている強力なスライムです。その大きさもさることながら物理攻撃がほとんど利かず、魔法攻撃にも高い抵抗を持っています。体内にある核を破壊すれば倒せるのですが、攻撃すると周辺に強い酸の霧を発生させるので、こちらも多大な被害を受けてしまいます」
「え、そんなに強力なモンスターなのか!? ただベトベトになるだけじゃないのか!?」
「わ、私もベトベトになるのが嫌でみんな避けてるのかと思ってました……」
「普通のスライムだとそうですね。でもエンシャントスライムは全くの別物ですよ。普通ならプラチナ以上の冒険者チームが数組で挑むような相手です」
「「え!?」」
俺とプルティアは顔を見合わせる。
俺のエネルギーシールドは全方位を隙間無くカバーするものではないし、毒ガスの類いである霧状の酸は防げないのでこれはまずい。
「ちょ、ちょっと待った! そんな難しい依頼なのに俺達三人だけで受けて大丈夫だったのか!? それに50金貨ってそれだとちょっと安くない?」
「そ、そうですね。わたくしも少し不安だったのですが、シルチーナさんが『大丈夫だ任せとけ!』と言うもので……」
「だいじょうぶだいじょうぶ! サトシが一瞬で倒してくれるよ! あはははは!」
この楽観的で他人任せなリーダーは……。
「で、でも報酬は1体につき50金貨ですから!」
「何匹も居るのかよ!」
そうして俺達は不安に駆られながらも馬車に揺られ、水トカゲ族の集落の一つであるという村に着いた。
「ここが湖周辺の水トカゲ族をまとめている族長の村です」
そこは草木で作られた簡単な家が立ち並ぶ原始的な雰囲気の村だった。
水トカゲ族というのは、その名の通りツルンとした水色の肌のトカゲが二足歩行で歩いていて、サイズは人間よりも少し大きい。そのくりくりとした丸い瞳はなにか愛嬌を感じ、口には小さいがするどい牙がぎっしり生えている。
俺達が馬車から降りると、人間が珍しいのか小さいトカゲの子たちが集まってきて舌をぺろぺろだして遠巻きに見ている。
「先ほど連絡をしたギルド職員のミリア・ソルトワークです! 族長さんはいらっしゃいますでしょうか?」
ミリアさんが近くにいた大人のトカゲに声をかけると、そのトカゲは村の中の一際大きな家に案内してくれた。
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