第23話正義の味方

 

 蘇生魔法を成功させた俺達はその場で喜びはしゃいでいた。


「やったな! これは小さい芽だけど大成功だ!」

「やったああああ! 伝説の魔法だー! うははははは!」

「す、す、凄いです! さ、三人の力の結晶ですね!」 


 まだ完全な巨木を復活させることは出来なかったが、その小さな命の復活はこれからの魔法技術の明るい未来を感じさせるには十分な成果だった。


「ふぅ。しかしちょっと疲れたな。そろそろ昼だし一旦村に戻るか?」


 俺は魔力を使いすぎたからなのか大分お腹も減っていた。


「あ! わたし、お弁当を作ってきたんです」


 プルティアはそう言うと自分の魔法カバンからバスケットを取り出した。


「お! そりゃいいな! なんか無性に腹が減ってるんだよな~」

「あー! おいしそー! 食べよう食べよう!」


 そう言って俺達は祭壇まで行き、布のシートを引いてプルティアの用意したサンドイッチを食べることにした。


「美味いなこれ! あ、こらシルチー! そんなに欲張って取るなよ!」

「あははは! これぜんぶわたしのー!」 


 シルチーはバスケットから自分の好みのサンドイッチを選んで次から次へと確保していく。

 こいつはこの小さい体の一体どこに入るのかと思うくらいよく食べる。


「あ、飲み物もあるので良かったらどうぞ」


 プルティアはそう言って、カバンからコップを取り出して配り、同じく取り出した水筒の様なものからお茶を注いでくれる。


「お、このお茶も美味いな! ちょっと酸味があるけど好きな味だ。なんて言うんだコレ?」


 プルティアが用意してくれたお茶は梅昆布茶のような風味で、疲れた体にすうっと浸透していくような心地よさを感じた。


「これは私が調合したのですけど、基本的にはメタリジャのお茶なんです」

「え!? これメタリジャのお茶なの? わたし苦手なんだけどこれは平気だな~」


 シルチーもびっくりしたようで味を確かめながら飲んでいる。

 このサンドイッチにも薬草が使われているのか、食べるごとに魔力が回復していく気がする。魔法の練習をするということでプルティアが考えてそういう食事を用意してきたのかもしれない。

 ふと見ると、いつのまにかシルチーの隣にウサギのような小動物が居て、シルチーが欲張って取り置きしていたサンドイッチを齧っていた。


「お、おい。シルチー? なんか変なのが居るぞ……」


 俺がその白い毛むくじゃらを指差すとどこからともなく声がする。


「おめぇら、なにもんだぁ? あの焼け跡は一体どういうこったぁ?」


 驚いてその声がするほうを振り向くと、大きな広いつばの帽子を被って変な格好をしたおっさんが木の上からこちらを見ている。


「なっ!? いつのまに!? 周辺探索装置アラウンドサーチシステムにも反応しなかったぞ!?」


 俺は即座に戦闘態勢を取ろうと立ち上がる。


「がっはっは! 見たところおめぇらは人間だな? おらぁ敵じゃねぇよ! まぁ落ち着けや」


 男はそう言うと、木から飛び降りこちらまで歩いてきてシルチーの隣に座り込んだ。

 すると小さなウサギのようなモノもその男の膝の上にチョコンと座る。

 思い出した。大昔に居たカウボーイとかいうやつの格好だこれ。


「お! うまそうなもん食ってんじゃねぇか! おれにも少しくれよぉ」

「なんだお前はー! これはわたしのだからダメー!」


 シルチーは自分のサンドイッチを渡すものかと後ろの方に隠している。


「あ、よ、良かったらどうぞ。まだ沢山ありますので」


 プルティアはそう言って魔法カバンからもう一つバスケットを取り出した。

 一体何個作ってきてるんだろう……。


「おお! 悪いなねぇちゃん、ありがとよ!」


 その男はプルティアが出したバスケットからサンドイッチを取り出して小さなウサギに一つあげ、自分もムシャムシャと食べだした。


「お、おい。おっさんこそ何者だ? 気配すら感じなかったぞ?」

「がっはっは! おれの気配を感じ取ることの出来るやつなんていねぇよ! でもお前さんはちょっと特殊だな……人間か?」


 その男は俺の顔を――瞳を――ジッと覗き込んだ。


「ほう。珍しいな。黒い目か。しかも見たことも無い魔力の色だ」

「お、おい。質問に答えろよ。おっさんは何者なんだ?」

「がっはっは! あぁ悪い悪い! おらぁアキヒトって言うんだがな。なんつーの? 正義の味方だ! がっはっは!」

「はぁ? 正義の味方? なんだそれ? それにアキヒトって名前は……」


 俺が訝しんでいると、シルチーの目がキラキラと輝いている。


「おっちゃん正義の味方なの?! わたしもね、正義の味方になるんだ!」

「がっはっは! そうかそうか! 嬢ちゃんも正義の味方になるのかー! って、嬢ちゃんは人間じゃねぇな? なんだぁ? 見たこと無い種族だな?」 

「いやシルチー騙されるなよ。見るからにこのおっさん怪しいだろ。そもそも正義の味方って何なんだよ」

「否。我々ハ裁定者」

「うおっ! なんだ? こいつしゃべったぞ!?」


 おっさんの膝でサンドイッチを食べていたウサギがしゃべった。


「がっはっは! こいつはアールって言うんだがな。俺の相棒ってとこだ! まぁおめぇらに分かるように言うと幻獣ってヤツだな」

「きゃ! かわいい! わ、私も抱いていいですか?」

「おぉ、いいぜ! でも大丈夫かな? ……お、ねぇちゃん大したもんだな。アールが嫌がらないってのは珍しいんだぜ? あれ……? ねぇちゃんは……まさかな」


 プルティアもこの怪しいおっさんのペットに食いついてしまい、そのアールとかいう幻獣を抱きかかえて嬉しそうに撫でている。


「しかし、あの焼け跡はなんなんだぁ? もの凄いエネルギーを感知したからよぅ。おらぁてっきり流離う者ヴァガボンドでも出現したのかと思って慌てて飛んできたってぇのによ」


 流離う者ヴァガボンドだと? 


「あれは俺の魔法の実験で思いもよらずあぁなっちゃったんだよ。それよりその流離う者ヴァガボンドってのは一体何なんだ? 聞いた所によるとマコウリュウみたいな深淵の厄災を浄化するゴーレムらしいが、それを感知して飛んでくるってのはどういうことだ?」


 また流離う者ヴァガボンドだ。白ヒゲ爺さんも俺の力がそれに似ていると言っていたがどういうことなんだ。しかもこの男はエネルギーを感知したと言った。魔力感知ってやつか?


「おめぇの魔法なのあれ!? そりゃたまげたな! 人間であれほどの破壊力を出せるのは珍しいぜ!」


 おっさんはそう言うと、またサンドイッチをほうばった。


「それで流離う者ヴァガボンドってのはだな。ん~おめぇらに言って分かるかなぁ。おめぇら人間は守護者的なもんだと思ってるみてぇだが本来は違う。アレは魔力を大量に消費するモノのところに送られてくる怪物なんだ。だから出現する条件はマコウリュウのところだけという訳じゃねぇ。でもまぁこっちじゃ大量に魔力を消費するってのはマコウリュウくらいしか居ねぇからそれを倒す流離う者ヴァガボンドを守り神みたいに思っちまうのはしょうがねぇかもな」

「どういうことだ? 魔力を大量に消費したら駄目なのか? それでなんで流離う者ヴァガボンドが出てくるんだ?」

「う~ん。それを説明するのも難しいんだよなぁ。簡単に言うと……この世界にゃ魔力が充満しているだろ? それが増えすぎると生命体は今の形を保てなくなるんだよ。しかし、もっと魔力を充満させたい奴らも居る。そういう奴らが流離う者ヴァガボンドを送ってきているんだよ」


 魔力が多くなると生命が保てなくなる……?


「そ、それでは、マコウリュウは良いモノなのですか!? でも人々も襲いますよね? 」


 プルティアも色々疑問に思ったようだ。


「あぁ、あいつらの本来の目的はこの世界の魔力量を調整するためにいるんだけどな。闇に生きるモノってのは知ってるか? そいつらが作ってたまに地上に送り出してんだ。でも、良いモノってわけでもねぇ。あれには知能ってものがほとんどねぇから魔力をある程度吸収したあとは力尽きるまで暴れまわる。無責任な奴らだよな。がっはっは!」


 闇に生きるモノが、この世界の生命体の為に魔力量の調整をしているということか?

 じゃあこのおっさんの目的は何なんだ。闇に生きるモノとは違うようだし……。


「じゃあ、おっちゃんは何で正義の味方なの~?」


 シルチーはこの話を理解しているのか分からんが、良いタイミングで聞いた。


「それはな。おれが流離う者ヴァガボンドを滅ぼす者だからよ! がっはっは」

「マコウリュウを倒す流離う者ヴァガボンドを滅ぼす者なの!? おっちゃんめちゃくちゃ凄いね!」

「がっはっは! まぁなんつーか、おらぁ対流離う者ヴァガボンド用の最終兵器ってやつだな!」

「我々ハ、使命ヲ担ッテイル」

「おぉ、びっくりした。こいつ急にしゃべるな」


 プルティアが抱きかかえていたウサギもどきが何やらソワソワしている。


「アキヒト。座標5986・4523ニ高エネルギー反応アリ」

「お! 今度こそ当たりかなぁ! よし行くか!」


 そう言うと、おっさんとアールは俺達から少し離れて立った。


「じゃあな! おかしな人間と不思議な少女よ! それとエルフのねぇちゃん! おめぇらにはまたどっかで会いそうな気がするぜぇ!」


 するとおっさんとアールは一瞬ボヤけたかと思うとホログラフが消えるようにスウっと居なくなった。


「なに!? 消えた!? まるで転送移動じゃないか!」


 これもまた特殊魔法なのか? しかし今のは転送装置の挙動にそっくりだ。装置もないのにどうやって……まさか転写転送!? あの技術はまだ未完成だったが……この世界にそんな高度な技術が?


「サ、サトシさん。アキヒトさんが言っていたことは本当なのでしょうか? わ、私、頭がこんがらがっちゃって……」


 プルティアも未知の情報に混乱しているようだ。


「あぁ、本当かどうかは分からないが、只者じゃないことだけは確かだ。俺達のことを『おめぇら人間は』と呼んでいたところをみると、あのおっさんはそうじゃないナニカだということが窺える。なによりあのおっさんは強い。そんな奴が言う、世界の魔力の調整や流離う者ヴァガボンドの目的などがただの狂言とは思えない」


 長年の戦闘経験から、あれほどの相手を見るのは初めてだ。その能力はおろか力量すら計り知れない。


「シルチーはどう思ったんだ? あのおっさんは何なんだ?」


 森羅万象からの知識を受け継いでいるという妖精さんに聞いてみる。


「ん~。なんだろね? 分かんないや。嘘は言ってないと思う。でもわたしのこと不思議な少女って言った。わたしは妖精なのにぃ!」

「気になるのはそこかよ! ……って、そういえばプルティアはエルフなのか? おっさんが最後そんなこと言ってたよな?」

「え、あ、はい。おばあちゃんがハーフエルフなので私にもその血は流れていると思います。でもアキヒトさんは良く分かりましたね?」

「そうだったのか。確かになんで分かったんだろうな。それに俺のことは『おかしな人間』って言ったしな。シルチーだけ種族不明で『不思議な少女』だもんな」

「でも、あのおっちゃんは悪い人じゃないよ。それだけは分かる」


 その不思議な少女は自信たっぷりと言った顔で拳を握りグッと親指を立てた。

 こいつは正義の味方に憧れてるだけだな……。


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