第19話お茶会
俺達は城の中ほどにある、お洒落な庭園に案内された。
そこには色彩豊かな数多くの花が溢れかえっており、綺麗に刈りそろえられた緑の木々がまたその花とのコントラストを際立たせ、素晴らしい情景を演出しているようだった。
中心には複雑な細工が施された純白のテーブルと椅子が用意されていて、俺達が着くまでに茶会の準備をしなければと慌しく使用人が行きかっている。
席に着くと茶葉のリクエストなどを聞かれたが、よく分からないのでプルティアと同じものを頼んだ。
またシルチーが悪い顔でこちらを見ていたが、さすがに何回もひっかからないと思ったのかそれについては口を出してこなかった。
そしてワゴンの上に小さな凝ったお菓子が並べられて運ばれてきた頃、筋骨隆々の老齢の大男がこれまたふっくらとした商人風の男を連れてやってきた。
「うわっはっは! 遅れてすまんな! ちょうどクリネリアの商会長と会っていたのでついでに連れて来た!」
このいかにも大将軍って感じのおっさんがアルベルト辺境伯か。体の厚みも凄いが上背は2メートル近くあるんじゃないか? 人間なのか?
「これはこれは、部外者の私なんかがお邪魔して申し訳ないです。アルベルト卿との商談で今日はたまたま城の方に来ていまして、それで偶然素晴らしいものが見れて大興奮していたところです。いやはや卓越者同士の試合というものがあれほど凄まじいものとは思いもよらず、終始開いた口が塞がらなかったですよ」
これぞ商人って感じのおっちゃんだな。クリネリア商会って王都までの護衛を募集してたところか。貴族との取引もしてるってことはかなり大きな商会なんだろうな。
全員が席に着いたところで、良い匂いのお茶とお菓子が並べられた。
シルチーが欲張って自分の前にお菓子を沢山置かさせている。
「あらためて見るとワシと初対面なのはおぬしだけだな! サトシと言ったか! いや、素晴らしい戦いであったぞ。ワシも数多くの戦場で強者達の戦いを目の当たりにしてきたが、おぬしはその中でも飛びぬけているように感じる! 一体どこでそのような力を身につけたのだ?」
俺はポルタのジャングルで目覚めたこと、それ以前は異なる世界で生きていたこと、そこでは戦う為に生まれて育てられていたことなどを順を追って話した――。
「ほう~! そんな世界などもあるのだな。不思議なものだ。ジルベスター殿はそういうことに詳しいのではないか? なにか分かりますかな?」
「そうじゃなぁ。異世界と言えば有名なのは闇の深淵じゃな。あれはこの世界にあってこの世ではないという、それこそ未知の世界じゃ。他には精霊や妖精が生きる悠久の世界。そこには時間という概念が存在しないという。あとは、女神の住む都と言われるアニマの翼じゃ。まぁどれも皆が知っているような神話のような話でしか聞かんでな」
その三つの世界は前にシルチーも話してたな。それらは
「あぁ、後一つまた違う世界もあったな。それは
「
「いやいや、ただの勘だから気にせんでいい。
ふ~む。なんだか色々あって複雑だなぁ。でもまぁどれもファンタジーなところは共通してるな。
「そういえば、シルチーナ達はなんでセルシオン殿達と一緒におるのだ? それに何故か模擬試合までしとるしなぁ!」
アルベルト辺境伯が疑問を投げかけてきたが、気になる箇所がある。
セルシオン殿? あれ? 息子とその教育係じゃないのか?
プルティアを見ると同じく不思議そうな顔をして首をかしげた。
「あれぇ? セルシーはおっちゃんの息子じゃないの~?」
シルチーが俺達の疑問を代弁して聞く。
「うわっはっは! ワシの息子はウルベルトとマルクスだぞ? お前も知っておろう? 二人とも今は王都で仕事をしとるがな」
「ホォッホ。わしらは実はここの国の人間ではないのじゃ。訳あって今はアルベルト卿のところで世話になっているがのう」
「ふ~ん。そうなんだー。おっちゃんの隠し子にしては似てないからおかしいとは思ってたんだけどねぇ」
「うわっはっは! シルチーナは面白いことを言う! うわっはっは!」
どこぞの国の貴族か王族ってところか、訳アリってのが気になるがそう簡単には教えてくれないだろうな。
シルチーはそういう話には興味はないようで、サラっと流して隣のアルベルト辺境伯のお菓子を盗んで食べていた。
「ああああ! シルチーナ貴様! それはワシが楽しみに最後に残しておいたお菓子なのにぃ! このー!」
「あははは! 早い者勝ちー! あはははは!」
アルベルト辺境伯はお返しにとシルチーの前においてあるお菓子をむんずと掴んでバクバク食べる。
「あぁー! わたしのお菓子がー! やめろー!」
シルチーはポカポカ殴って抵抗しているがその大きな体は微動だにしない。
「うわっはっは! 早いもの勝ちだ! うわっはっはっは!」
子供が二人いる……。
しかし、なにかこの二人は雰囲気が似ている。見た目は全然違うが声が大きいところも一緒だ。
そしてそのあとはセルシオンとの出会いや、模擬試合に至ったまでの説明などをし、楽しく過ごして俺達は宿屋に帰った。
そしてその夜、俺は夢を見た――。
またアキナと一緒に任務にあたっていた時のことだった。与えられた任務はどれも難しいものだったが、俺達はいつも問題なく達成させてきた。しかし、一度だけ事前の情報が足りなくて逃走経路が確保できず大勢の敵に追われたことがある。後で分かったことだったが、実際はスパイによる裏切り行為が原因で二人とも罠に嵌められたのだった。あの時は絶体絶命のピンチに陥っていたと言っても過言ではない。
俺達はキリがなく物量で攻めてくるロボット兵の対処に終われ、武器のエネルギー残量もなくなり、なんとか
相手はレーザー兵器を駆使し人海戦術で追い立ててきているのに対し、こちらはもう原始的な物理攻撃でしか対応できないので、当たり前のように俺達は追い詰められていった。
ビルの陰に逃げ込んだところで包囲され、もう終わりだと思った瞬間、アキナの
アキナは身体全体が青白くボヤけ、すさまじいエネルギーを発しながら一瞬で敵兵達を殲滅した。あとから聞いた話ではあれはプラズマ生命体というもので
敵兵を殲滅した瞬間、時間が止まったような感覚になり――いや、実際にアキナ以外は全て止まっていたように思える――稲妻のようなアキナが次から次へとロボット兵を破壊していった。
最後の敵を破壊した瞬間に大きな閃光が発せられ俺はびっくりして飛び起きた。
あぁ……夢だったか……。
全身が汗びっしょりになっている。
俺は喉が渇いたので、宿屋の外に出て中庭にある井戸まで歩いた。
周りは真夜中なので静まり返っている。……しかし、あまりにも静かだ。いつもは、野良犬のようなものの咆える声や酔っ払いの笑い声がするのだが今日に限って一切の物音がしない。
俺は不思議に思い、高い建物の上に登って街中を見渡したが、静まり返っていること以外は特に異常は感じられない。ただ動いている生物が一切見当たらなかった気がする。
まだ寝ぼけているのかもしれないな……。
気にしてもしょうがないので井戸で水を飲んでまた部屋に戻って寝た。
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