第17話お食事会
翌日、ギルドに依頼達成を報告しに行き、ペリュトリアの角を換金し500金貨を手に入れた。
受付のお姉さんもペリュトリアの角を見るのは初めてのようで目を丸くして驚いていた。ギルド内でもちょっとした騒ぎになり、ギルド長まで出てきて詳しい話を聞きたがっていたが、シルチーが絶対秘密だと息巻いて野次馬を追い返していた。
俺とプルティアは幻覚にかかっていただけなので報酬は少なくても良いと言ったのだが、シルチーがチームは平等じゃないといけないと突っぱねたので、俺とプルティアで165金貨ずつ、シルチーは170金貨という割合で配分することになった。
シルチーは普段はふざけているがこういうところはしっかりしてるんだなと少し見直したのであった。
そしてその日は休息日ということにして各々自由に過ごすこととなった。
俺が魔法カバンを買いに行こうとすると、次の日がセルシオンとの食事会ということで、俺の今の服装はよくないと言われ、女子達に捕まってフォーマルな服を買いに連れて行かれた。ああでもない、こうでもないと何時間も俺という着せ替え人形で楽しんだ二人は、その日の夕方近くになってやっと俺を解放した。それでもなんとか最後に150金貨の魔法カバンも手に入れて俺はほっと満足して宿屋に帰ったのであった。
翌日――
食事会はお昼からだというのに、朝から女子達のファッションショーが始まっている。
俺は自分の部屋で待機を命じられ、ときおりドアから色々な服を着たシルチーとプルティアが入れ替わり登場する。
それを俺は批評し――と言っても、あたりさわりのない評価しかできないが――女子達が満足いくまで付き合わされていた。
「わたしはやっぱりプルティアはその水色のドレスが似合ってると思うな~。綺麗な金色の髪の毛だし肌も真っ白だから優しい水色のドレスが映えると思う!」
「そうですか。では私はこれにしますね。シルチィちゃんはピンク色の巻き毛でそれだけでもゴージャスなので、それに負けないこの真紅のフリルに瑠璃色のアクセサリを合わせたものがいいような気がします」
「そっかー。やっぱりそっちのほうがいいかー。んじゃわたしもそっちにしよう」
お昼前になり、やっと満足したのか女子達の衣装は決まったようだ。初めから俺の意見など全く参考にしていないのは分かっている。
すると、宿屋の主人のホルスさんから「何か凄い馬車が迎えに来てるぞ」と言われ、三人で階下に下りるといつぞやの小姓ラルクが待ち構えていた。
「あ、サトシ様、そ、その節は――」
「あぁ、良いよ良いよ。迎えに来たんだろ? 行こうぜ」
俺は、ラルクがしゃべるの遮り、背中を押して急かして外の馬車に案内させた。
シルチーが「知り合いなの?」と聞いてきたが、適当に誤魔化して三人で豪華な馬車に乗り込んだ。
「うわぁ。この馬車全然揺れないね! 流石お金持ちは違うなー!」
「本当ですね? 道もそこまで悪くはないですが、それにしても静かですね」
二人は、豪華な馬車に乗るのは初めてのようで、しきりにその凝った内装や安定した走行に感動していた。
「乗る前にちょっと見たが、これは車体と車軸の間に板バネがあって、それが衝撃を吸収してるから揺れにくいんだよ。車輪をゴムチューブ製にしたり、車軸を繋げず左右の車輪で分けてそれぞれにコイルスプリングのサスペンションを付けたりすればもっと乗り心地もよくなるだろうが、こっちの技術力じゃまだ難しそうだよな」
俺が独り言のように馬車の構造を少し説明すると二人ともポカーンとした顔でこっちを見た。
「またサトシが訳分からないこと言ってる~」
「す、凄いですね、ごむちゅうぶとかさすぺんしょんとかが何なのか分かりませんが左右の車軸を分けてそれぞれに緩衝材を付けたら確かにもっと安定しますよね……」
「お、プルティは凄いな。分からないと思って専門用語でサラっと説明してたけどちゃんと要点抑えて理解してるな」
「え、い、いや、そんなことないですよ! ただ新しい知識が楽しくて、私はこういう話とかも好きです……」
プルティアはそう言ってまた顔を真っ赤にして目をそらした。どうもあの幻覚にかかってからプルティアの様子がおかしい。
そうこうしている内に馬車は城の敷地内に入って行く。
「ほへ~。でっかいお城だ~」
「シルチーは王都で勲章とか貰ったんだからこんなのは珍しくもないんだろ?」
ほうけた表情で城を見ているシルチーに俺がそう言うとニヤけた顔でくるっとこっちを向いた。
「いや~あれは凄かったよ! ここよりもっと大きい城で、そんで赤い絨毯が敷いてあって両側に色んな貴族や騎士が並んで拍手してるの。わたしなんか小さいから目立っちゃってみんな驚きと羨望の眼差しで賞賛の声をかけてくるんだ」
「へぇ~。シルバー冒険者だったくせに、よくもまぁ気後れもせずそんな大舞台に立てたもんだ」
俺がからかうとシルチーはプンスカ怒って短い手足で殴りかかってくる。それをスイスイと避けているうちに離れのお屋敷に到着した。
そこは離れの屋敷と言っても一際豪華な造りになっていて、中は銀白色の大理石が敷き詰められ、中庭には涼しげな噴水があり、誰しもが感銘を受けるであろう素晴らしい屋敷であった。
「ようこそ、この度はセルシオン様の食事会においで頂き有難うございます」
あのときの剣士カインが出迎えてくれる。
「王宮料理が食べれるって聞いたからね! しょうがなくだよ全く~」
シルチーが無礼にも悪態をつく。
カインは表情を変えることなく――いや一瞬だが俺達を蔑むような目で見たのを俺は見逃さなかった――案内する。
部屋に案内されると、そこにはセルシオンと白ヒゲの爺さんが座っており長い豪華なテーブルを挟んだ対面に俺達は座った。
カインは護衛の任務を続行するらしく入り口付近で他の衛兵と一緒に立っている。
「シ、シルチーちぁん! よ、よく来たでござる! 今日もとってもかわいいねぇ~。その瑠璃色のアクセサリーも良く似合ってるなり!」
相変わらずシルチーにメロメロなセルシオンだが、事前に注意されているのか今日は少し落ち着いてるようだ。
「うふふん。いいでしょこれ。今流行の色なんだよ! このフリルのドレスだって買ったばかりなんだ。この真紅の色が――」
「うんうん。凄く似合ってるよ~。拙者のためにドレスまで買って……本当宝石みたいな――」
シルチーは自分のオシャレを褒められて思いのほか上機嫌となってセルシオンと普通の会話をしている。まぁあまり噛み合ってないが。プルティアはどこか落ち着かない様子でオドオドと周りを見渡しているようだ。
「ホッホッホ。わしはセルシオン坊ちゃまの教育係といった所でジルベスターと言うんじゃが、そちらはサトシ君とプルティアさんと言ったかの。すまんが少し調べさせてもらった。その歳でプラチナとゴールドの冒険者だったとは驚いたわい。見かけのよらず勇ましいことじゃ」
「あ、い、いえ、こ、今回は私の様な者もこのような素晴らしいお食事会にお招き頂き本当に有難うございます! わ、私は格式の高いお付き合いと言うものをしたことがなく作法なども知らないので――」
「ホォッホォッホォ。いやいや、そんなに畏まらんでもいい。これは非公式の食事会だし無礼講じゃ。作法など気にせず好きなように楽しんで欲しいのう」
俺とプルティアも挨拶が済み、ほどなくして料理が運ばれてきた。白ヒゲ爺さんのおかげでプルティアの緊張も少し和らいだようだ。
次々と運ばれてくるその料理はどれも味わったことのない素晴らしい味わいだった。
「それでね。それでね。ペリュトリアは岩塩が好きで夢中でペロペロ舐めてるんだよ! そこをわたしがスッパスッパと角を刈り取っていったの!」
「ほう! ペリュトリアとは珍しい! あの角は対魔効果が高く加工して装飾につかったり馬車につけたりすれば魔物に襲われないと言う。しかし、あれの幻覚は凄まじく、生半可な実力じゃ近づくことも出来ないはずなんじゃが――」
「ちっちっち。そこはわたしの特殊魔法でなんなく回避できるんだよ! しょうがないな~特別に見せてあげる!」
セルシオンに褒めちぎられて機嫌が良いシルチーはペラペラとペリュトリアの対処法を喋っている。ギルドでは頑なに隠していたのに、こいつは分かりやすくちょろい。
そして調子に乗ったシルチーはズンドコ魔法を踊ってすうっと姿を消した。
「はうあ! シルチーちぁん!? き、消えた!? コポォ?」
「こ、これは、本当に凄いのう。気配もない。わしの魔力感知にもかからないとは恐れ入った……」
魔力感知なんてものがあるのか、この爺さんは高名な魔道師かなにかか?
「うごぶふぉ! なっ!? シルチーちぁん!?」
「あはははは! 隙ありー! あはははは!」
シルチーがセルシオンのわき腹を拳で突いて出てきた。
「こ、これは本当にたまげた! これが暗殺者だったら今頃坊ちゃんは死んでおったわい。ホッホッホ」
爺さんがそう言うと入り口の方からもの凄い殺気が飛んできた。振り向くとカインが凄く悔しそうな顔をして睨んでいる。
「これ、カインや。そう睨むでない。失礼じゃろう。こういう能力もあると知れて感謝するべきじゃ」
爺さんがその殺気に即座に気付き注意をする。カインは何か言いたげな表情で口を開け閉めし、何も言わず視線を落とした。
「でも、サトシにはバレちゃうんだよな~! どんなにうまく隠れても見つかっちゃうんだ」
「ほう。サトシくんはこれが分かるというのか!? 恐ろしい実力者じゃな。それほどの者は王国にもそうは居まい」
爺さんがそう言って感心した顔でこっちを見る。その目はこちらの底を見通すような雰囲気の力強いものだった。
「ジ、ジルベスター様! 騙されてはいけません! そいつらにしか分からない何か仕掛けがあるのでしょう」
カインが我慢できず口を挟んできた。護衛騎士としてさっきのシルチーの行動は決して許せるものではなかったのであろう。
「仕掛けなんてないよっ! わたしを見つけるのなんてパーシおばさんでも無理だったんだから!」
「パーシおばさん? パーシとは……パーシ・アステリオスのことかのう? あの王国一の戦士と言われたミノタウロスの?」
爺さんはパーシさんのことを知っているようだ。
「そうだよっ! わたしもパーシおばさんと一緒のチームに居たことあるんだから!」
そう言ってシルチーはカバンの中から勲章を取り出してババーンと見せ付けた。
「おお、これは! 勇鷲の勲章じゃ! これは凄い! 英雄様じゃったか! ホッホッホ」
「さすがシルチーちぁん! かわいいうえに強いなんて素敵でござる! 拙者惚れ直したなり~デュフフフ」
二人は驚き喜んでいるようだが、後ろの殺気は消えていない。
「ば、馬鹿な! 勇鷲の勲章だと!? そ、そんなやつより私の方が強いに決まっている!」
カインは余計に頭にきたようで今にも飛び掛ってきそうな形相だ。
その言葉に反応してシルチーの頬もみるみるうちに膨らんでいく。
「なんだとー! お前なんかに負けるわけがなーい! じゃあ勝負してやるー! わたしのチームメンバーのサトシが!」
「ぶっ!!」
俺は思わず飲んでいたお茶を噴き出してしまった。
「リーダーのわたしを倒したければまずサトシを倒してから来いー!」
シルチーは胸を張ってカインにその短い人差し指を突きつけた。
「こ、こら! カイン! 拙者のシルチーちぁんになんてことを! ひかえろ!」
セルシオンはふんぬぅと怒っているシルチーを見てあたふたしている。それを見てプルティアもオロオロしている。
その反面、爺さんは少し楽しそうな面持ちでこのやり取りを傍観している。俺の実力を少しでも見たいのだろう。
「はぁ~。しょうがないな……」
俺は大きな溜息をついて席から立ち上がった。
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