3章 動き出す闇

第22話三人寄ればなんとやら


「じゃあまず、シルチーの治癒魔法から練習してみよう。生体が損傷した場合の回復過程はさっき話したとおりだが理解したか?」


 俺達は魔法の練習をするためにシルチーとプルティアと三人で原初の祭壇にきていた。

 自然治癒力による修復プロセスを説明したのだがシルチーはまだ良く分かっていないような顔をしている。


「えぇと、生き物の身体はサイボウとかいう小さいモノが集まって出来てるんだっけ? それを結び治す? 何言ってるのかさっぱりだよ~」


 シルチーはこれでもかっていうくらい眉毛をへの字にして、今まで見たこともない面白い顔になって首をひねっている。


「まぁそうなるだろうな。でも大丈夫だ。俺の予想だと、魔法ってのは多少解釈の違いがあっても、術者の想いや魔力の強さで想定以上の効力を発する場合があるとみた。と言うのは、この魔法の本に書いてあることは実際の自然科学とはかけ離れている場合が多い。それでも発動するというのであれば、もっと簡単で大雑把な理解力でも問題ないということだ」


 俺はカミラばあさんから借りてきた基礎魔法の本をざっと読んでその内容の陳腐さに驚いていた。この程度で魔法が使えるのなら、ある程度仕組みを理解してそれに伴う魔力があれば上位の魔法だろうがすぐ使えるだろう。


「じゃあシルチー、まずこの折れた枝を治してみるぞ。今までの簡易治癒魔法ケアリーだとこれは治せなかったんだよな?」

「うん。少し傷ついてるくらいなら治せるけど完全に折れてるのは上位の全快治癒魔法テラヒーリングじゃないと無理かな」

「よし。じゃあこの枝の折れた切断面を見ろ。細かい繊維がちぎれてモシャモシャしてるだろ?」

「うん」

「大雑把に言うとな。この細かい繊維がそれぞれ生きていて、そいつらが繋いでいた手を離しているからこの枝は折れて離れてるんだよ。分かるか?」


 シルチーは何を言ってるんだという顔でこっちを見る。


「本当は目に見えないほどもっと小さい単位でそれぞれ生きてるんだがな。それはおいといて、このモシャモシャの繊維が手を離してると思えばいい。そいつらに『手を繋いでくれー』って念じながら魔法を唱えてみろ」


 俺はそう言って折れた小枝を二本シルチーに手渡した。


「う~ん。よく分からないけどそういうことならやってみる」


 シルチーはそれぞれ小枝を両手に持って切断面をくっつけながら目を瞑って魔力を集中させる。

 俺とプルティアは黙ってその様子を見守っていた。

 暫くすると、その小枝の切断面に周囲から光の粒子が吸い込まれるように集まってきて光り輝いてきた。


全快治癒魔法テラヒーリング!!」


 集まっていた光がパァっと散り、天使が舞い降りてきたかのような光のカーテンがキラキラと降り注ぐ。


「わぁ! くっついた! 見て見て! 凄い! くっついたよ!」


 シルチーは元通りにくっついた小枝を振り回しながら小躍りする。


「ははっ、本当にそれで治るとはな。俺もびっくりだ」

「シ、シルチィちゃん凄いです! 全快治癒魔法テラヒーリングなんて偉い賢者様しか使えないというのに!」

「いやったぁぁあ! いぇーい! うはははは!」


 まさか、あんなことわりで上位魔法が使えちゃうなんて……。


「サトシ! サトシ! 次はもっと大きい木でやってみたい! ちょっとあの木を吹き飛ばしてみてよ!」


 シルチーが指差した木は直径30メートルはあろうかという大木だ。まぁポルタのジャングルでは普通のサイズではある。


「あんな大きな木を!? 吹き飛ばすってことは、折れたものをくっつけるのとはまた違って再生させないと駄目なんだぞ?」

「うん! いいの! 早く早く!」

「えぇぇ! あんなに大きな木を吹き飛ばすのですか!?」


 シルチーは気軽に言っているが、高さが300メートルもある木を吹き飛ばすのはそう容易ではない。

 俺は少し考えて今まで使ったことの無い魔法を試してみることにした。


 それは戦略兵器と呼ばれ、かつて数々の都市を破壊したことがある軍事衛星からの熱放射攻撃である。宇宙空間に浮かぶ軍事衛星へ太陽エネルギーを集め、地上に向けて放出するという兵器であったが、太陽フレアのミニチュア版のようなもので絶大な破壊力を誇っていた。しかし一つだけ欠点があり、使うとその凄まじいエネルギーに衛星が耐えられず一度で壊れてしまうというものだった。


「そうだな。ちょっと新しい魔法を試してみたいから、シルチーとプルティアは祠の入り口辺りまで避難してくれないか?」


 俺は、二人を後ろに非難をさせ、魔法発動の準備をする。


「え、そ、そんなに凄い魔法なのですか! だ、大丈夫ですか!?」

「平気平気! どんな魔法なんだろー! ちょっと楽しみー!」


 シルチーは、不安にうろたえるプルティアの手を引いて、はしゃぎながら祠の方に歩いていった。

 

 まず軍事衛星の役割を担う魔法だな……。

 俺は目を瞑って、おおよそ高度200キロメートルくらいの場所にエネルギー集束装置を想い浮かべる。


軌道衛星兵器サテライトウェポン!!」


 よし。目には見えないが、魔力が抜けていく感覚的に成功している感じがする。

 後ろの方で、シルチーが「何にも起きないねぇ」とか言ってるが無視だ。

 そして装置に太陽エネルギーを集める。……これはちょっと難しいな。

 俺は、10分くらいかかって太陽エネルギーを遥か上空に溜め込んだ。


 う~ん。これで良いと思うんだけどなぁ。見えないからよく分からないが、それでも結構な量の魔力が吸い取られていっているので準備はできているはずだ。

 俺は念のために少し遠くの方に照準を合わせ呪文を唱えた。


太陽光超集束波ブレイジングノヴァ!!」


 発動した瞬間、フワッと物凄い量の魔力が放出されたのを感じた。


「あ! これはやばっ――! 次元波動防御壁セレスティアフィールド!!」


 俺は即座に二人の下に飛び込みエネルギーシールドを展開する。

 魔力を使いすぎたのか膝がガクっと落ちる。


神聖天慶魔法ホーリーグレイス!!」


 プルティアが察してすぐに魔力を補充してくれる。


 その瞬間――。


 天空から極大の灼熱の火柱が降りてきて、轟音と共に辺り一面を一瞬で焼き尽くした。

 その圧倒的な熱量は、直径100メートルほどにあったモノ全てを蒸発させた。


「あががががが! サ、サトシ……!?」

「え、え、え? これは……? えぇぇぇぇ!?」


 そこにあったモノは跡形も無く消え去り、残った地面だけが黒コゲになり蒸気を立ち昇らせていた。


「う……あ……想像以上の威力だったな……」


 俺達三人はそのあまりの惨状に驚き、暫くその場で立ち尽くしていた。


「うっひゃあああ! なんなのこれー! あっつ! あっつーい!」


 シルチーがその黒こげの地面に走り寄って行きはしゃいでいる。

 太陽光超集束波ブレイジングノヴァの衝撃に耐える為に発動したエネルギーシールドが、思ったよりも魔力を消耗していたことで俺はフラつき倒れそうになる。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫ですか? サトシさん? 神聖天慶魔法ホーリーグレイス!!」


 すかさずプルティアが補充してくれる。


「あ、あぁ、ありがとう。助かる……。これはプルティアが一緒じゃないとまだ使えない魔法だな……」


 俺は、その場にへたり込み呟いた。


「え? あ、そ、そうですね! わ、私はいつも一緒に居るので大丈夫ですよ!」


 プルティアが何故か一生懸命存在をアピールする。


全快治癒魔法テラヒーリング!!」


 シルチーは黒コゲの地面に向かって呪文を唱えていた。


全快治癒魔法テラヒーリング!!」


 何も起きない。


「あれぇ? おかしいなぁ? 治らないよ~?」


 シルチーは腕を組んで首をかしげている。


「これは治すというより再生……蘇生に近いのではありませんか?」


 プルティアも近くに行き地面を触って確かめている。


「蘇生かぁ! それはわたしには無理だ! 伝説の魔法だもん」

「そうですねぇ。物理的な再生と魂の復活を同時に行うわけですから相当難しいですよね。光の属性だけでは出来ないと思います」


 二人はウンウン唸りながら考え込んでいた。

 俺も近くに行って地面を見てみる。


「これだけの熱量が当てられた地面なら地下の根も焼き尽くされてもう再生はできないだろうなぁ……」


 改めて地面を見ると我ながらその恐ろしい威力に驚きを隠せない。


「そういや、プルティアの神聖魔法ってので魂を呼び戻せたりできないのか?」


 俺はふと疑問に思い聞いてみる。


「え、えと、理論的には出来ると思います。私は、魂というのはその者が纏っている魔力の根底のことだと思っています」

「魔力の根底?」

「はい。胸の奥にある熱いモヤみたいなものですね」

「あぁ! これか! うん。確かに根底って感じだな」

「それを掻き集めて戻せば蘇生になるのではないかと思うんです」

「なるほど……。確かにスジが通ってるな……」


 プルティアは感覚派のシルチーと違って分析力も高く頭が良い。


「ただ、その魔力の根底を選別して集めるということが難しいのです」

「なるほどな~。適当に魔力を集めるだけでは駄目ってことか~」


 例え魔力を集めたとしても肉体がなければ蘇生もできないだろうしな。

 ん……。

 待てよ……。


特殊戦闘強化服バトルスーツで遺伝子情報を読み取って人工的に細胞と魔力の根底の欠片を造り、それを治癒魔法で再生させて、神聖魔法でその根底と同じ魔力を周辺から集めれば……。どうだ? 出来そうじゃないか?」


 俺が過去に軍の研究所で行っていた実験では、未知のエネルギー=魔力が遺伝子情報の中に含まれていたのは確認されている。


「え? なになに? どういうこと~?」 


 シルチーに説明するのは難しいな。


「サトシさんが種を作って、シルチィちゃんがそれを育てて、私が命を吹き込むってことだと思ったのですが、どうですか?」

「おぉ! 流石プルティアだ! そんな感じだ!」

「そういうことね! じゃあわたしは大きなぁれ~ってやればいいのね?」


 シルチーが不安だがやってみる価値はあるな。


「よし。じゃあ俺がちょっと種を作ってみるから、出来上がったらすぐ治癒魔法な! そのあとはプルティア頼む!」

「分かった!」

「は、はい!」


 黒コゲの残りカスの中からそこにあった木々の遺伝子情報を読み取って、その欠片を形成させる為の装置を魔法で作る。

  

三次元造形装置3Dプリンター!!」


 ナノレーザーが出現しその遺伝子情報を元に残りカスを集めて小さな木の屑のようなものを地面の上に形成する。


全快治癒魔法テラヒーリング!!」


 すかさずシルチーが魔法を唱え、周辺から光の粒子が集まってきて、その俺が作った木屑から強い光が発せられた。


神聖天慶魔法ホーリーグレイス!!」


 プルティアが魔法を唱えた瞬間、ポンっという音と共に小さな芽のようなものが地面に発芽した。


「「おぉ!?」」


 よく見ないと分からないが、小さな小さな芽が黒コゲだった大地に芽吹いている。


「や、やったな……? これは成功だよな……?」

「う、うん? どうなんだろ? わたし分かんない……」


 俺とシルチーは同時にプルティアの方を見た。


「こ、これは……! 成功です! 魔力の根底が復活しています! 蘇生されました!」


 プルティアはうっすらと涙を浮かべそう宣言した。


「「うぉぉぉぉ! やったぁぁぁ!」」


 俺たち三人は飛び上がり抱き合ってその偉業を称えあった。



***



全快治癒魔法テラヒーリング(魔法)

・光属性の上位治癒魔法。切断された手足でも元通りにすることができ、重い病気なども完治させることができる。


軌道衛星兵器サテライトウェポン(魔法)

・未来の軍事衛星に装備されている太陽エネルギー集束装置を再現した魔法。膨大なエネルギーを溜めることができるが一度使っただけで消失してしまう。


太陽光超集束波ブレイジングノヴァ(魔法)

・未来の戦略兵器を再現した魔法。本来であれば半径100キロメートルを一瞬で吹き飛ばす威力だが、サトシの現在の魔力量では直径100メートルほどを焼き尽くすエネルギーが限界である。この魔法の本質は、その攻撃自体は太陽エネルギーによるものなので、魔力を吸収するような魔物にも効果的だということ。


三次元造形装置3Dプリンター(魔法)

・3Dデータを元に立体製品を造形する機器を再現した魔法。任意の材料を用意する必要がある。


■未知の蘇生魔法(魔法)

・サトシとシルチーナとプルティアの三人の魔法を合わせた蘇生魔法。遺伝子情報さえあれば生命体の復元再生をすることができる。


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